第45話 4日目:独立魔装部隊と合同任務
(序)
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彼がそれを自覚したのは、夢原礼がまさかの姿になってからだった。
輝く金色の髪。ぱっちりとして、清々しい印象を与える目元と表情。エネルギッシュな働く姿。それでいて優しい。
その姿になる前も友愛を感じていたが、それが恋愛に変化し始めた。
そう。普通の人間で、思春期の男子ならば、可愛い女子を見て心を動かされてしまうのも仕方ないことだ。
心を燃やすような炎は人を狂わせるには十分。そしてその発露は決して他者が原因ではない。
ツミな女と言われても仕方ないかもしれないが、実際には彼女、夢原礼には何があろうと罪はないというものだ。
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姉貴が出前の弁当を頼んだので外に受け取りに行ってこい、とのこと。なんと軍でも姉貴のパシリにさせられるというレアアンラッキーイベントで俺は受け取りに外へ行った。
昨日はあの後素直に寝たのでさすがに寝すぎだ。これ以上ないくらい体が活動的になりなさいと訴えてくる。それくらい寝起きは非常に良かった。
しかし姉貴が出前を取った店が結構意外な店だった。
現在朝の8時30分。開いているのか? と不思議に思い、もしも来てなかったら知り合いに電話をしようと思っていたが、その知り合いが届けてくれた。
「先輩!」
「ハッシーじゃん。おつかれ」
「いやぁ、眼福眼福。朝からそっちの先輩に会えるなんて」
「なんだよその言い方。なんか久しぶりな感じがするなぁ。今日は馴染みの味で朝ごはんか」
そう。姉貴が出前を頼んだ先というのがまさかの俺のバイト先の定食屋だったということだ。
いや、ぶっちゃけあそこは一体何なんだろうな。昼は定食屋、夜は肉料理を提供する高級飲食店……朝は、出前を取ってる。
全部あのオーナーがやってるのなら、あの人いつ寝てるんだ……?
「先輩?」
「ああ。ごめん」
「疲れてるんすか? まあ仕方ないっすね。ここで今お仕事中となると」
「最近は顔を出せなくて申し訳ない。昼も結構大変なんじゃない? てかハッシーって朝からシフト入ってるんだ」
「入ったのはつい最近っす。もっとお金ほちいなって店主に相談したら、じゃあ朝のお弁当屋さんやってみる? って言われて」
「ええ……。あの人いつ寝てるんだ?」
「そうっすよね。朝も昼も夜も仕事してるみたいですよね。そう言われるとあの人の健康がちょっと不安に思えてきたかも」
「でも、朝昼のハッシーもだいぶ働いてるよな。俺もいないのにお疲れさま」
学校の途中は時間ができたらシフトで入るようにはしてたんだけど、期末試験と今のインターン期間は入れない。なので、厨房のハッシーには非常に大変な思いをさせていることだろう。
「いやぁ、先輩の姿を夏になかなか見られないのが、かなちい」
「なんだよそれ」
「やっぱり先輩のその姿は華があって俺も見とれちゃって。へへへ」
「なんでそんな話になるかな」
アイドルじゃあるまいし。俺が普通に働いてるの身てきゃーきゃー言う要素はないだろう。
「じゃあ受け取るよ。そろそろ戻らないと」
「ああ。先輩仕事中ですもんね。いつの間にかそっち側で活躍しててオレ少し寂しいなぁ。先輩がちょっと遠く行っちゃう感じがして」
「そんなことないよ。今度また遊びに行こう。インターン終わったら時間あるからさ」
「へへへ、約束っすよ。じゃ、これ。前払いでお代はいただいてるんで、そのまま持って行ってください」
袋を受け取るとハッシーはすぐに立ち去って行った。
すがすがしい朝に仲の良い後輩との再会。今日は1日ちょっとしたいい出来事続きで始まっている。
しかし、悲しいことに今日もこの後は不穏でよろしくないイベントが待っている。
4日目。独立魔装部隊との合同訓練。
独立魔装部隊というものを姉貴はこのように解説する。
『上位の神人と同様オンリーワンの武具を運用し、迎撃、防戦を主とする一般の隊とは異なり、独立魔装部隊は主に、神人への攻撃を主な仕事にする遊撃部隊』
