(終)メインストーリー第1章エピローグ 契約の指輪

 今回の戦いで、後始末の難しいところは全部御門家と反逆軍がやってくれた。俺はぐっすりと眠りまくっている間にすべて終わって、街は復旧の後元通りになる流れだった。


 俺とレイに関係するところだけを話すと、いい話も悪い話もある。


御門家と反逆軍が4時間にもわたる記者会見で鬼をすぐに討伐しなかった理由、今後の処置についてすべて隠さず告白した。そしてこの戦いで起こったことすべてを。


 旧平安神宮で起こった戦いと説明で、今回の犯人は鬼ではないことが公になった。そして俺たちに気を使ってくれたのか俺たちがその間に何をしていたかも公表された。だがもちろん信じる人と信じない人がいる。


鬼がいる限り危険はある。あのドクロが話したことが真実であり、鬼の存在を許す人と許さない人で街の人々は大きく分かれることになった。


 つまり俺は今、公には無罪な状態だが、街の人にとって感情的には居てほしくない存在になっていることになる。それがどういう不利益を俺にもたらすかはまだ未知数だ。


 でも、街を普通に歩けるようになった。やっぱり嫌われてるなと思うこともあるけど、思ったよりは不自由していない。






 あの戦いから2週間後。


 大会のご褒美に来た時と同じ店、今度は大きめの個室を借りた俺たちは打ち上げにやってきていた。こんなに後になってしまったのは、各々、追われていた後始末に一区切りついたからだ。


「いや悪いって。俺もやるよ」


「今回いいとこなしだったからさ。ゆめとレイの分は私たちがやるから。ねえ高須くん?」


「まあ……本当俺、役に立たなかったからなぁ……勝手にケガしてダウンしてたし」


 お礼は言ったんだけど、そんな微妙な活躍なんて情けない、といじけてしまった高須君。でも本当に食人花に殺されなかったのは彼のおかげなのだ。


 ……本当に、いろいろな人に助けられた。今でもしみじみと思う。


 驚愕の表情で大門を見るのは円と倫世だった。


 自分には行けないと最初は遠慮していた倫世だったが、それは俺に対する後ろめたさがあってのことだった。だから俺から誘った。友達だし誘わない理由はなかったからな。


「大門君、慣れてるね……」


「焼肉奉行だったのあんた?」


「我流だ。でも林太郎みたいに焼肉が初めてってやつにはまず道理を教えねえと楽しくもおいしくもねえだろ? せっかく高い店にきたんだぜ? お、林太郎、そろそろひっくりかえせ」


「いいのか? まだ表面しか焼けてないみたいだけど」


「赤身は面の色が変わったくらいでちょうどいい。あまり焼きすぎるとせっかくの高い肉なのにパサついてうまくなくなっちまう」


 倫世も真似して同じタイミングでひっくり返した。


「学校に入るまではまともなダチもいなかったしな。戦いとグルメが俺の趣味だったのよ。おすすめの店はいろいろ知ってるぜ。困ったら俺に訊きにきな」


 へぇ……今度どこか連れてってもらおうかな。俺も美味しいお店に行くのは好きだし。


 どこか、甘いもの食べられるところもいいなぁ。最近はこうがっつり食べられるのも好きな一方、甘いものに同じ位興味がそそられる。


前はそこまでじゃなかったんだけどな。


「礼。礼?」


「ん?」


 おれにぴったりくっついていたレイが一度離れて俺の顔を覗く。


「食欲ないですか? 箸が止まってますよ?」


「いや、ちょっと考えごとしてた」


「せっかくのご馳走ですし、心行くまで堪能しないともったいないですよ」


「もちろんそのつもり。結局お金の心配をする必要もなくなったしな」


 お金については御門さんから100万円を受け取っている。なんでも今回の戦いで手を貸すことができなかったことに対する謝罪らしい。


 俺たちだけでなく、今回学校を守るために戦ったすべての人間には後日御門家側から報酬は支払われるとのことだ。俺たちもそっちは別枠らしく受け取れるのでそっちもちょっと楽しみだったりする。


「高級部位行きましょう! フィレのステーキをドーンと食らい尽くしてやります」


「私はサーロインでお願いしますわね」


「いいんですか美麗? 太りますよ。お家の栄養管理師さんに怒られませんか?」


「今日は自分へのご褒美です。文句は言わせません。なにせ仇をとったんですから。たべるぞー!」


 うーん。ご褒美が暴飲暴食というのはお嬢様なのに是か非か。


 レイが、礼は? と目をキラキラさせて来るのだが、正気か? お皿1枚にお肉が6枚、ほおばれるほどの大き目カットだとして、既に12枚くらい食べてるぞ……? 


