日常編2 反逆軍ビギナー1日体験(中)
「うまいねぇ」
「ありがとうございます」
最初は訓練で使う道具の使いかたの確認から。デバイスはともかく、支給品は3つ。1つは低殺傷弾を撃てる銃。あと2つは〈透化〉と〈霧中〉という馴染深いものだった。
いつかは覚えなきゃなーと言っておきながら今日まで後回しにするおサボりムーブをかましていたが、それも今日までだ。いよいよ俺もこの2つを使う時がきたぞ。
呪術は想像で起こすもの。それはデバイスで使うときも同じだ。支給された訓練用デバイスで、自分の周りに透明なドームをつくり覆う想像を行う。
透明化は自分が透明になる想像ができれば手っ取り早いらしいが、それが難しい場合はこの方法がいいらしい。
「わぁ……上手ですよ礼」
消えた俺にレイは拍手。そこまでしなくていいから。隣の女の子が釣られちゃってるじゃん。
「この状態で、レーダーをつかってみよっかねぇ」
細目のエキスパート隊員に言われ丸刈りくんがレーダーを確認する。俺の姿が映っていない。
「すごいっすね!」
「こうすることで、姿も見えない、レーダーにも映らない、という状況が完成する。だけど両方とも自分の呪力を使い続けないと維持できないからね。ずっと使ってたら4分で0になっちゃう」
なるほど。この状態でずっといることはできないんだな。
「あの、犬養さん。礼は成功していますか?」
返事がない。
「犬養さん?」
おや、レイ。どちらに向いているの? そこに犬養さんいないよ? ほら、隣の女の子が困惑してるじゃん。何してるのレイ?
「透化と霧中を同時に使っている人間は見つけるのがマジでむずいんよ。実はもう犬養がかくれて……あれ? もしかして見えてる?」
え、そこにいるのか?
「おっかしーな。これ見つけられるって相当やべーよ? ただ者じゃない、もしかして君?」
ひぃ! レイも、やらかした、って顔しないで言い訳して!
「け、気配が」
アウト! それじゃやべー奴なのよ。
「さっきまでそこに立ってた気がして。なぁ?」
「あ、はいはいはい。そうです。そうですよ」
「まじかー。犬養、ちゃんと移動しないとー」
「しゅ、しゅみません」
驚きと申し訳なさそうな感じ半々で再び見えるようになった犬養さん。申し訳ない。ちゃんと移動してたのは知ってるよ……。
「おお……」
「周りを常によく見てるんだな。確かにパンフレットにも注意深さが重要だと書かれてたしな」
男のチームメイト2人からも尊敬のまなざしが向けられる。俺の目立たないという野望は早くも潰えようとしている……。
「きみー、よわいねぇ」
器具の説明が終わった後、実際にジオラマシミュレーションに突入した。見慣れた京都の街も箱庭の中では好き放題できるというわけだ。
まずは実際に人形の体の動きがちゃんと現実の感覚と同じかを確かめる意味もあるらしい。このコーナーの担当隊員が鬼になり、参加者全員とかくれ鬼をやることに。
タッチされたら強制的に確保スペースに転移されるのだが。
「ちが……」
うとは言えずに、ため息をしたのだが、それをふまえてもあれはひどい。
なにせ俺とレイが参加すると聞いて、林太郎と如月が俺を集中的に狙ったのだ。確かに男の姿だと巫女の力を使えないわけなのでとっても遅いわけなのだが、そんな中で執拗に狙われたのならとっとと捕まるのは当然だ。
「いぇーい」
「ざーこー」
と言われながら転送されたときには、キレそうだった。うるせー!
染谷さんが最初に送られてきた俺が暇にならないように話かけてくれるのだが、たった1人ここで対談とは俺、あはれなり。
「それは置いておいてください……。それより、ビギナーの訓練って何種類くらいあるんですか? さっき林太郎に訊いたら今日の訓練は一番楽しいやつって言ってたんですけど」
「今回のこれはトレイニーへの進級試験と、その練習に則した練習だね。それ以外にも街の施設は30種類以上あったり器具や普通の講義もある」
「へー」
「今回いい成績を残せた奴は才能がある。体験会には将来的にここを受験する連中もいる。才能がある奴はあらかじめ見ておくもくてきもあるんよ」
画面の先では俺のチームメイトが隠れ、逃げている。
ただ、やはりこう見てみると鬼役になっている人たちの方が有利だな。まずは逃げる側がレーダーを使う人が半分。『習う』と『実践する』は違うんだなということをわからされた。今後の学校生活で参考にしよう。
それが〈透化〉と〈霧中〉にも言うことができる。
――そうか、わかったぞ。
「レーダーを使って索敵して、近づかれたら〈透化〉と〈霧中〉を使って逃げろってコトなのか」
「お、いいねー。ただ、気づくのがおそかったねー。はははは」
わらうなー。
「ただ、そういうことなんだよねー。でもそれをヒントでは言わない。自分で気づき、考え、実践することが大事なのよ。別に今のは模範解答の1つだし、別の攻略法があればそれでいい」
「丁寧に教えるだけじゃないと?」
「ぶっちゃけそろそろつかまりまくるだろうけど、理不尽だーって思うんだよねぇ。正隊員や障害が強すぎるからさ。でも俺たちの相手ってそういうのばかりだから、めちゃくちゃ難しい訓練にヤケにならず腐らず対応する」
おお、なんだか……。
「めっちゃエリート上司の台詞に聞こえる」
「えー? そうよー? 俺こう見えてもエリートなのよ? もっと敬っていいぜー?」
うーん。安住とは違って威圧感がないけど、やっぱこの人も凄い人なのか。
お、どんどんこのドロケイの牢屋的な場所に送られてくる。
「なんでみつかるんだぁー!」
チームメイトの力士くんがめっちゃ悔しそうにしている。丸刈りくんは自分の体力に自信のあったのか捕まったことに納得がいかず眉間にしわを寄せている。
「おお、捕まって来たねー」
おや、レイがまだ捕まっていない様子。それにメイトの女の子もまだ。
「あっれ、全然捕まってないねぇー」
染谷さんがどこかに連絡をかける。
「ちょっと犬養ちゃーん。まだー?」
「全然捕まりません……。さっきから10人くらいで探してるのですが。うわぁ」
「どしたの?」
「3人低殺傷弾でやられてます……。ひぃ!」
「あれー?」
あれぇええ? レイ、ちょっと本気出しすぎじゃない?
ああ、そういえば最優秀賞を狙ってみようとか言ってたな。
「あの子、ただ者じゃねえな」
「次の訓練も凄かったらちょっと素性を調べてみよう」
ほらー、他の担当の人たちが驚いちゃってるから!
あ、映像にレイの姿が。女の子と手をつないでめちゃくちゃ機敏に周りを確認している。そして女の子にレーダーを確認させてる。
「来ました……!」
「じゃあ、また15秒です。全力で走りますよ!」
「はい!」
女の子がもう懐いてるし……。
「しゅげー」
「おお、あの子やるねー」
すでに良く残っているのは残り4人。そのうちの2人として牢屋ではめっちゃ応援されている。
いいのか? こんなに目立って後で変なことにならなきゃいいけど
(長くなってしまったので後編へ続く……)
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