第57話 12 俺が理由を与えてやる(part1)
(12)
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行動を起こした後に『やはり衝動的過ぎたか』と後悔することはだれしもあことだろう。しかし初めてしまったことに対し、選択をなかったことにすることはできないものだ。
「これを。これが君が来てくれた時のために用意していたものだ」
彼に渡されたのは1辺10センチの立方体の箱らしきもの。
「使い方は簡単だ。君が必要だと思ったときに、その箱に願うだけでいい。自分に迫る脅威を倒せと」
その会社があった場所はかつて問題を起こした孤児院があったところだ。外からは2階建ての普通の会社にしか見えなかったが。中はなぜか30階立ての高層ビルになっていた。
その非常識的な空間を見て思う。
もしかしたらここはヤバいところなんじゃないかと。自分が首を突っ込んではいけなかったかもしれないと。
「君が不安に思っていることは分かるよ。確かにこれは京都の今の法律では犯罪になる。しかし、悪名に少し耐えて欲しい。間もなくその法は機能しなくなる」
「なんで?」
「理由はもう君も見たと思うが。今の治世を担う者にこの状況を打破する力はない。京都はまもなく新しい指導者とルール迎えることになる。その期間は荒れるぞ。君は今日みたいに災害に対して無力でありたいわけじゃないだろう?」
確かに、それを願ってこの人の下へと来たのだ。大切なものはもう失ったけど今回は幸いにも失いたくない人は失わなかった。
ただ不安は募る。幸運や奇跡というのは二度はないもの。何かしなければ今度こそ、失ってしまう。
彼はここに来た後悔の念を、それを理由に封殺した。
「私は悪とののしられようと、民を守る術を提供しよう。ただまだ実績と信頼がない。誰かがこれを使い、広めなければならないんだ。安全性もまだ問題あるし、使用者のデータがもっと必要だ」
「俺にそれに協力してほしいんですか?」
「話が早いのは助かる。君は聡明だね。だが、無理に押し売りする必要はないよ。ここだ、と思ったときに他者配ってくれると助かる」
大丈夫だろうか、と不安な気持ちは、
「私にも君にも、守らなければならないものがある。今こそ行動するんだ。行動せずに後悔する前に」
まっすぐと彼を見る瞳の奥に見えた誠実さに打ち消された。
彼は覚悟する。もう戻らない。これで正しいはずだと。
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レイと合流した。
「礼、大丈ですか? 怖い顔をしてます」
「大丈夫だよ。ただちょっと自分が情けなくてね」
俺はあいつに何かあったら仲違いをしても止める覚悟だったのに、結局この結果とは情けない限りだ。
言い負かされたのは恥ずかしい限りだが、それでも俺はハッシーのあれは良くないものだと思う。ただ感覚というのは証拠になりづらいな。
「それよりも、俺呪符に呪力流し込んでたんだけど」
「それは、すみません。こちらもトラブルが」
レイから簡潔に事情を説明された。
まさかとは思うが俺がみんなに見守られてたように、ハッシーも密売組織にマークされててそれで気が付かれたんじゃ?
とは言ってもハッシーがもういないし、既にほかの人は嵌められたらしい。気づくのが遅すぎた。
ならまずやるべきことがある。気持ち切り替えないと。
「援護に行こう。みんな大丈夫だとは思うけど。一番近い安住から援護するべきだ」
「はい。わかりました。礼、けがは?」
「俺は大丈夫。ぶっちゃけ邪魔されてただけだからな。すぐに行こう」
考えなければならないことは後だ。今は仲間の救出に行かないと。
まっすぐ伸びた白い帯のような光が、何本同時に一瞬フラッシュする。
瑠璃色に燃える部分と黒の外套身にまとい、頭に同様の外見の兜をかぶりながら、手から伸びる瑠璃色の炎の刃をで、白い帯の、おそらく斬撃の帯受け止める2体。
これまでの経験から、炎を使っているのは、リバーンカンパニーからの刺客なのだろう。それに対し、
「先輩たち……?」
安住が呼んでいたのは、前にいろいろあった時に顔を見たことがある生徒会執行部と風紀委員だった。
ただ、だいぶやられてる。安住がやられている隊員かばいながら敵の攻撃を引き受け守っている。
そして残り元気なのは残り2人。現生徒会長景浦先輩と、おそらく生徒会つながりで巻き込まれた明奈だった。
白い帯の斬撃は一振りで数本出ていた、1対4の手数不利の接近戦をなり立たせている。相手が2体程度なら同時に捌き、機を見て、もう片手で持つ拳銃から銃弾雨を降らせ、同時に仕掛けていた爆弾を爆裂させ、隙をさらした2体を撃月と強力な銃撃で絶命させた。
景浦会長は水色のドレスに変身すると、水でできた刃が敵に襲い掛かる。景浦会長の精密かつ強力な剣戟と一緒に襲うものだからどちらかは防ぎきれない。背後からの斬撃受けそうになったと景浦会長はまた変身。鎧来てその攻撃を受け止めると、大太刀の回転切りで1人を仕留める。
炎を宿す敵は逃げて行った。
「よく頑張ったな」
「この程度なら」
戦いが終わりこちら気が付いたのか、明奈がこちら手を振る。彼女をねぎらう前に安住訊くべきことがあるな。
「傭兵ってこの人たち?」
「お前がついていてくれたのは助かった」
景浦会長は安住に物申したい、と顔が言っていた。
「お前。私はともかく。学校の貴重な対外戦力を勝手に使わないでくれないか」
「俺はちゃんと報酬を用意した。つられたのはあいつらだ」
ぎろり。
応急処置済みとはいえやられて動けなくなったと思しき学校の先輩たちは、会長のひとにらみでしおしおになってしまった。会長の怖さがうかがい知れるな。
「相変わらずいい腕だな。景浦」
「一般人の妄言につぶされて学校から逃げたお前に褒められてもな」
あれ……もしかして、そんなに仲良くない? 安住から過去を聞いたときにはそんな風には見えなかったけど。
「私はこの夏、数人の有志と一緒に白百合の会の調査をしている。明奈もその一員で最近一緒に行動することが多くてね。こう見えても忙しいんだが?」
「なら、なんで出てきた?」
「お前が助けを求めてきたというのがひっかかったんだ。相当、手を焼きそうな案件だと思ってな。いかにほぼ絶交状態と言えど、私の目に入ってから私が無視したせいで死んだというのは嫌だからな」
「正直助かった。だがここまで来てもらって悪いがこの件は想像以上に厄介そうだ。勝手な要望で悪いがお前は手を引き、自衛のみを心がけろ。あとは軍で受け持つ。報酬は後でカタログか現金で選ばせよう。じゃあな」
安住は言うべきを言い終えて満足したのかそっけなく振り返る。景浦会長は『呆れた』と言わんばかりにため息。
「安住。まだ死人への誓いを果たすことにこだわってるのか?」
「当然だ。もう終わった話を繰り返すな」
めっちゃピリピリしてるんだな……この2人。
「夢原さん。レイさん。君たちも大変みたいだ。君には借りがあるからそれを返せればいいんだが」
「いえ、白百合の会も怪しい組織ですし。先輩たちはそっちに集中してもらって。解決すれば、2学期以降安心できますから」
「そう言ってもらえると助かる。学校に悪影響を与えそうな案件だからな。『影』との関係もつかんで御門家や軍を動かす材料はつかんでやるさ」
明奈が関わっている理由もはっきりした。
て、やばい、安住が行っちゃいそう。確かに今は任務中だし、情緒に欠けるとかいう指摘はご法度か。
「すみません。失礼します」
「ああ、じゃあまた」
先輩に挨拶をしてすぐに安住を追いかける。
(part2へつづく)
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