日常編2 反逆軍ビギナー1日体験(後)

 訓練は次で最後らしい。え、早くない?


 まだか残り3つあったはずの訓練はセットで一気にやるの?


「どんな訓練になるんすかねー?」


「うーん。まったく想像がつかない」


 休憩時間。次はチーム戦らしいのでチームワークが重要になるだろう。少しは交流を深めておくべきか、と思った矢先、丸刈りくんが気を利かせて話かけてくれた。えらい。俺も見習わなければ。


「そういえば先輩は今日はなんでここに?」


 先輩……そう言われると、なんか、いいもんだな……へへ。


「軍所属の友達がいるんだよ。誘われたんだ」


「もしかしてさっき先輩をめっちゃ追いかけまわしてた人っすか?」


「そうそう! よく見てたね」


「だって俺すら無視して先輩追っかけてましたし」


 あいつらー! ちゃんと仕事しろよ!


「おれは定期的に参加してるんですけど、毎回面白いっすね」


「将来軍に入りたいの?」


「いや。そういうわけじゃないんですけど。ほらこの前の悪霊の大氾濫があったじゃないですか。この訓練で使えるものって購入可能ですし、逃げる方法とか、道具とか、いろいろ知っておけば役立つかなって」


 めっちゃちゃんとしてる……! お買い物券目当ての俺が恥ずかしいくらいだぞ。


「えらい!」


「うわぁ」


 反逆軍の染谷隊員が感心のまま肩をたたく。


「いいねー。そういう人好きよー? なんか君将来うち就職しそうだなー」


「いやぁさすがにそこまでは……」


「うちの犬養ちゃんも最初はそのくちだったのよ。君にはきっと適正がある。才能はないとエキスパートになるのは難しいけど、スタンダードだけでも十分食っていけるし。困ったらウチきなー。いつも人手不足なのよ」


「そうなんですか? だって結構志願者も多いじゃないですか」


「ビギナーとトレイニーを突破できるのは入ったヤツの半分くらい。そしてスタンダードから上はどうしてもトレイニーまでに比べてケガも多いからねぇ」


 ……3%か。安住と最後戦った時に言われた衝撃の割合。多くの場合は何かしらのケガを負って退役するか死ぬかか。


 この子はそれを知っているのだろうか。恐ろしい職場だな、とは思う。今ならとっても納得できる。この前の戦いから俺は何度も死にかけているからな。


「てか他の人はどうしたんすかね」


 実は丸刈り君の後ろで、犬養さんのことを力士君がナンパ……と言っては聞こえが悪いかもだが、積極的に親交を深めている。


 そしてレイはさっき組んでいた女の子とお話中。興味深い話が聞こえてくる。


「私、鬼の巫女さんのように強い人になりたいなって」


「え……そうなんですか?」


「私の親が反対派で、あの公共放送を見てたんです。多くの人に糾弾されながらでも、それでも自分の気持ちをちゃんと主張する心の強さと、それを押し通すだけの行動力と強さがあって。恰好良かった」


「うんうん!」


 レイ、めっちゃ嬉しそうにうなずくじゃん。


 俺もついにやけてしまうが、実際はめちゃくちゃ劣勢で俺はとっても弱かったわけで、あれは奇跡の勝利だったと思う。調子に乗ってる場合じゃないよ……本当もう。


「私も、あんな女性になりたいなって思って。でもどうすれば分からないから、まずは行動してみようと思ったんです」


「なら頑張らないとね。私も同じだから」


「え……」


「私も、心意気は、あんな風に強くなりたい。私を照らしてくれる太陽のような」


「……まるで、お知り合いみたいに言いますね」


「あ、えーと。ほら、推しは近くに感じるものでしょ?」


「ふふ、そうですね!」


 ……めっちゃ恥ずかしくなってきた。人をまるでアイドルのように。そういえば東京ではそういう存在もいるらしいな。






 後半はとんでもない訓練だった。いや、あんな風に4つ訓練内容が並んでたら4つ訓練があると思うじゃん。


「次はあの怪獣をみんなで倒すよー。今回は討伐の貢献度がそのまま個人の得点になるからねー」


 街の西側の端っこに転移させられた俺たち。そして東の端っこにめっちゃデカい正二十面体の鋼鉄の塊が浮いている。あれ怪獣か?


 訓練が始まる前に首を傾げた俺に犬養さんが説明してくれた。


「3つの関門を突破する必要があります。まずは索敵訓練。要塞を境に街の西側には要塞から解放されたゴーレム兵が徘徊しています。低殺傷弾では倒せません。見つからないように逃げながら西側エリア脱出を目指して下さい」


 ほう。


「射撃訓練は、西エリア、東エリアにそれぞれ散らばっているドローン型偵察機を低殺傷銃で破壊してください」


 ほうほう。


「そして東エリアの要塞近くには軍の攻撃用施設がありますので、その攻撃施設を使ってあの怪獣を攻撃してください」


 一気にやるんかい! 


 ということで今、早速チームで街を歩いている。担当の正隊員の2人は後ろで俺たちを見守り何かあった時のトラブル対応をしてくれるそうだが基本ノータッチだ。いないものとして見てくれとのこと。


「うわぁ、うようよいるぅ」


 丸刈りくん――さっき名前を聞いたのだが、ミズミアタルくんというらしい。トウと呼んでくれとのことだった――がめっちゃ飛んでいるドローンと、そこそこ姿を見ることができるゴーレムに恐れをなしている。


「礼、あの形、意味があるはずです」


 それは俺も思っていた。学校で敵の形には意味があるというふうにヤンキー先生に教わったからな。


「みんな、ドローンに見つかったら、壊して即時猛ダッシュで移動」


 多分あのドローンは敵の位置を俺たちに教える役割を持っているんだ。そしてゴーレムは基本徘徊して敵を見つけた瞬間攻撃してくるけど、ドローンの通報があったらそっちにやってくる感じだな。


 大通りにはドローンが基本的に飛んでいる。あ、どうやら別のチームが通報されたっぽい。俺たちは細道を使って西から東へ。前に金閣から帰るときに使った道は索敵にも便利だったので道選びに迷いはない。


 曲がり角。飛んでいるドローンを俺は銃で撃って破壊する。


 レイが後ろを警戒して、ドローンを撃った。そして力士君がさらにその後ろからやって来たドローンを撃つ。


 ガキン? はい?


「ちょっと待て、何でアレ壊れないんだよ!」


 通報によってゴーレムがやって来た。てかずいぶん機敏なことで……。逃げろ!


「きゃあ!」


 まずい、女の子が転んだ! 


「ひ……やだ」


 そりゃ怖いだろ! ゴーレムがその子にとどめを刺そうと腕をハンマーみたいに振り下ろして――。


「せぁあああ!」


 うぁああ! レイー! それはやりすぎー! ゴーレムを力づくで吹っ飛ばした。俺たちを見守ってた犬養さんと染谷さんがめっちゃ驚いてる。


「大丈夫? 楓花ちゃん?」

「は、はい……ありがとうございます」


 丸刈りくんや力士くんも開いた口がふさがらない。染谷さんはこれをトラブル判定。


「キミ……ヤバい人?」


「そ、そそ、そんなこと。私が吹っ飛ばせるわけないじゃないですか。生身で」


「あ、ああ。そう。そのはずなんだけど……んぅ? 今のはどう見ても」


「勝手に! 向こうが吹っ飛んだだけです!」


 力づくで話を通す。曇りなき眼でなんとかごまかそうとしている。多分染谷さんが正解だ。ゴーレムはレイによって力づくで吹っ飛ばされたのだ。


 でも、まあ。見た目ただの女の子がそんなことができるはずもなく……みたいな感じでどうか1つ、ごまかされてください!


 心の中で手を合わせた。9割負けな気がする祈りだが。


「……そうだよね。そうそう! なあ犬養ちゃん?」


「は、はい。多分。私も正直、ゴーレムの整備不良かと……」


「おけおけ。じゃあ続けて。今回整備したりんたろーちゃんのグループに厳しく言っておかないとなぁ」


 やーい、林太郎、俺を狙ったばちが当たったぞ。ざまーみろー。


 まあ、何とかことが大きくならずに済んだか……。多分。






 俺たちは3番目くらいに西のエリアにたどり着いた。怪獣からものすごいミサイルが飛んできて危うく死にかけること3回。街の反逆軍の迎撃施設の1つである防壁の頑丈さに驚いたものだ。


 そして大砲もあった。みんなで1発ずつ試し撃ち。反動がすごい。でも扱いはそんなに難しくはなくすごい威力の爆撃で怪獣に大ダメージを与えた。


 そんな功績があって、今日の反逆軍1日体験は、全チーム中2位の成績、個人ではレイは3位。俺は最初の鬼ごっこが響き、入賞ならずだった。


 訓練の後で聞いた話だが、この兵器は以前実際に東京で使われた伊達家の侵略兵器の1つだったらしい。見習いからそういうのを相手にしなくちゃいけないなんて、

「いやぁ……マジ疲れた。反逆軍も大変っすねーほんと」

 トウくんのとまったく同じ感想を抱いたものだ。


「むぅ……」


「レイさんなら次こそ大丈夫ですよ!」


 すっかり仲良くなった女子2人。その姿は微笑ましい。


「憧れが1つ増えました……」

「そんな、私なんてまだまだですよ?」

「いえ。決めました。私、ちゃんと学校か軍に入ってレイ先輩みたいになります!」


 素晴らしい出会いがあったようで何よりだ。まあ、彼女に正体を隠しているのは申し訳ないが、噂だと反逆軍にも鬼に良くない印象を抱く人が居るという。むやみに正体は明かせない。


