幕間 動き出すものたち

 その背中を見送った夢原希子は、旧平安神宮の誰もいないはずの門の上を見る。


「本部。なりそこないを発見しました。しかも2人です。一部始終を見ていたようですね。処遇はいかがいたしましょう。さすがに2人相手は勝ち目がなさそうなのですが」


 夢原希子にだけは見えていた。


 鬼のことをずっと見守っている銀の髪の女。その後ろには背が高く黒髪のもう1人。人型悪霊との大きな違いは、彼らは本当に人間と見分けがつかないということ。


 そもそも、なりそこないとは、何になりそこなった者を指すのか。


 鬼のレイは人間に戻りたいと言った。もしも鬼となりそこないに密接な関係があるのなら。なりそこないは元人間の可能性が高い。


 だとすると浮かぶもう1つの疑問。


 彼らはいつの時代の人間で、何がきっかけでああなってしまったのか?


 夢原希子に浮かんだ1つの疑問は、手出し無用の返答が来て封じられることになる。


「了解」


 もう一度門の上を見るとその2人はもう消えていた。


 そもそも夢原希子が今回の事件について鬼を追っていたのには、私情だけでなく仕事上の理由もあった。


 夢原希子には2つの裏どりができていない情報があった。1つはなりそこないの出現。昨日の大氾濫でおそらく出てきているだろうと予測が出たのでそれの確認。


 もう1つは。


「伊達家がやっぱり関わってたわけね。この武器、伊達家のものだもん」


 ここで行われていた抗争の中で敵側の一般兵が使っていた機械を拾い上げる。


「これ、伊東家の武器だよね。すでに京都に他の領地の連中が潜入している。少なくとも、天城、八十葉、伊達、伊東は確認したし影の連中も……なんでこんなに? 戦争でも起こすつもり? すごい迷惑」


 京都以外を治める神人たちが京都にやってきているという話も本当だと確信する。


「礼。本当に気を付けて。もしも鬼を狙ってくるのなら、これからくる敵は、今回の規模の戦いじゃ済まない」


 いやいや、と首を振る。姉ならば、自分がまず弟を守らなければと。


「ん、いや、今は妹って言うべきかな?」


 悪いことばかりを予想できてとっても気分が暗い今、唯一の楽しみと言えば礼でどう遊ぼうかという未来への期待だった。






 ん? 林太郎。何で見るんだよ。


「男なのか……」


 あ、やべ。普通に言ってたけど、ここまでの会話の流れで全部自白してるし……。


 もうそんなところまで頭が回らないほどに疲れてるのか俺。てか姉貴、まさかカマかけたのって俺が弱ってたからじゃないだろうな!


「……ごめん。奇妙だよね」


 林太郎が返答に困ってると後ろから、

「林太郎。だいじょうぶだぜ。コイツ男のときもたいして変わりねえから。ちょっと声が低いくらいだ。あの時若干男っぽく見えたのは気のせいじゃなかったんだな」

 大門の余計な声が聞こえてくる。


 学校で変身が解けたときか! くそぅ、まさかこんなことになるとは。


「なるほど。今度ぜひ見てみたいものだな」


 いやいやいあやいやいや。


 そんなすぐに受け止めることないだろう。もっと困惑して。


「へぇ、もともと女々しかったのねゆめちゃんは」


 円、からかうんじゃない。てか何お前もそんなすんなり受け入れてるんだよ!


 どうしてここには衝撃を受ける奴がいないんだよ!


「女の子の振りしてたのぉ?」


「う、それは」


「大丈夫だってレイ。別にそれでゆめのこと変に言うつもりないから。でも妙に男っぽいなーって思うところあったし。ふふふ、弄る話題が増えてなにより」


「礼、すみませんぅ」


 弄るとか言わないで。


「もっとらしい振る舞いも覚えおきなよー? 身内ならともかくちゃんとした場では変にみられるからねー。可愛いゆめちゃんが恥をかかないよう、教えてあげないといけないかな?」


 最後の一言余計だろ。かわいい言うな。くそー、みんなして俺をからかいやがって。


「それは、私がやります!」


 張り合わなくていいから!


「……もうそっちの姿の方が長いんじゃない? いいと思うよ」


 あ、明奈が余計な一言を。


「それなら、メイクの仕方もそろそろ覚えないとですね」

「いいねー」

「いいねー」


 うわぁ、話が合い始めた、円と如月とか絶対に面白いから悪ノリしてるだろ。


 妙な計画が動き出してしまったぞ。


 大門の方を見て助けを求めている。


「いいんじゃねえの。何事も経験だぜ?」


 前向きだなおい。林太郎。


「……なるほど」


 何に納得してるんだおまえ!


 俺に逃げ場なしか。俺は男だ。巫女の役割が終わったら戻るからな。絶対に。


 ちゃんと本当の姿で、最後は夢を叶えたいんだから。


 フラグじゃない。絶対に戻るから!

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