Ver2.0 神人の中に生きる人間

Ver2.0プロローグ1 巫女は謎少女『サキ』に会った

 1学期の期末試験があと2週間後に迫っている。


 勉強はそれなりに行っているが、やはり初等学校のときと習っていることが全く違うので、緊張はどうしてもしてしまう。


 テスト2週間前になると教室が自習室として解放される他、有志の先生や先輩たちによるテスト対策の補講が行われる。学校はそれにちゃんとボーナス給を出すらしいので太っ腹だな。


 実技も多いがそれもサポートは抜かりない。ジオラマシミュレーションはテスト2週間前から2つ貸し切りで実技のテストを練習できるように補講や練習舞台が用意されるのだ。


 サービスがすごいね。手厚いね。


 俺も今、ジオラマシミュレーションでのお勉強と練習を終えて出てきたばかりだ。


 1年生の実技は簡単な代わりに種類が多く、さらにすべて必修科目なのでここで落としたら留年が確定する。


「剣は上手ですが、他が少し心配ですね……」


 基礎剣技はこれまでめちゃくちゃ剣を振ってきているので問題はないが、そのほかの仕上がりは微妙。及第点から10点マイナスが平均だ。難しくない?


 特に基礎射撃の実技で20メートル離れた動く的に10発中9発当てるのは難しいと思うんだ。ちなみに追尾弾は禁止だ。


 これに関してはとっても苦手だ。


 その当時のことを思い出してみると、如月が3発しか当てられず、林太郎が爆笑したのが始まり。


 次が俺だったのだが、俺が5発しか当てられず、如月とそろって先生に『的の気持ちになれ』とジオラマシミュレーション内で撃たれる始末。


 すごい、10発10中。俺たちは見事打ち抜かれ一時、ジオラマから退場するハメになった。こわかったー。


「その程度当てろ。ひよっこどもぉお」

 と、ピンク頭でゆるふわ系の見た目なのに中身が鬼教官でこないだも俺をいじめた怖い先生が吠えているのがとても印象的だった。


 でも現時点で合格率は15パーセント。このままでは俺を含め多くの1年生があのこえー女教師に1年生という檻に監禁されなければならなくなる。


 まあ冷静になって考えれば戦いを学ぶ学校なのだ。厳しくて当然。別に合計8年いることは学費を払えば可能らしいので1年でそう慌てることはないらしいが。


「……あきらめるには早いよなー」


「そうですよ! 明日からしっかり練習しましょう。私も付き合いますから」


 レイはパーフェクト。すごいね。他の教科もすべて現状で及第点を取っていて呪術では文句なしの実技、筆記ともに100点だ。すごいね。


「つき合わせたら悪いだろう?」


「私は。礼と一緒に居るだけでいいんです。そのためならなんだってしますよ?」


「なら、俺が1学期をちゃんと乗り越えられるように付き合ってもらおうかな」


 大門が企画しているボーリング大会は期末試験の後にやることになっている。それを楽しみに何とか大変な日々を乗り越えていくことにしよう。


「そういえば。礼。明奈が今日私のところに来たんですよ。あなたを借りたいと」


 なんでレイのところに先に行くんだ? 俺のところで良くないか?


「あなたのカノジョを借りたいって」


 俺は男だぞ。なんでカノジョなんだ。まあレイに罪はないのでその理由と文句は明奈に直接言ってやろう。


「明奈はなんて言ってたの?」


「否定はしないの?」


「文句は明奈に言わせてもらうよ」


「なんだぁ。認めてくれるのかと思ったのに。ちょっと残念です」


 なんでぇ? わざとらしく口をへの字にするほどのことじゃないだろ。


「でも、私はついて行っちゃだめだって言われたんです。なんでも、鬼関連の場所かもしれないから、もしも私は行くと何か悪影響が出るかもしれないと」


 鬼関連。明奈はどんな情報どこで手に入れたんだろうな……? 当事者の近くにいる俺は、先日の事件以来に進展がないというのに。


「なので、一度礼だけで下見に行ってもらって、問題がなさそうであれば、万全の準備を整えて2回目、私も同行することになります。最初は、明奈の部屋で様子を見てますね?」


