第49話 4 守護者と魔装と魔人武装(part2)
「負担最前線で戦う幹部戦闘員は5人。今日はいないけど、俺らの部隊の下っ端はいる時もある。でも下っ端は基本神人との戦闘には出ないからな。基本は5人と隊長で神人の組織に行くからな」
「え、危険すぎでは?」
「そんな無茶してるから独立魔装部隊、とくに魔装幹部は1年でメンバーの増減、減ばかりが起こる。今残ってるメンバーは瑠唯はまだ1年程度だが他は2年以上もってる稀有な年代だな。古株の俺も驚いている」
直接的な表現を避けているのはこれから任務だからだろう。少数精鋭で神人と戦いまくってるから犠牲者も多いんだろうな。
「どうしてそんな危険なことを」
「俺は昔の仲間がいた場所で最後まで戦いたいだけだけど。他は、自分の命を犠牲にしてでも、神人に一泡吹かせないと死ぬに死にきれない炎を心に秘めてる。だから俺らは正義のためというより自分の怒りをぶつけたいがために戦う」
なるほど……今は愉快に振る舞っている平沢さんや隣で作業している瑠唯さんも、神人と昔何かあったってことなんだな。
「和幸先輩、ずいぶん僕らのことを美化して言ってますね。気に入らない相手に暴れないと気が済まないヤンキー集団だって言えばいいのに」
あ、瑠唯さんがしゃべったと思ったら、この子たぶんズバッというタイプなんだな。
反論は宗一さんから。
「突撃だけしか能がない死にたがりじゃないだろ。独立魔装部隊は、人間にはオーバースペック気味の専用武装である『魔装』を持たされてるんだから、お前たちは特別待遇だ。身を粉にして働けよ?」
「ええ? でもやってることは特攻に近くないですか?」
「だからお前の魔装があるんだろう。人形師は俺たちの生命線だから、特にお前は特別待遇じゃないか。必ず護衛がいる」
「その分ブラックじゃん。休みなしとか働き方考えろよ」
人形師。レイは驚いているけど……。説明プリーズ。
「私たちが良く使うジオラマシミュレーションは自分の分身の人形に自分の意識を送り戦う仕組みですが、人形師がいれば、それを等身大の私たちで再現できます」
「そうそう人形師の仕事は人間大サイズの人形を作り、そこへの意識伝達の保護と援助を行うこと。つまり、ジオラマシミュレーションみたいに一度死んでもいい状況を作れるんすよ。僕ってすごい」
それはすごい。
「でも、なんで軍全体でそれを採用しないんですか?」
その質問には和幸さんが答えた。
「時間とコストの問題だ。人形師は高度技術でなり手が少ない。3日かけて1体が限界だ。量産化はまだ実現できていない。それに少し欠損するだけでその人形は次は使い物にならない消費物。全員には間に合わない」
「それにこれなりたい人全員がなれるわけじゃない。守護者のみんなの一芸と同じように、他の人はそうはできない特別な技術ということ。ゆえに特別。僕ってすごい」
そうか……世の中そう都合のいいことはないんだな。そりゃ確かにさっきから最後に僕ってすごいと自画自賛しているけどそう言いたくなるのもうなずけるな。
「お前ばかり自分の武装を自慢してずるいぞ。俺にもさせろ」
「うわ、先輩ナルシストですか」
「てめえはったおすぞ」
なんか。
「この人たちが少数精鋭部隊という感じがしない。スマートさが感じられないな」
そう、それ。
「お前ら言われてるぞ」
「うるせー。鈴村さん。俺らにスマートさは似合わねえってわかってるだろ。ほら俺の武装は」
そこから自慢話が始まった。しかし、俺も男の子。そういうのは全く乗り気じゃないわけでもない。一方メンバーの都合上紅一点となってしまったレイには退屈な話かもしれないな。
――いや、思ったより興味深そうに見ている。高須君の方が興味なさそうだな。
「そろそろつくぞー」
あれ?
距離としてはまだ800メートルくらい離れてると思うけど。ここからは徒歩で?
