Ver2.0プロローグ5(終) 魔”京”の神秘に迫ると決意する
案内されたのはまさかの学園長室。
久しぶりに生で御門さんを見ることになった。
「平気かい?」
事務作業を行う机の前に立って俺とレイを歓迎してくれた。
正直体をじろじろ見られるのは変な感じなのだが、呪符3枚を片手に精密検査をしてくれていると考えれば断るわけにもいかない。
玄武先輩と白虎先輩、背筋がピンと伸びている。いつもの余裕の態度はどこへやら。やはりこの2人を見るとこの人が御門家当主なのだと実感する。
問題なしの判断が下ったとき、レイは学園長に遠慮なく質問をぶつけるところから始まった。
「あの、十二天将を2人も出撃させるなんて。一体街で何が起こっているのですか?」
「申し訳ない。驚かせてしまったね。ただ僕としても今は以上に驚いている」
御門さんは事務机に載せている1冊の本をとると、俺たちに見せてくれた。
その本のタイトルを見た瞬間に、俺はびっくりした。そこには御門さんの手書きでこれまで確認されたなりそこないの記録がつけられている。
「普段僕は、四国に来た外来の神人の記録帳、そして京都のなりそこないが書かれたその記録帳を、いつも持ち歩いている。なにせ御門家指定の特級危険指定生物だ」
「特級ってとっても危ないってことですか?」
「もちろん。なにせその本に載っている敵が現れた場合は必ず御門家の十二天将か十二玉将、それか僕の認めた精鋭が必ず対処に向かう規定になっている」
ん? え。もしかして。
「今回先輩たちが来てくれたのって……」
「まあそういうことだ。いやあ驚いたよ。なりそこないの反応、詳しく調べたら近くに君たちがいたんだから。久しぶりに肝が冷えた。無事で本当になにより」
なりそこない。
人型悪霊を超える、京都発祥の悪霊の中の最高位の存在。
ここまでの話から考えるに、考えたくはないが真実は1つだった。
サキは――。
なりそこないだ。
「こんにちは」
玄武先輩が気付いて0.1秒。
あり得ざる侵入者の周りを障壁で囲んだ。見たことないほど濃い障壁だった。
「誰だい」
驚いているのは俺だけのようだ。レイも御門さんも白虎先輩も武器を構えている。
この場に急に現れたのは、あの伊東家の男が使っていた上級天使兵。だけど、なんか雰囲気が違う。
目がサキに似て黒く染まって服も、露出している部分の肌にも黒い線が刻まれている。
「わが主より手紙を持ってまいりました。そこのお2人に、お礼と、また会いたいとの旨が書かれていると思われます。主は楽しそうに呟いていました」
妙だ。雰囲気が違う。
こわい。
こわい。
こみ上げる呪力は俺の本能をヤバいほどおびえさせてくる。昔の俺では普通に耐えられなかったな……。
「主って、あの男じゃないのか……!」
** **
勝負は一瞬だった。上級天使兵は間違いなく。サキの首を狙った。
それを腕で受け止めようとした時点で神人の男は勝利を確信する。入ったと。
しかし。そこで信じられないものを目の当たりにした。
剣が折れた。
ありえない。どれほど強力な生物であっても自分の肉体を強化することはできないのがテイルを用いた戦闘での絶対のルール。攻撃が当たれば傷をつけられるはず。
男は眼鏡の位置を直すことで落ち着きを取り戻す。
(どんなトリックだ……?)
上級天使兵は自らの剣が折れた瞬間すぐに主の近くに戻って来た。本来であれば敵をすぐ殺せない使い魔は処罰対象だが今回は規格外の相手ということで水に流す。
「伊東の神人は野蛮な印象でした。初手で私を殺せなかったことに怒り狂うかと思いましたが。あなたは違うようですね」
主は剣を見ると、おそらく腕に触れたであろう場所が黒くなっている。それは触れるだけで呪殺を遂げるほどの力、ということはわかった。
「その手」
「ん? 見たいの? いいよ」
袴の腕をまくり、腕をさらけ出す。見えたのはただの人肌だけ。細工があるようには思えないが、それでわかったことがある。
(剣を折った力にはオンとオフがある。奴の虚を突けば殺せる。見極めろ)
サキには聞こえないようにその男は直接自らの使役する兵器に命令を送った。命令は受諾されたが、上級天使兵はその意図を察して反応は返さなかった。
「こんな夜に1人で歩くなんて不用心だよ。神人であっても」
「戯言を」
「聞いたことはないの? 京都には悪霊が出る」
「さっきみたいな奴だろう」
「中でもなりそこないと呼ばれる人間と同じ姿をした悪霊には注意するべきだって」
確かに聞いたことがあったが、伊東の上層部から聞かされていたのはそんな相手はレアだし、出現を恐れていては京都の侵略は進まないと。
「なるほど。俺は」
「運が悪かったね」
警戒する間もなかった。前に姿が見えているはずなのに声は後ろから聞こえる。
「きさ――」
サキは男に、剣を折ったほうの手を伸ばす。首を掴もうと勢いづいたその手は主をかばった上級天使兵の元に届いた。
上級天使兵はすぐに抵抗を始めようとしたが……。
「ガ、ガガガあああアア! ァァぁあぁああああ!」
それは許されない。苦痛を示す叫びが夜は良く響く。
サキは笑っている。
手から。