 先日の戦いが終わってから、明奈も忙しそうにしてたからな。


 10日前くらいにものすごいけがを負って帰ってきたときは驚いたけど、明奈は何も言わなかった。


 傭兵の仕事だと言っていたけど、京都にいる限りは無理に戦いに行かなくたって衣食住も環境も整っている。何か事情があったんだろうと、大門も俺も思っている。


「明奈……最近はちょっと雰囲気が怖いですよね……」


「俺たちに対してはいつも通りだけど、殺気立ってるよな。訊いてみるか」


「礼。約束は明日の夜です。私から返事を返すことになっているのですが、礼から連絡しますか?」


「明日ね。いいよ。返事しといて。じゃあいつもの修行は今日やろうか」


「そうですね。夕ご飯は外で食べちゃいますか」


 学校に入ってからはお互いに交友事情や学習、訓練、行事など、パートナーといえど常に一緒とはいかなくなった。


 それでも学校に入る前からやっていた2人でやっていた修行は1週間に2回やる予定だ。そのなかで少なくとも1回はちゃんと2人きりで。


 基礎訓練。2人での連携訓練。最近の気づきの共有、などなど。まあ明奈や如月からは週1デートとかイチャイチャタイムとかわからわれているが、ちゃんと真面目なこともやっているぞ。


 最近は剣に関しては俺もそれなりになってきた。巫女服限定で煌炎を使う状態になればレイとちゃんと勝負になるくらいになった。


まあ、直感で剣を何とかしのいでばかりだけど、我ながら剣技に関しては初期の頃に比べると目覚ましい飛躍していると感心している。


 それに2人でいることもこれから多いだろう。最近はレイと俺オリジナルの連携技の開発なんかも考えている。


 ヤンキー先生も授業で言っていた。敵を初見殺しの手札こそ、戦闘で自分を生かす切り札だと。


 ん、先生か……。本当ならあの先生にはもっと教わりたかったな。






 レイは最近こうして2人で出かけるときは手をつなぐことをおねだりしてくる。


 買い物の帰りは荷物を持つことになるので、できるのは行きだけだ。


「今日の晩御飯は何にしましょう」


「と言いながら、もう決まっているかのような足取りだね」


「おごりですから心配しないでください。今日は美味しいお蕎麦頂こうと思いまして。実は予約もしてあるんです!」


 たのしそうだな。最近は大門の悪影響もあってかグルメにハマったらしく週に1回はそれなりのお店に行っている。


 現世で楽しい趣味を見つけたレイは活き活きしている。自分が鬼だと多くの人にバレたのでもはや開き直っている感じは否めないが、前向きなのはいいことだ。


 反逆軍と御門家のフォローには感謝しないとな。姉貴と円と炎雀さんには今年盛大なお誕生日プレゼントを贈ってあげよう。


 レイが突然止まる。


「どうした?」


「そこの道を右に行きましょう」


「まっすぐじゃないの?」


「予約していれば多少遅れて夜になって大丈夫です。そういう店なので。それより、悪霊の気配がします。気配は弱いですが、一応準備を」


「反逆軍がどうにかしてくれそうだけど……」


「どうでしょう。レーダーを見てみてください」


 この前使い方習ったからね。おや、反応がない……? 故障か?


「妙ですよね」


「ああ。いってみようか」


 急遽寄り道をすることになった。だが、もしも困っている人が居たら助けに行かないとな……!






 気配は常に弱いままだった。だけど着実に近づいている感じはする。


 この先を左に曲がったところだ。きっと。


 周りの細道よりは広いが人通りは少ない。そこに悪霊が倒れている。


「人型……!」


 だが、動きそうにない。もう死んでいるのか……?


「もしもし」


「ひゃ!」


 肩をとんとん。やめてよ、悪霊が死んでいて周りに人が居ないなんてけっこうホラーな光景なんだぞ。いや、誰だ。この子?


「あ、あなたは……?」


 目立つのは藍色の髪のツインテール。戦闘袴に似た袴を着ているが、御門家の中にもいろいろな袴の種類があるのか。


 瞳が真っ黒なのが妙に怖いがそれ以外は俺たちとそう背の大きさも年齢も変わらなそうな女の子。


「私、隠れていたの。ほら、あの悪霊いるでしょ。まさかこんなところであなたたちに会えるなんて思わなかった」


 え……初対面のはずだけど。まさかファン……なんてことはないよな。


「私、サキっていいます。会えてうれしい。鬼の巫女」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る