「用意した人形に異常なし。全員のバイタルに異常なし。意識接続保護開始。隊長の指示があったら全員目を閉じて。人形にみんなをつなげるよ」
「今回、瑠唯の護衛で俺はいけない。和幸、現場指揮は任せるぞ」
「はいはい。じゃあ全員。後ろのベルトに体を固定しろ。制限時間は50分。その間体はこの車両に預かるぞ」
その言い方。まさかここで意識を人形につなげるのか。
でもここで人形につなげちゃったら、この車はどうするつもりなんだ。せっかくアピールで、
「目をとじろー」
うぐ、有無を言わせないみたいねこれは。
とりあえず独立魔装部隊を信じて、言う通りにベルトを固定し目を閉じた。
「そのまま開かず。3、2、1」
開かない。なんか一瞬頭がふわっとしたけど、いう通りに。
「どうぞ。目をあけて」
まだ車の中。マップを見るともう目的地のすぐそばで止まっている。
周りを見ると違和感。瑠唯さんがいないけど他が同じ。
「転移完了です。皆さん。すぐに立ち上がって、体調に問題がある人は申し出てください。皆さんの体本体はこちらで預かっています」
へ? え?
いったい何が。
「あらかじめ下っ端に運ばせてた人形に意識を移した。今本物の体は独立魔装部隊幹部のみが知る隠れ家に止めてい車の中にある」
体を動かしてみても、やはりジオラマシミュレーションのときと同じように違和感がない。でも大きさは元のままなんだな。
「さ、外に出るぞ。もう中継基地は目の前だ」
車から出ると確かにもう門の目の前。
門の向こうからはなにごとか、と軍の制服を着た人が何人かこっちに様子を見に来ている。
和幸さんが唐突に誰かと通信を始めた。一体誰と。
「あー。中にいる隊員? そこの責任者を出せ。なに、出られない。じゃあすぐに伝えに行けよ。独立魔装部隊だ」
もう? 心の準備とかなしか。ああ、なるほど。ちゃんと宣言してからってことか。
「ああ、代わる必要はない。お前は送られた画像を見せて伝えるだけでいい。令状はある。死にたくなかったら生き延びろ。今からここを制圧する。なに? 猶予? あるわけねえだろそんなもん。お前らは疑われた時点で終わってる」
俺と高須君はドン引きだ。
あの、それってもう突撃するってことじゃ。
「高貴」
「ほいきた。お前ら! 遅れるんじゃねえぞ!」
出た。2日目に俺たちを苦しめたあの大砲だ。
エース・ブラスター。
さっき説明を受けた内容によると、連射性能が高く、威力もこの連射性能の持つ割には著しく高く、貫通性能は宗一さんの〈夜光〉に匹敵する。
そんな破壊兵器を門の前からいきなり。
「突入だ! 最速で建物に行くぞ!」
「いっくぜえぇえ!」
ガガガガガガ!
耳が吹っ飛びそうな騒音と共に砲弾は発射されまくった。
障害物を破壊し、起動した敷地内の迎撃システムを破壊し、唐突に襲われて困惑しながらシールドを展開した警備の人を破壊し。
カチコミ……なんじゃないのこれ? 正式な組織がやることじゃない気がするよ。
でももう始まってしまった。
「行くぞ」
東堂さんや安住は全く驚いていないので、たぶんいつもののことなんだろうな。
深呼吸。
心を落ち着けて目的を思い出す。
……よし。
剣を抜き、弾をどしどし撃ちまくる先輩の弾幕を回避しながら、建物へと突撃していく。
向こうも覚悟を決めたのか。
基地から出てきて、こちらに反撃してくる人がある。いや、機械兵もいる……?
「生意気に壁はりやがって。無駄無駄ぁ!」
え、あの先輩、あの大砲使いながら空中戦もできるのか、上からさらに弾を振らせて敵を破壊しまくっていく。
やっぱり伊達もいるってことか。
「あーあ。これで言い訳の余地がないな」
和幸さんがランパートで相手の攻撃を止める。
「ああ。反撃してきた以上、いいな?」
「ああ」
安住が飛び出そうとしているが、それを東堂さんが止めた。
「俺が黙らせる。その後すぐ走れよ」
「了解」
東堂さんが飛び出すと共に、剣を構える。
「剣に……電気が」
レイの声が聞こえて俺も初めて気が付いた。そして高須君が『これだ』と言っていたので。
たぶんこの後に放たれるのが。
東堂さんが敵の攻撃をくぐりぬけ、剣を振った瞬間。
振った瞬間だ。それと同時にしか見えなかった。200メートル先にいた敵を両断した。
電光の如く一瞬で攻撃を伝播させる〈電光撃月〉。綺麗に機械兵が斬られ、爆発を起こした。
平沢先輩も東堂先輩も、本来はそれを姉貴レベルでの動きをしながら放てるんだから、そりゃ強いだろう。独立魔装部隊に守護者。
「走るぞ!」
向かう先は、破壊された機械兵の爆炎の中。ちょっと怖いけど、それ以上に心に燃える何かのために。安住の後ろを意を決して走り出す。
(第50話「使徒」につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます