第49話 4 守護者と魔装と魔人武装(part1)

 (4)


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 その手に剣を持ち、戦う少年少女たちに正義の志があるか。


 その問いに一般の人たちは多くが『そうに決まっている』という。京都の街の法制度上、彼らには多くの報酬が行くことになっている。


 ゆえに、彼らには責任があって当然なのだと。お金をもらって戦う以上、戦えない弱い民である自分たちを守るという正義こそが至上としてあるだろうと。


 その認識は半分間違いではないべきだ。事実御門家でも反逆軍でも、報酬がある以上、責任があるという話はしている。


 ただ、全員が正義のヒーローみたいに世のため人のため、自分たちは命をかけて当然なのだ、という意識でやっているわけではないだろう。


 悪霊に大切なものを奪われ心に復習の炎を宿している者もいる。


 あるいはお金が必要だから、という理由で無理に戦っている者もいる。


 単に戦いに魅入られたから、だれかへの恩返しのため、あるいは以前安住が言っていたように『自分で自分の命に責任を持ちたい』などの個人としての考えかたからこの職についている者もいるだろう。


 彼らはおそらく最善を尽くして人々を守ろうとするが、人々を己を犠牲にしてでも守らなければならないという意識はなく、たとえ悪を滅ぼせずとも己を命を守ることもある。彼らとて人なのだ。


 決定的な溝であり、それは軋轢になり得る。


 では仮に。悪を滅ぼせなかったと仮定したとき。


 彼らは責任を果たせなかった悪と断定できるのだろうか?




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 1145。


 突入まで15分という段階で俺たちは独立魔装部隊の車両に乗せられる。今回の突撃は、軍の治安維持隊がやっている方式。捜索令状と逮捕令状を持った法的強制力による有無を言わせない突入となる。


 そのため、軍が保有する正式な乗り物で向かうのは、正当な任務というアピールとして最適らしい。


 後部座席の部分が通常の前を向くものと違い、車両と右と左に座るところがあって、そこに俺たちは座っている。俺の右隣りにレイ、左隣に高須君、そして安住が次に並びその横に俺に過去いじわるした経歴の2人。


 向かい合わせに東堂さん、和幸さん、そして先ほど和幸さんの隣に座っていた男2人。


 1人があの大砲使いで平沢高貴先輩というらしい。帽子をかぶっていてそれでもぱっちりおめめで陽キャだろうと見た目で分かる目力だ。


 そしてもう1人が少し若そうな瑠唯るい先輩。こちらは顔がやや女顔、基本的に初対面の半数が女と間違えるだろう見目だ。今はラップトップ型のデバイスで忙しそうに何か準備してるので、何をやっているか気になる一方話しかけづらい。


 平沢先輩は2日目にやりあってたのもあってすぐに会話することができた。和幸さんが斬られたのをめっちゃ馬鹿にしてて少し気の毒だったが。


「一ノ瀬は強いよ。すぐにでも俺の東堂隊に入ってほしい位だ」


「いいや。あいつは仮に軍勤めになったら独立魔装部隊がもらう予定だ」


「鈴村さん。まだ戦力が欲しいのか。今のメンツでもだいぶ強いだろう」


 運転席から声が聞こえてくる。宗一さんが今は運転中なのだ。


 東堂先輩は俺を見てにこにこしている。ちょっと怖いのでその理由を聞いてみた。

 

「やはりこう見ると雰囲気が似てるな。ああ、あいつとバチバチにやりあっていたころが懐かしい」


「東堂先輩は姉貴とはどういうご関係で」


「ライバルだな。初期からずっと公式評価戦で戦ってきた。そしたらいつの間にか、偉い立場になってしまって大変だよ。スタンダード上位くらいの頃に一番やりあってたな。そのころに戻りたい……」


 高須君から聞いた前情報曰く、東堂先輩は結構バトル狂いらしい。暇を見つけてはジオラマシミュレーションに潜り戦いまくっているそう。


 高須君と一ノ瀬先輩も2日目の活躍を見られてしまい空き時間にたっぷり戦闘訓練に付き合わされたのだそう。それはそれで大変だったろうな。


 やはり守護者として実力は本物。あの高須君が装備の縛りなしで本気で戦って一本も取れなかったのだから、その実力は本物だろう。


 曰く「撃月が速すぎて回避できない」のだそう。それがこの東堂先輩を守護者たらしめる理由だと語った。


「礼さん。君の話も希子からよく聞いている。ブラコンが過ぎて俺との戦いより優先して家に帰ってたあいつにはたまにキレそうになっていたが。君のような面白い家族がいたら放っておけないだろうと最近は納得する日々だよ」


「え、俺面白い……?」


 そんな見られ方したの初めてだが。あ、こらレイ。ダメです。ちょっと不穏なこと言いそうだからって、番犬みたいに睨まないで。


 東堂さんの話に和幸さんが同調してきた。


「そりゃ面白いだろ。可愛い女の子に助けてって言われてほいほいついていったとか。下手すれば路地裏でパクリだぜ。警戒心0から始まって、一般人だった男がここまでやってるんだ。お前の美徳だと思うよ」


 からかわれているのか褒められているのかいまいち反応に困るな……。


「それ、褒めてます?」


「半々」


「ええ……」


 喜んでいいのかこれ?


「任務の前に1つ質問があるのですが」


 そんな困った俺を見てかレイが話題を強引に変えてくれた。一応任務前だから、気になることを解消しておくのは重要だ。先輩たちもそっちに意識を傾けてくれた。


「たったこれだけの人間で魔人武装がいるかもしれないところに突撃するのですか? 正気を疑う戦力だと思います」


 魔人武装。12の神人の1つである伊達家が使う機械兵の技術を用いた神人を強化する戦闘支援装備。パワードスーツというのが一番イメージしやすいだろう。


 ただでさえ自分の力のみで強力な力を出力できる神人がそんな装備をしているんだ。レイの危険視は正しいと俺も思う。


「うーん。むしろいつもに比べて人数的には多いぞ」


「はい?」

(part2へつづく)

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