もうこの台詞だけで危険地帯に突っ込むこと確定なのでアウト。
とてつもなく気が重い。まあ、それを言うなら1日目も突っ込んでいたけど。あの時は1日目でまでやる気と期待で満ちていた時期だったからな……。
いろいろ軍のことを経験した今はそれが意味することをはっきりと理解できるというものだ。
とりあえず袋の中身からいい感じのにおいがしてくる。
いかにバイトとは言え、バイトは意外にも店のちゃんとした料理を食べることは少ない。
そういう意味で、味見は何度かしたことはあってもちゃんと食べるのは貴重なイベントかもしれない。
部屋に戻る。
「おせーぞー」
腹ペコな姉貴とその他隊のみんなが座っていた。初日で一時医務室送りになった2人も戻って夢原隊総集合となった。
「姉貴はいつもここの頼んでるのか?」
「いいや。毎回決まってないけど、今回はたまたまわが妹がいるから、働いてるところのやつ頼んでみよってね」
姉貴が頼んだのは朝からエネルギッシュになれそうな牛焼肉弁当。いや元気すぎるだろ。
見ろクロハと如月の顔。マジぃ? という顔をしている。ほら林太郎だって。
レイは……ああ、目を輝かせてますね。心配なさそう。
「いいじゃーん。よおし食べるぞう」
こういう時に強制力抜群の上司というのは困ったものだ。
どれ……いや。意外に和テイストでなぜか食べやすいぞ?
「うそでしょ?」
「ん。うま」
ドン引きしていた2人もなんと箸が止まらない。マスターすごいね。
「いい。リピ確定」
マスターの料理を口にするのは久しぶりだった。良い。とても良い。おいちい。思えば、あの定食屋に行って初めて個々の料理を食べたとき。ここで働きたいと思ったのを思い出す。
「そういえば、夢原が学校以外でいるところあんま見ないんだよな」
「レイー、こいつってバイト先でどんな感じなのー」
あ、おいやめろ。きくな!
「レイは普段厨房で料理を作るお手伝いをしてますよ。でも巫女姿になってからはお客さんに料理を届けるようにもなりました。非常におもしろくないですが、レイは常連の皆さんにも人気で」
「もしかして看板娘?」
如月の台詞に姉貴が悪ノリ。目を閉じて、
「おお、見える見える。エプロン姿で笑顔を振り向いて男たちをその気にさせる魔性の女の姿が」
「やーめーろー」
その後は俺のバイト時の話になった。
アクマ眼鏡さんという奇妙な常連さん兼部活の顧問に始まり面白い客たち。そして俺の仕事ぶり。
非常にはずかしい……。
話に乗らず、しかし料理を味わう安住以外に俺は質問攻めにあうことに。
ご馳走様でした。
と手を合わせて、任務開始までしばしのリラックスタイム。なかなか憂鬱な仕事を前に現実逃避をしたいと心の隅っこでダダをこねながらイスの背もたれに寄りかかる。
その時。
電話が入った。
「ハッシー?」
軍のデバイスではなく、部屋に置いている俺の私物の連絡用。
同時に姉貴にも連絡が入ったようだ。
「どうしたのハッシー。急に」
返ってきた声が。
俺に異常事態を知らせた。
「せ。せんぱい。せんぱい!」
声が震えている。焦っているのが聞こえる。
「どうした。落ち着いて」
「店が……。店がぁあ!」
「ハッシー!」
「あ……も、もも。燃えて」
へ?
店が。
燃えている?
それを脳が受け止めたと同時に、これまで微笑んでいた姉貴が急にまじめな顔になった。
「夢原隊。準備。すぐに出ます!」
隊長モードになったのを隊員が察し、すぐにみんな仕事モードに切り替わった。
「どうしたんですか」
「街中で戦闘行為。人間狩りの恐れがあるわ」
「場所は?」
「それが」
俺の方を見る。
そして俺はそこですべてを察した。
インターンが終わったら顔を出そう。
そう、なんとなく思っていたその場所。少し楽しみにしていたのは、やはりここに少し愛着があったからだろう。
今、目の前でその場所が燃えている。
この勢いはもう跡形も残らないだろうと予感させた。
俺にとってかつての日常の一風景が消えていく。
(第46話「1 平穏は崩れる」につづく)
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