茶碗で2杯のごはんとサラダやらポテトやら一品料理もお腹の中に入れてたはずなのに。


「食べられるの?」


「はい。まだまだ満たされません」


「よく食うなぁ」


 この前の戦いがあってからレイに大食い属性が追加されてしまった。なぜ? でも明らかに前より食欲が増しているように見える。


 まあ俺的には、

「はしたないですか?」

「いや。無理に我慢する必要ないよ。今日のメンバーは無礼講できるメンバーだし。いきいきしてる君の方がいい」

「ふふ。ありがと」

 と、素直にはしゃいでいるレイが好きなので文句があろうはずもないのだが。


「なあにいちゃいちゃしてんのよ」


「別にいいだろ。あ、ありがと」


 焼けた赤身肉をパクリ。うお、やわらか。醤油ダレとよく合う。


「おいおいおい。お前らだけで盛り上がんなって。追加注文か? 高須、俺が焼いてやる。何頼む。せっかくだし上物いくぞ」


「俺、そういうの分からないんだけど……」


「そうか。なら俺のおすすめいくか。イチボとシンシンって気分だな」


「1皿5500ってたっか!」


「金は学校持ちだろ。こういうタイミングじゃないと食えないぞ。3人前頼め! てかそれを言うならあいつらが頼むヤツなんか18000だぞ。きにすんな」


 100万円も必要ないだろって思っていたのだが、これくらいの人数に大食いする気満々という条件が合わさると、あながち必要だったかもと認識を改めるところだ。


「そういえば、皆さんは今度もらえるボーナスは何に使うので?」


 ステーキが来るまで暇だからか、先ほどまで食べるのを優先してた雰囲気ががらりと変わっておしゃべりタイム。


 でも、そういえば考えてなかったな。


「礼はメイク道具一式でしょ」


「なんでお前に決められなくちゃいけないんだよ。別にメイクなんかなくたっていいだろ」


「だーめーよー! メイクは女子のマナーなの! 強制連行して買うから」


 な……そうなのか。知らなかった。マナーなのか……姉貴に化粧が遅いとキレた時に頭をシバかれたのはそれが原因だったのか。


「じゃあ円が買えよ。なんで俺の報酬で買わなきゃいけないんだよ」


「いいわよ。別に」


「へ?」


「私こう見えてもお嬢様だし、懐にお金は十分あるもの。それなら文句ないのよね?」


「ぐぅ」


 無敵だなコイツ! これだから金持ちは。


「けんか弱いでしょきみ。こりゃ将来、伴侶にいいなりになっちゃうタイプね。やさしい夫捕まえたほうがいいよ」


 明奈のツッコミに『かいしゃくいっちー』とか言って笑った円はゆるさん。ええいわらうなー、にやにやするなー。


「俺は自分の剣を作るよ。薄紫はレイに返して自分の剣をそろそろあつらえないとな」


「真面目だねー」


「うーん。それ以外にはこれといって考えつかないんだよなー。高須君は?」


「ふぇ?」


 ふぇ? ってなんで驚くんだよ。


「え、ええと。その。えーと。貯金かな。好きな人に告白するときに、ちゃんとしたデートをして告白したいし。その資金は速いうちに集めとこって」


「うわお、ロマンチック」


「素敵ですね。じゃあ、私も……」


 俺のことをちらちら見ている。大丈夫だって、そんな変だなんて思わないから。


 隣に座っているレイがまた俺に寄りかかってくる。


「惚気やがって」


「俺に呆れてるからには、如月は違うんだな?」


「当然! ……軍で新型武器の発注を」


「俺のこと言えねえじゃねえか!」


「だってー」


 林太郎が唐突に顔を逸らす。ははん。まさかあいつもだな。


「まったくどいつもこいつも女子力ねえな。高須が一番じゃねえか」


「あんたに言われたくないー。大門は何すんの」


「俺はグルメを究めるんだよ。お前らと違って生身だからな。学校周りの店をまだ食らい尽くしてねえ」


「……それもいいかも」


 レイの欲望にどんどんと火がついている話題になっていってるな……。


「明奈は?」


「情報屋に支払う資金と武器の調整」


「なんでそうなるんだよ女子力ねえな。倫世は?」


「えええと。新しい服買おっかなって」


「これだ!」


 なんで大門が嬉しそうなんだよ。


「俺が呆れるんだからやべえぞお前ら。もっと人生楽しめって。今度ボーリング行こうぜ。最近ハマってるんだよ俺。みんなでやりてーなって思ってよ」


「ボーリング、いいですね。私得意ですよ」


「お、委員長いけるくちか」


 如月と林太郎が首をかしげる。


「なんですか、それ?」


 レイも知らなかったのか。


「まあ、楽しみにしとけ。またデバイスで日にち決めるからな。お前ら投票しとけよ」


 俺は目の前に映像を出してどんなものかを見せてあげると、目を輝かせてレイは大門の提案に賛同した。


 ――こういう姿を見ているとやっぱりレイは普通の女の子だなって思う。


 笑ってくれてよかった。俺がこの戦いを超えた意味は確かにあったんだ。だってこうしてレイがこれまで以上に楽しそうにしてくれているから。


 うん。


 本当にそれがうれしい。頑張って良かった。


「ちょっと、その指輪なによ? おしゃれ?」


「え、あ、その」


 言うべきか悩んだが、レイの方は迷いがなかったらしい。


「ペアリングです」


「え……ちょっと、のろけすぎでは?」


「ち、ちが」


 これは新しい契約の形だ。前みたいに心臓を提供することはなぜかできなかった。


 レイはもう心臓の代わりにどこかから呪力を得て自分で呪力を回復できし実体化もできるようになってた。


 だから、その代わりの約束の証にって、レイが自分の呪力で作りだしたのがこれだ。俺もこの指輪があることでこれまで通り、巫女姿に変身できる。


 だから、これは決してそういう意味じゃないんだぞ。


「綺麗ね。明奈がつけてるのに似てない?」


「……気のせいだよ。でも綺麗なのは賛成」


「手の甲みせながらピースして。おお、かわいいー!」


 円、なにニヤニヤしてるんだ。可愛い言うな!

(メインストーリー第1章『開門編』 終 Ver2.0へつづく……)

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