日常編2 反逆軍ビギナー1日体験(前)
反逆軍隊員の一日体験。
軍の中でも一番下の階級であり、想像よりも結構地味で理想とのギャップが激しいビギナー隊員の1日を体験できるイベントだ。
「なぜに俺に?」
もう林太郎には男だとバレているので、男の姿で2人遊びにいっているときに誘われた。街唯一の御門家と軍公認のアミューズメント施設、げいむせんたあ、というふにゃふにゃな名前の場所である。
近々ボーリング大会に参加するのだが、さすがにルールを知らないと足を引っ張りそうだということで林太郎が練習したかったらしい。俺はその付き添いだ。
ただ重い玉を投げるだけだろう、と俺は甘く見ていたのだがこれが想像以上に面白く奥深かった。
一体どういう仕組みなのか、このボールはカーブしたりしなかったりするので普通に球を転がして的を倒すのも一苦労だ。そのうえで障害物やギミックがありだともはや倒すこと自体が難しく白熱してしまった。
と、余計な話はこれくらいにして。
「なんでこれを俺に?」
「隊員募集の施策で、軍隊員が参加勧誘に成功したら報酬5000円が下りるんだよ。だからお前も巻き込もうと思って」
「俺を利用する気まんまんってわけね」
「そう腐るなよ。体験をしておけば受験の時は有利に働く。それにちゃんと報酬も出るんだぞ。軍の購買や食堂で使えるポイント3000円分だ」
なに? 本当か!
「お、ちょっと興味出てきたな?」
「そりゃ軍の食堂は一流のシェフがそろうフードコートあるし、購買には護身用の道具がいっぱいあるだろ。殺傷能力のあるやつはないけど、持ってて損はないものばかりだしな」
「Tシャツもあるぞ」
「それはいらない」
「はははははは。だよな。ありゃ隊員しか着ないっての」
姉貴に会うのが若干怖いが、さすがにビギナーの訓練に偉い人である姉貴は現れないだろう。せっかくのお誘いだしちょうど4日後なら空いている。
レイには角を隠してきてもらえばいいだろう。最近は眼鏡をして髪形を変えるという技も身に着けたので聡いやつじゃなければバレないはずだ。無用なトラブルもそれで避けられることを願う。
本当はお留守番がいいんだけど、レイは嫌だとだだをこねそうなので一応連れていくつもりでいようか。
昔の『京都駅』という建物を参考に外観は作られているらしい要塞。おや? 穴がいくつか空いているのだが……何かあったのかな昨日。
それはともかく中に入ると、壁も床も耐テイル素材でできた金属のような石のような床と壁が続いている。
今日は体験会ということで隊服を着ていない一般の人の結構いるみたいだ。
でもやはり街中に比べ軍服を着ている人が結構多い。階級を示す服か、あるいは隊を表す服を着ている。
そういえばこの前林太郎と如月は敵幹部の討伐を認められてスタンダード隊員昇格試験を受験可能になったらしい。ただ姉貴が言うに安住が頭を抱えているのだそう。2人にはまだ早いと。
俺は大丈夫だと思うけどなぁ。なんて思ってたら林太郎から連絡がきた。
「みてるぞー」
暇かよ。訓練してろ、って連絡を入れておいた。ていうか見てるぞーって何を見るつもりなんだ。
「礼、受付をしましょう」
赤い眼鏡、後ろで髪を丸めているからショートヘアに見えるな。かわいいね。俺も男の姿だしバレないバレない。
「ああ」
受付に行くと。
「やあ」
「お前受付なのか!」
「今日の受付兼誘導係だ。ちなみに如月とレオンは今ごろそれぞれのアトラクションで準備中だぞ」
「雑用係なのね」
「しょうがないだろ。トレイニー身分はこういう雑用しないと、給料がめっちゃ低いんだよ」
「とっととスタンダート試験受ければいいじゃないか」
「毎月5日が受験日なんだ。今月までは安月給で使い倒される運命だ。だから特別給が来てくれてありがたいありがたい」
特別給って俺らのことか!
満足そうにパンフレットを渡してきた林太郎に並々ならぬ反抗心を抱きながら、手元の折り返し開く。
「訓練の1日体験ですか……。種類が豊富ですねぇ。でも剣の素振りとか、射撃訓練とかだと思ってました」
確かにビギナーって初心者だし、じみーな訓練をやるのかなって思ってたけど以外とそうでもなかった。
隠密訓練。学校にもあるジオラマシミュレーションに入って鬼ごっこ。
索敵訓練。敵のいない道を通って規定のエリアから脱出する。
射撃訓練。街中に隠されている的を麻痺弾銃で撃ち抜く。
操作訓練。巨大怪獣を街の施設を使って足止めをする。
なんだか男の子が好きそうなゲームに見えるな。
「これ本当に訓練でやってるのか?」
林太郎は迷わず頷いた。
「もちろん。、まあ体験会だから本当にやってる訓練の中でも楽しいヤツを選んでるとは言っていたけど」
「この訓練効果あるのか?」
「ビギナーは戦闘員じゃなくて補助員という扱いになる。主には街の人たちの避難や、主力隊員の指示での、扱いやすい銃や街の防衛施設を使った支援攻撃を行う」
「武器を使った訓練はやらないんですね?」
「そういうのはトレイニーからだ。ビギナーの段階はまず、悪霊と実際に相対しながら悪霊に対する恐怖心との付き合い方を学ぶ。あとは防衛に必要な基礎知識や法律を学んだりな」
「ほぇえ……思ったより丁寧に教えてくれるんだな」
「ああ。順序だててしっかり1人前に慣れる仕組みがあるのはありがたいよ。ん、そろそろ時間だな。行ってこい」
確かに時計がすでに開始の15分前になっている。
「礼、せっかくなのでパンフレットにある最優秀賞を目指してみませんか?」
「目立っちゃうんじゃない?」
「今回参加者はみんなニックネームで呼び合うことになってますから、私が本物の鬼の『レイ』だと思う人はいませんよきっと」
あの一件以来吹っ切れて活き活きしているのはいいのだが、たまーに吹っ切れすぎでは? と思わなくもない。
むしろこっちの方が彼女の素なのかもな。何かあったときはしっかり俺がカバーしないと、と俺はそっちに意気込むことにした。
パンフレットに在る通り、ビギナーによくある休日の6時間勤務の体験だ。何人かのグループに分かれそれぞれにスタンダード以上の隊員、トレイニー以上の隊員が1人ずつ担当としてつくらしい。
俺とレイ、そして14歳くらいの女の子、同い年くらいの丸刈り男子が1人と、俺より体がデカく力強い男子が1人。最後の彼は別の学校では相撲部らしい。すごい。
そしてそんな個性的なチームの担当になったのは、どう見ても新人のトレイニー服の女の子と、スポーツ刈りに眼鏡で細目というだけで多分一度見たらしばらくは忘れない自信のある顔をした人だった。こっちも個性的だなぁ。
「いやー、よろしくー。今日担当の染谷でーすう」
「今日はご参加いただきありがとうございます……! 本日このチームを担当いたします犬養です」
かわいいー、とチームメイトの力士が一言。丸刈り男子はさすが体育会系だ。びしっと背伸びをして立っている。メイトの女の子はこの後のイベントにワクワク。
「ふふふふ」
レイもワクワク。俺はボロが出ないかドキドキ。
楽しい? 1日体験が始まる。……といいな。
(後編へ続く)
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