上級天使兵の体へ。
ぐちゅ。ぐちちゃぐちゅぐちゅぐぎゃ。
黒く太い線が体を塗りつぶしていく。ゆっくりと体全身に広がっていく。
「ギャアア、AHAHAぎゃGAYAA」
見たことのないバグを起こしている自分の使役兵を見て、これ以上は危険と判断する。
天使兵にはもしものことがあったときに自爆機能がついている。
最悪天使兵は自ら命令通りに動き最後に大爆発を起こす爆弾として運用ができる設計になっているのだ。
「何……?」
機能しなかった。自身の天使兵に仕掛けた爆弾はいくら起動プロセスを実行しても起動しない。
「だめだよ。人間をこんな使い方したら」
「AHAHAHAAHAHAHAHAHAAHAHAH」
完全に壊れ、幸せそうに白目で地に横たわる兵を見てその男は初めてなりそこないを知った。
其は人の枠組みにいる者が相手をしてはいけない神秘の一角。
「あーあ。ちょっとキレちゃったかも。彼女、本当は優しい女の子だっただねぇ」
「……まて」
「人間に戻せないほど狂っちゃってるけど、私の眷属になれば少しはましになってくれるといいな。ということで、それを最後に爆発させてころそーとした君は」
「待ってくれ」
「裁きの対象と認定します。本当は人を正しく統べるはずだった君たちが壊れた責任を取らないといけない。神の核はそう仰せですので」
男は武器をとった。
敵に当てた。
壊れた。
手が伸びて来る。
だから逃げた。
つかまった。
ぐちゅぐちゅ、ぐちゃぐちゃ。
ウレシイ。ウレシイ。
ぐちゅぐちゃ。
ちがう。ちがう。と首を振って、脳に何かが入ってくることを一瞬感じた。
「AHAHAHAHAHAHAAHAHAHAHAHAHAAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAAHAHHAHAHAHAAHAHAHAHAHA」
最後にそう言って、男は死んだ。
** **
「では、失礼します」
上級天使兵はそう言って帰っていった。空間に亀裂を入れて闇の中へと消えていった。
「この手紙も精密検査をしてからだな。問題がなかったら後日届ける」
「はい……」
学校の防御機構は通じないのか……あのドクロと同じことを、今度は学校の防御が完璧な状態で軽々やりやがった。
「サキ、なんていませんよ……?」
御門さんがため息をつく。
「まいったね……これで10件目だ」
「10件目?」
「異常事態だ。こんなにも同時になりそこないが現れたことはない。1週間で10人、しかもそのうち半分はこれまで確認されていない新しいなりそこない」
「へ……?」
なりそこないってそんなぽんぽん出て来るヤツなのか……そんな印象はなかったけど。
「10人もいれば京都を滅ぼすのに十分な戦力だぞ。御門さん」
「ああ。すぐに手を打たなければならない。十二天将と玉将を連れて来るしかないな……ただ幸いなこともまだ誰も行動を起こしていない。向こうが様子見をしているうちに動こう」
「本家の防衛は?」
「最悪、向こうは貴人がいれば何とかなる。西欧の神や、UKの円卓の騎士が来ないかどうかだけは注視するよう伝えよう」
「大変なことになりましたね」
「正念場だ。君たちにもこれから働いてもらわねばならない。できれば美麗の修行をあと1年積ませたかったが」
「そればかりは時期が悪かったとしか。まあ、できる限りやりますよ。俺が直々に」
「玄武君。いつもすまないね。君には面倒な事ばかりをやらせる」
「いえ。京都最強の十二天将ってのはいささか荷が重い。とっとと美麗に跡を継いでもらわないと」
1週間で10人。
なりそこないが現れると聞いて思い出してしまうのはあのドクロの言葉だ。
鬼がいることで、なりそこないは現世に呼ばれるらしい。
「私に、何か関係があるかもしれない……でも分からない」
「もどかしいね」
御門さんが、レイが持っていた自分の本を回収する。
「これは何かが動き出しそうな予感だ。君たちも十分気を付けてくれ。何か君たちに関することが分かったら僕からも君たちに伝えよう」
「はい」
学園長室を出て、まっすぐ自分たちの部屋に戻って来た。
不思議なことに、それとも必然なのか、俺たちの意思は重なっている。
「私の過去に、京都の危機を解決するヒントがあるかもしれない」
「ドクロの言ったことか……確かに、鬼となりそこないは深い関係があるみたいな良いようだったけど……」
「現状、嘘だとしても、神秘に迫る唯一のつながりです。今後は気にかけていきましょう」
そうだな。それに。
「サキと関係をもつことは何かの結果をもたらすかもしれないな」
「はい。少々危険な賭けかもしれませんが」
元々危険な道だ。だけど約束を果たすためにためらってはいられない。また機会があったらその時は、何か掴んでみないといけないな。
「うう、ドキドキしますね また、何かが始まりそうな予感がする」
「そうだな。頑張ろう」
俺とレイの戦いは、もうすぐ、続きが始まろうとしている。その予感も俺たち2人は持っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます