第1話 お友達って言ったら信じる?

 通常悪霊との戦いがあっても玄武家の力で橋は強化されており傷一つつきません。その橋が一部損壊しており、ここで行われた戦いの壮絶さを物語っています。






 朝の食堂で朝ごはんを食べながら公共放送を見ている。毎日の日課ではなく、単に気が向いただけだが、今日の目玉のニュースにはとても興味がある。


 あの大橋がまさか壊れる日が来ようとは。まあ欠けただけっぽいけど。


「玄武先輩が頭を抱えていましてね。なかなか見られない顔で得をしました」


「まったくあなたという人は……人の不幸を見て笑うのは趣味が悪いですよ」


「別に良いではありませんか。いっつも修行でいじめられてますし」


 へえ、炎雀さんほどの人でもバリバリ修行ってしてるんだな。玄武先輩が相手となるとそれだけで大変そうだ。


「やっぱり美麗から見ても玄武先輩はお強いのですか?」


「四方守護最強、歴代玄武の頂点。御門様も貴人もそうおっしゃっていました。私も、あの人に勝ったことは一度もありません」


 炎雀さんも相当強いのになぁ、玄武先輩しゅげー!


「ああやって苦しそうな顔をしているのを見ると、朝のお茶の味もより質が良くなるというもの。ふふ」


 レイがやれやれとため息をつく。


「おはよー」


「おはー」


 仲良く食事している俺たちの横を明奈が通り過ぎる。


 おや、ものすごく疲れているように見える。2つ先のテーブル席に座ったかと思えばそのまま机に突っ伏してしまったぞ。


「明奈……約束今日だけど、大丈夫なのか?」


 この後も授業がたっぷり残っている。だけど昨日徹夜なんじゃないかと思うレベルで疲れているように見える。


 てつや?


 さっきのニュースは深夜の出来事のこと。そしてあそこに夜なにかをしてましたと堂々態度に出している女の子。


 まさか……?


「なーんてな、あるわけないよね……」


 炎雀さんも俺の考えていることが分かったようで頷く。


「本当だとしたら興味深いけど。玄武家の決まり文句、玄武家が守ればこの橋も永遠安泰、をぶち壊した張本人ならぜひその時のことを聞いてみたいわ」


 なるほど。それで玄武先輩が頭を抱えていたのか。


「そういえば、あの橋は不思議な伝説があると、一ノ瀬先輩が昨日言ってましたね」


 部長が? 


 ほわんほわんほわんほわん。


『あの橋には奇妙な事件がいくつかある。例えば夜に、銀の髪の乙女を見た者は生きて戻れないとか』


『街に迷い込んだって話も。ただそれはただの妄言だとも言われているけど』


『白夜、今度行ってみようか』


『やだこわい』


 んわほんわほ。回想終了。確かに興味深いことは言ってたな。


「あの子、今日の夜にあなたとデートしに行くんでしょう? 大丈夫なのかしら」


「え、何で知ってるの?」


「私がレイさんの監視係だからです」


 聞いてないぞそんな話。てかレイがぷくーと頬を膨らませてご不満な様子。どうしたの?


「デートじゃないです。調査です」


「あら。若者2人、夜に逢瀬なんてそう見てしかるべきでは?」


 うわぁ、からかってるぞ。


「女の子同士だし問題ないですよ」


 レイ? 俺は男なのだが。


「あぁ……ふふふ」


 美麗様、意味深な笑いはやめてくれ。


「入口らしきところの確認に行ってたの」


 ひぃ! 