 なので、何度も冷や冷やさせたレイは帰ったらおしおきです。嫌いなピーマンをたっぷり使った野菜炒めをご馳走してあげよう。


 チームメイトと分かれた後、もらった券をもって食堂へ。お腹ペコペコだけど夕食には早い。おやつタイムと行こう。ここのシェフ手作りの日替わりケーキが美味しいんだと如月が言ってた。今日はそれも目当てなのだ。


「ちょこけーき……うへへ」


 ちなみにまだ彼女にはおしおきがあるとは伝えていない。まだ今のうちは味覚から幸せを感じ取ってもらうことにしよう。


「お、お2人さん。おつかれー。けーき? うまいよねー」


 今日お世話になった染谷さんと犬養さんに会った。


「いやぁ、今日は面白かったよー。特に女の子の君には何度も驚かされたわ。ははは」


「え、えへへ」


 えへへじゃないの。俺がどんだけヒヤヒヤしたか……。


「どうだった? 今日の体験」


「面白かったです。でも俺たちもうへとへとですよ。毎回こんくらい厳しいのは、見習いにとっては地獄だろーなー。ちなみに、ビギナーがトレイニーになるにはあの訓練をどんな感じでできると良いんですか?」


「気になる? 今回みたいなのは、実戦想定訓練ってヤツで、本当は1人でやるんだよ。もう少し厳しい条件で、発見されず、ドローンは全部撃ち落とし、けがなしで標的を討伐」


「厳し!」


「研修と効果測定は手厚く厳しくがモットーなのよ。これは守護者全員の共通意見だし、御門さんや総統、上層部も同意見なんだ。若い芽はちゃんと育ててこそ」


「へぇ……」


「手取り足取り、甘えなく一歩ずつ。そういう熟成が将来的にうちの強みになるのさ。興味ある? 君らならいつでも大歓迎だぜー? じゃあ、俺らこの後ミーティングだから、ケーキもってレッツゴーよ。じゃまたね」


 最初から最後まで明るい人だったな……。


「いたいた。ちょっと何てことしてくれてんだよ。俺何も悪くないのに怒られそうになったんだが? トラブル起こしやがってぇ……」


 林太郎だ。なるほど……こいつもこんな訓練を超えてスタンダードに。同級生は意外にすごいヤツなのかも……?


「あ? 染谷さん。あー、そういえばお前らのところ担当だったんだな」


「うん。愉快な人だよな。知ってるの?」


「……ふ、こればっかりは軍に詳しくないと分からないか」


「え?」


「ガンナークラスセカンド、すべての銃使いの中で2位の染谷。通常兵装使いの天才。オリジナル武装ではなく、軍の共通武装のみを極めて守護者目前に迫っている傑物だ。神人とサシで戦って2桁以上の勝利を収めている」


 え……! あんなすごい人だったのか!


「ちなみに総隊長の同期らしいぞ」


 姉貴の同期……! やべー、慣れ慣れしく話してたけどめっちゃすごい人だったんだな……。


「銃使いの俺としては、目標だ。だが、遠いな」


 林太郎が背中を向け去っていく男を見る。その目は明らかに憧れの念が込められている。


 そうか。こうしていざこの場に立って、今実感したが。反逆軍にはすごい連中がいっぱいいるんだな……。


「敵には回したくないものですね……」


 まったくだ。だけど、さっきも言った通り、俺たちは反逆軍から狙われる可能性もないとは言えない。


 俺たちはまだ軍について何も知らなかったな。イベントとか情報収集とかして軍のことをよく知っておくのも今後重要になるかもしれないな。


 出会いと気づきの多い1日体験だった。





『染谷先輩? あの2人がどうかなさいましたか?』

『いいや、思いの他愉快な良い子じゃないか。鬼娘と夢原礼ちゃん。うーん。俺の隊は鬼恨むヤツ多いから、アイツらのために始末すべきか迷っちゃうのよ』

 




 余談


「礼ぃ……許してください。ぴーまんきらいです」

「だーめー。そのままじゃなくて肉詰めにしたんだから食べなさい」

「うう。今日は礼がわたしのためにご飯を作ってくれると前向きだったのでワクワクしてたのにぃー。ごめんなさいぃ」

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