Ver2.0プロローグ4 焦る十二天将2人

 煌火を使うことはそれなりにある。確かにものすごく疲れるが、あれはまだそれだけだ。


 水晶野郎を倒したときの煌炎はそうはいかない。


あれは使った後に体に異常がでる。体が異常に火照るし、その状態で他人に触られると変な感覚に襲われるし。死にそうなほど疲れるし、記憶は吹っ飛ぶし。


 個人的には易々使えない奥義なのだが。


 サキに襲い掛かるだろう上級天使兵。その強さを考え、そして俺の感覚を信じるのならば、本気で行かないといけない気がした。


 だからこそ、俺の剣には、黄金の炎が灯る。


 勢いよく突っ込み、そしてたたきつけるように振った俺の剣はサキの後ろで何かに激突する。伝わってくる反動は、俺の予想通りで下手したら腕に一瞬痺れが走るほど。


 隠れるのが無駄だと察したのか、隠れるのはやめた天使兵が邪魔をした俺に狙いを変えて斬りかかってくる。


呪力を大量消費してさらに剣にまとう炎を強化し、威力をブーストする。


 その後2回の剣戟で俺はこの天使兵を力押しようと思ったが互角だった。むしろ使っていて良かったまであるな。


 これじゃ足りない。もっとだ。


 もっと燃やせ!


「はあああ!」


〈煌炎・爆凄(ばくせい)〉。普段剣に一秒ごとに注ぎ込める呪力に限界があるが、この技はそれを超えてものすごい呪力を注ぎ込み、一時的に剣の威力をさらにブーストする力業だ。


 俺が最近習得したこれならあいつに通じるか……?


 ドガァン!


 炎の剣が迎え撃つ天使兵の得物にぶつかった瞬間、爆音と凄まじい爆散呪力による煌炎の粉と伴った爆風がはっせいする。


 天使兵は俺の攻撃を相殺などしきれるはずもなく、後方へと飛んでいく。やったぜ、と思ったら宙で態勢を立て直していた。


 なるほど。あの翼、飾りではなく本物なのか。翼をうまく使えば空を飛ぶこともできそうだな。


 後ろで何かが燃え上がる音がする。


 俺このままだと巻き込まれる!


 一気に後ろに飛び退く。その途中でサキを抱えて。


 すれ違いざまに見えるのはレイが剣を振り上げて、その剣にものすごい黒い炎があがっているところ。


 見る度に穏やかじゃないなぁと思うその攻撃は、黒い炎の撃月。地面に炎刀が振り下ろされるとともに地面をえぐりながら天使兵を飲み込む。


 直撃と共に撃月は形を失い天へ炎を上げる。


 夜の黒にも負けない暗黒の灯。そう思うと、あれも炎なんだなと思うものだ。


 ……来る!


 レイも気が付いていた。


 爆炎の中から男が現れる。手には天使兵が使っていた白い剣を持っていた。レイの喉を貫くつもりだったが、それはレイが綺麗に防いで逆に蹴りで返りうちにした。


「貴様……人間じゃないな。どこの女だ。ペットの散歩は御門家はしない主義らしい」


「ペット?」


「そこの女だ。人間だろうが」


「は……?」


 は?


 ん-と? まさかペットって俺のこと?


 外の連中の感覚は分からん。まあ仲良くする気はないからいいけど。


「私の伴侶を、ずいぶんとした物言いですね」


 ゴぉ、とレイから呪力が溢れでる。目が赤く染まり始めているときは彼女が起こって呪力を解放して本気を出すときのこと。


 いいよ、そんなに怒るな。冷静に。冷静に。


「くふふ、伴侶? 面白いな。京都の堕人は冗談が得意なのか。それはすまなかった。ここに来るのは初めてでな。この辺りの土地勘には慣れていないんだ」


 天使兵に自分をかばうように前に立たせるそいつ。


 眼鏡をかちゃりと定位置に戻した。


「まあ、挨拶はこれくらいにするか。天城ではなくとも、伊東でない限りは殺さねばならなん。あきらめてくれ」


「そう言われてあきらめるわけない」


「いいや。まだ本気じゃない。俺の可愛いこれはな」


 上級天使兵から感じるプレッシャーがさらに増す。これは、本格的にヤバそうだな……。


 命がけの戦いになりそう――。


「あとは私に任せて」


 はい? うわっと!


 さっきの話を聞くにサキの仕業か? 大分後ろの方にレイと一緒に吹っ飛ばされたんだが!