「何おどろいてるの? 心配してたみたいだから元気そうな姿を見せてあげようとしたんじゃん」


 気付いてたのかい。だってさっきまで机に突っ伏してたじゃないかー! あと元気そうじゃない。特に目のところがとっても眠いを主張している。


「眠そうですよ……」


「そう? やっぱ今日の授業休もうかな。体調を整えておきたいし」


 そんなに夜行きたいのか無理しなくても、とか思い浮かんだ俺の頭に新たに浮かんだ疑問があったので、それを訊いてみることにした。


「そういえばどこに行くんだ?」


「嵐山」


 ほう……ってあのニュースの場所にとっても近いですね明奈さん。え、まさかとは思うけど。


「昨日戦ったりとかしていないよな?」


「戦ったよ?」


「どちらで?」


「橋でちょっとね。あのドクロの残党か、新しく人員をよこしたかは分からないけど同じ組織の兵士だったから、戦わないという選択肢はなかった」


 え、てことは橋を壊したのは――。


「そんな……無事ですか?」


「レイは心配性だね。あの程度の敵なら大丈夫だよ。だけどもう危険だなんだって言ってられないと思う。ドクロの組織はまだ暗躍してるわ。幸いまだ人員が少ない今、一度は嵐山に訪れるべきだと思う」


 橋を壊すほどの戦いがどれほどのものだったかも気になるところだけど、なぜ嵐山かも気になってはいる。


「どうしてそこなのでしょう」


「私がなりそこないと友達で、向こうのお家に招待されたことがある。って言ったら信じる?」


 俺たち3人は信じられずに首を振る。だってなりそこないって悪霊の最上位で、一般論でいえば人間が関わったら一番危ない相手じゃないか。


 それとお友達って、本当だったらスーパービッグニュースだ。


 しかし、まあ。さっきの話は盛りすぎにしても明奈が悪霊と何らか関わりのある人間だとは信じてもいい。


 そうじゃなきゃ悪霊に関するところに心当たりがあるなんてないと思う。正直その言葉を前に聞いたのは、俺の部活の顧問にして教授をやっているアクマ眼鏡先生以来だ。


「うう……私も行きたい」


「だめだよ。もしも何かあったらさすがに責任が取れない」


「でもでも、もしかしたら私が行くことで何かあるのかもしれませんよ?」


「それは最終手段。下手につついて藪蛇だったら最悪の事態だもん。まずはレイと契約を結んでいるコイツを連れて様子を見に行くの」


「それは、まあわかりますけど……」


「あなたが暴走しないように、炎雀さんに面倒見てもらうんだから」


 ああ、それで炎雀さんが護衛……っていうよりお目付け役なのね。納得した。レイは結構行動力があるからなあ。


「ゆめ、夜の9時に渡月橋に集合ね。ちゃんとした武装をしてきて。あの巫女服がいいんじゃない?」


「ガチってことか」


 我ながら巫女服がガチとか、男は愚かもはや一般人を超越してしまっていると思わずにはいられないな。


 それにしてもそこまで言われるとは、なんだかちょっとドキドキしてくるな。






 夜。学校を出ようとすると、意外な人物に出会った。


 夜に良く目立つ白銀のふわふわヘアー。佇まいは意識していないにも関わらず美しくも隙がない。あと戦闘袴は体形をしっかり反映するので、胸がひと際目立っている。


「あれ、白虎先輩……?」


「来たのね。あら、似合ってるね」


 白い戦闘袴を着用し、袴にはすでに呪力の通った線が袴全身に張り巡らされている。ここからでも先輩の放つ呪力が俺の肌をビリビリさせている気がする。


「じゃあ、行きましょう」


「え? え?」


「今から嵐山に行くのでしょう? 御門様が護衛しなさいって。私はこっそり後をつけるよりは夢原ちゃんと太刀川ちゃんの2人、円のお友達と親交を深めたいわ」


 こっちおいでって手招きされて近づく。


 え? 消えた。


 むにゅ、と背後にひと肌の暖かさが。腰に手を回され、かと思えば俺の頭に優しく手をおき、左手で俺の腹をおさえる。


「円の言う通りね。あの子がハマるはずだわ」


 まさか俺の触り心地のことを言っているのか? あいつ余計なことを!


「でも先輩、本当に一緒に行くんですか」


「ええ、仲良くしましょ?」


 ただでさえなんかドキドキするイベントなのにこんな大物を一緒に行動するのか。なんだか、この先すごいことが起こりそうな予感がするな。


 実は夜になってから鳥肌が立っているのもあり、何かある、と思わずにはいられない。

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