第50話 5 使徒(part2)

「1つ訂正させてもらう」


 一番背の高いのが機械の体じゃない人型の男。これは分かる。おそらくこの男は人間ではなく、神人だ。


「伊達は人間を下に見てるんじゃない。選ばれし者が生きるに値する。伊達様の理念だ。ここに入れられているのは選ばれなかった者だよ」


 体は、ボディラインが確認できるぴっちりとした黒い鎧に覆われている。金属製? だと思うけど、その鎧からは以前見た伊達の大天使と同等の力を感じる。


「まったく。朝から踏んだり蹴ったりだ。お前らはどうしてこっちに来た。なぜあの女の方を狙わない?」


 あの女……? なんの話だ。


「ここが悪事の温床になってるってわかれば潰しに来るだろ?」


「会えて光栄だよ。神人殺しの風弓使い。俺は魔人武装隊10位。黒鉄くろがねだ。それで、どうしてここがバレた?」


「派手に逃げたろお前。あとを追ったんだよ。てかやりすぎだお前ら。勝手に基地改造までしやがって。ここにいた腕輪使いにしろ、そしてそもそも軍の中継基地占領にしろ、無罪とか通るわけないよな?」


「思ったより驚いてないんだね。俺たち伊達と『影』がつるんでるの」


「ここを調べ上げれば黒確定だからわざわざ虎穴に来てやったんだ。その情報と真偽があるのとないのとじゃ、対策の立て方が違うからな」


 向こうの呪力が高まってきている。空気がひりつき始める。


「つまり君たちがここに来たのはその答え合わせってこと。なら、正解と言っておこう。伊達は『影』と組んでいる。そしてその前線基地の1つがここだ」


「1つってことはここだけじゃねーのかよめんどくさい」


 静かな会話のやり取りが続く。魔人武装の男はおしゃべりが好きらしい。隣の緑の機械の体を持った存在に

「黒鉄様。頭が高い人間は私が殺します」

 と言われても、

「まあ待って。生かして返さなければいいんだ。野良猫に気分で話しかけたいときもあるだろう?」

 と攻撃を一時止めるように制止している。


「最近は反乱が問題になってたろ? あれは『影』のせいに間違いない。あまり使われないこの第6中継基地にこっそり集まって鬼は死ねばいいのにと裏口叩いてた連中。それを見た女神がここを無血開城した際の交渉に、『手段』をやる、と唆した。俺に地下をよこすという条件でね」


 あいつら、反逆軍なのに。そこまで鬼が嫌だったのか。


「伊達は選民思想だ。『影』の言う神人の治世の崩壊の先、神の核を用いてこの世界に新たな法を敷き、悪性なき世界に生きるべき人間のみを残す。いいじゃないか、素晴らしい。俺たちは感動したよ」


 レイがあきれ顔になって言う。


「愚かですね。あなたたちは神人です。神の核は最後に死ねと、あなたたちに言うでしょう」


「そうだな。それで構わないよ?」


「はい?」


「歪み、歪み、歪み、人間社会は歪みが上に在りやすい。だからそうならない世界になるよう、裁定者の代わりに上になる。それが伊達の原則だ。それを世界レベルでやってくれるのなら、俺たちじゃなくていい」


「まるで自分たちが超越者みたいな言い方を」


「話を戻そう。影の『女神』に神の核を与えるために必要なキーはやはり鬼娘である君だ。とりあえず苦労して軍の地下の一室と旧平安神宮にトンネルをつなげた。布石を打っていたドクロさんには感謝してるよ」


 そこでもその名前出てくるのかよ……。あのドクロ、どんだけ仕事してたんだよ。


 ん? 向こうの神人が俺を見ている。


「なんだか、こうしてここで君と相対するのは不思議な気分だ。連れてくるんじゃなく。自分でここまで来てくれるとは」


「何を言ってる」


「俺は正直者だから隠し事はしない主義でね。せっかく機会に恵まれたのなら話をしよう。ここ数日、軍で起きた事件はすべて『影』と俺が仕組んだことだ」


 ここ数日というと、インターンが始まってからあたりか?


「どういうことです。なぜ私たちを狙うのでしょうか?」


「神の核を手に入れるうえでやはり君はキーパーソンだ。ゆえに手に入れておきたい。それはどこの組織もそうだろう。御門だって私利私欲のために君に近づいたと俺は思っている」


「私を捕まえても神の核は手に入りませんよ」


「他の神人は自分が神の核を手に入れるためだろう。だが俺たちと『影』は自分が手に入れようと、君が覚醒しようと、どちらでもいい。それで望みが叶う」


 本気か。だめだ。それはだめだ。やっぱりあいつらは敵だ。


「せっかく要塞の地下とトンネルをつなげた。インターンに来る君たちを自然な流れでさらうために、まずはお友達を始末して、そのお友達に変装した人に地下室のトンネルに連れて行ってもらう予定だった」


 は? おい。それって林太郎のことじゃ。


「失敗したんで、インターンの入口に人員を配置して、無理やり誘導する作戦も勘のいい君たちには通じなかった。あれは強引だったね。だからこそ成功しなければならなかったのに、残った結果は軍本部に『隊員の中に裏切り者がいる』という決定的事実を残すだけになってしまった」


 あれも、お前らなのか。


「それだけならまだしも、その後、当初の予定で君のお友達に化ける予定だった頼れる変装技術を持つ狸の1人もその夜に始末されたと聞いたときには、あまりのの仕事の早さに感動したものだよ」


 ――レイが跡形もなく消したあいつのことなのか。


「早急に計画を立てなければ、とこの基地で策を練っていたら今度は旧平安神宮に隠したトンネルが見つかった。なりそこないに目をつけられ他とは運が悪い。思えば彼女は不思議と神人の邪魔をしたり人間を助けたりと興味深い行動をしているね」


「なるほど。それで3日目の凶行に出たわけですね」


 え、どういうことだ。まだあるのか。


「腕輪持ちが暴動を起こしたのは、まあ地下室のトンネルを閉じるためなんだよね。残念ながら彼らには捕まってもらうか死んでもらうことになったが、鬼を殺せーっていう過激派の使い道としては正しいだろう」


「組んだわりには冷待遇ですね」


「彼らは腕輪をもらって喜んでいたけどねぇ。これで自分たちが鬼を殺せば世の中平和になる、と本気で信じていた。ピュアな心を持ち主だよ。彼らの尽力もあって、いくつかの計画にチャレンジもできた」


「トンネルを閉じるだけに飽き足らず、ですか」


「俺たちはここで作ってた機械兵の実戦実験。『影』は神の核への道の捜査。まさか君たちが裏口から飛んでいくとは思わず当英君は困ったそうだよ。彼もまた飛ばされたみたいだけど、あれはまだ理由不明なんだよね」


「神の核を奪うつもりだった?」


「まずは下見は重要だろう? 最も彼にとってはエキサイティングな下見になったことだろう。当初の目的は果たした。旧平安神宮の便利な抜け穴と減った戦力以外は目的を果たしたと言えるだろう」


 向こうの魔人武装の敵は俺をもう一度見る。


「分かっただろう。最初は俺たちがキミを追い詰めるつもりだった。でもそれは防がれ、何の因果か、今度は俺たちが追い詰められる版になり、その猟犬の中に君がいる。獲物を狙ってあきらめた側の俺が今度は獲物に狩られそうというのは、なかなか刺激的な経験だと思わないかい?」


「お前が、今までの事件の黒幕だったのか」


「だが、今朝の事件は話が別だ。さっき言っただろう。なんでこっちに来たって」


 レイが尋ねる。


「どういうことです」


 しかし、今まで饒舌に語っていた男は、急に態度を変えた。


「それを語る必要はないだろう。ここで話しても意味はない。おしゃべりの時間は終わりだ。ここからは、楽しい戦いの時間だ。俺も俺の周りに瑠可愛い使徒も、そろそろ我慢の限界だ。敵を排除しなければ。とね」


 戦い。


 その単語が出た瞬間、この場の全員が武器を構える。


 が、レイ以外が炎のバリアに閉じ込められた。


「レイ!」


「私に任せて下さい」


「俺もやる。1人で戦わせるつもりは」


「相手は全員が神人と同等です。礼には危険です。特に」


 レイが見ているのは神人の隣にいる機械の体を持った人型の兵器。


 あれが何か。それは向こうから語られた。


「伊達には魔人武装以外に使徒というとても強い機械兵がいる。今回は4人でやらせてもらうよ。まあ伊東の大天使と同じようなものだとおもってくれ」


 あのレベルが伊達にもいるのか……。


 あれ、和幸さんがいない。


「そうだな」


「え、なんで」


「これくらいのバリアは通り抜けられる。神人は俺がやる。使徒を頼めるか?」

(第51話「神人と戦うのが守護者の役目でね」につづく)

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