「平気です。これは私の仕事なので」


「ヤバいって!」


「唐突なお別れですが。また会いましょう。私、お2人の評価は現状プラスに傾きまくっているので、またこうやってお話ししたいですね」


 サキの前に大きな黒い壁が現れてサキが見えなくなった。


 迷いがない。あまりに迷いはなくて強く否定する前に時すでに遅くなってしまった。


 伊東ということは、あれは神人だ。神人ってことはかなり危険だ。京都にとっての脅威だ。人間狩りに来てたらサキがまた。


「……ダメです」


 レイは考えるより先に行動に出ていた。その迷いのなさはとても頼りになるな。


「ダメ?」


「凄まじい呪力の壁。なんだか異質な力。でも私にはとても好ましく見える」


 ……俺からすると、安心半分、怖さ半分という感じの呪術なのだが。確かにビクともしない。向こうで戦いが起こっているだろうに、その音すらすべて遮断している。


 前に安住に使われた結界みたいに、完全に外部とのつながりを断つものなのか……?


「サキ、大丈夫なわけないよな」


「でも、どうにもできない。このままでは。外部から傷をつけることはできますが、下手に消耗した後にアイツと戦うとなると、それは許容できないことです」


 くそ……レイの言う通りだけど……!


 何か手はないものか。


「援軍、呼ぶだけ呼んでみるか」


 当然見捨てるなどという選択肢はない。救えるものならその命を救わなければならない。


 大丈夫と言われて引き下がるなんて、楽観視が過ぎるだろ。


「そうですね。玄武先輩あたりならなんとか」


「この時間、来れるかな……?」


 デバイスを起動して電話をかけてみる。まずはできることから。


 ……ん? 


 なんか。遠くの方で、だけど俺がかけた瞬間、着信音が聞こえたような……?


「え、もしかして」


 しかもこっちにものすごい速さで近づいてくる! え? まだ何も言っていないけど、何か奇跡が起きたのか?


 気のせいではない。俺たちのところに向けて!


 と、思ったところで、俺たちの10メートル強離れたところで、期待の1人が到着!


 空から降って来た。すごい……い?


 2人? もう1人も大物だ。白虎先輩。


 2人とも、なぜかいつにない真剣な表情で駆け寄ってくる。


 何より妙なことに、まるで、マジな戦いがあるのかと勘違いするほどのバリバリの戦闘服なんだが……!


「え? え……」


「なんででしょう」


 玄武先輩が駆け寄ってくる。レイの方には白虎先輩が。


 俺たちを見てまず体をきょろきょろ見てから、呪符で簡単な検査までやってる。なぜ?


「あの、玄武先輩?」


「無事だな?」


 なんか、玄武先輩はちょっと焦ってる。俺も差し迫った危機を迎えているけど、玄武先輩はまるで、京都の危機を訴えるかのような顔だ……。


 俺のほうも危機を迎えている。きっとあらかじめここに神人が出たと判明したから先輩たちが飛んできたんだろう。


「あの、今この障壁の向こうで」


「そんなことはいい! すぐに学校に帰還するぞ。距離をとる」


「え、でも。この中で」


「話は後だ」


「え?」


「ん……お前たち、まさか気が付いていないのか」


 気が付いていないとは。どういうことだ。


「中に、上級天使兵を使う神人がいて、1人交戦中なんです。先輩、どうか助けてください。私たちの知り合いで」


「今日知り合ったのか?」


「なぜ、それを?」


「……詳しい話は後だ。気が付いていないのなら、今はそれでいい。向こうですべてを話す」


 レイが後ろを振り返る。


「上級天使兵なんて雑魚、その子なら大丈夫でしょう。レイさん。行きましょう」


「でも、死んじゃう」


「大丈夫です」


 先輩がやけに強制的に俺の腕をつかんで連れていこうとする。


「先輩。このままじゃ死んじゃうから……」


「うるさい。行くぞ。大丈夫だ」


「そんなのわかんない。あの上級天使兵は強かったし」


「頼むから今は黙ってついてこい」


 圧を感じた。先輩は本気だ。なんだかんだ言っていつも優しく余裕のある先輩がここまで言うなんて、ただ事じゃない。


 ……見捨てるのか。


「大丈夫なんて保証はないでしょ……」


「大丈夫だ。もしダメだったら俺は切腹する」


「ええ……」


 そこまで、サキは言わしめるのか……? 先輩は知ってるのか?


「行けば、話してくれるんですか?」


「ああ」


 ――先輩を信じよう。それにサキも大丈夫だと言っていた。


 俺がそう決めたのを察しレイも抵抗しなかった。俺たちは十二天将2人という豪華にもほどがある人達に守られながら学校へと戻ることになった。

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