選択1 消費呪力が+□□□□

第58話 選択1 生きる希望


 ……剣がぶつかり合う直前。俺は自分の異変に気が付いた。


 今までと感覚が違う。刀に流れていくエネルギーが少ないような気がする。


 安住への勝機は最初に一瞬だけだと分かっているはず。


 もう少しもってくれ体。1回だけ。あいつと剣を合わせる1回だけ炎を灯してくれればそれで勝てるかもしれないんだ!


 歯を食いしばり体中の力を剣に注ぐつもりで流す。


 安住は真正面から刃をこちらに叩き込むつもりだ。交わされる心配はない。


 俺も剣を振り抜く。安住の剣をぶっ壊す勢いで、本気で振り抜いた。


 ……?


 剣がぶつかる直前、俺は自分の剣を確かに見た。


 ヤバい。


 剣が燃えない。光ったままだ。ここから煌炎を出さないといけないのにどう頑張っても炎を出すことができない。


 まさかとは思うが、俺は安住と戦う意思が弱いのか……?


 気合を入れろ。例え炎がなくても負けている場合じゃ……!


 ぁ……?


 弾かれた。いとも簡単に。


 いかに炎が点いていないと言ったって、玄武のシールドを力づくで破壊できたお墨付きの呪術剣戟だ。それをそんな簡単に弾けるのか……?


 体に伝わって来たし圧はあまりに強く、完全に力負けしたのは肌で感じた。


 この期に及んでコイツにビビってしまって煌炎を出せない俺には罰が下される。あいつの手で。見事に隙をさらされている今の俺では回避する手段がない。


「ぐぁ……」


 情けなく斬られるしかない俺にとても腹が立つ。でも何より、やっぱり斬られるのがめちゃくちゃ痛い。


 意識が飛びそうになってそれを何とか精神力で耐えてみる。おかげでまだ失神はしなかったけど、その回復の一瞬でさえも安住にとっては隙だった。


 安住の両手持ちをしている力強い剣が次々に襲い掛かる。


 弾くのは無理だ。そう感じてひたすらに後ろに下がりながら、光っている剣を振って必死に剣戟を逸らすか、逃げるか。それが精いっぱいだった。


「その程度で勝つつもりだったのか?」


 安住の苛立ちを隠せない声がする。


 目を閉じたら意識が戻ってこれなさそうな危機を抱えながら、右から首を狙ってみねうちをしに来た剣を回避し、冗談からの真向斬りを呪術剣戟で逸らす。


 脳からの反応に体がついて行かなくなっている気が少し。


 横一文字に斬った直後、ほんの少し反撃へと転じるチャンスがある。


 剣を振った。呪術剣戟だから威力は最悪呪力が保証してくれる。俺はただ刃が通る方向を意識して斬ればいい。


 回避された。追撃を。


 弾かれた。次を。


 剣は交差して、押し込まれて弾かれる。またも力負けした。


 ごす。


 ? あ。


 あがぁゅぅうう。


「がはっ、はあ」


 殴られたのか。


 いや、そんなことを考えている場合じゃない。迎撃を。


 安住を攻撃するんだ……!


「はぁ!」


 あ。腕ごと止められた。


 ぎゃあ。ああ。い……。


「剣が軽い。疲弊しているな。もとから俺と戦える状態じゃなかっただろうに無茶をしたものだ」


「な、だと……?」


「素直に鬼に呪力を渡していれば、とか考えるなよ。そんなことをさせる前に鬼は斬っている。もとよりお前は俺との勝負に乗った時点で詰んでいる」


 体に異物が入る感覚。


「が。あ……ああ……」


 いたいいたいきもいいだだいあいあ。


 刺されたんだ。そう頭が理解した後は痛みを我慢することしかできなくて。


 無様にその場で崩れ落ちたのを自覚した。


 なんでこうなった。どうして。何がいけなかった。


 本当に、俺に勝ち目はなかったのか……?


 俺から剣を抜き離れていく安住が狙うのは間違いなくレイだった。今、レイはまだ万全な状態じゃない。


 このままじゃまずい。


 だけどもう体は動かなくて、聞こえてくる声でしか何をしているか判断することはできない。


 レイ。レイ。


「逃げ……」


 て、とまでは言えなかった。それは俺が力尽きたわけではなく。


「……私も巫女を。よくも」


「覚醒に近づいたか。その目、漂う妖気。あの時に見た鬼そのものだ。だが、お前はまだ、その上がありそうだな」


 旧平安神宮に訪れたときに彼女から感じた負の力と同じ。


 絶対に良いものとは言えない呪力が沸き上がっているのを感じる。


「呪力を集めていたようだが、間に合わなかったようだな」


 次に聞こえてきたのが、彼女の断末魔だとわかったとき、俺は絶望と共に意識を失った。






 生きる希望を失った命が失われるのは早く。致命傷を避けたはずの安住が鬼を始末した後に救出した夢原礼は、なぜかすべての呪力を使い切って意識不明となった。


 彼が最後に呪力を使い切った理由は、まるで自分から手放してしまったかのようになんの意味もない呪力の拡散。


 安住は手紙を残し、そこで自害する。夢原希子には、鬼の巫女の真実と申し訳なかったという言葉を残した。


 悪霊は現れなくなった。


 そして神人との戦いに専念できるようになった反逆軍と御門家は今日もこの人類最後の楽園を守り続ける。


 人類の楽園はこうして守られたのだ。


 めでたしめでたし。






 ――鬼の行く末によっては神の核はあるべき姿を取り戻し、この時代を日本最後の戦国時代にできたかもしれない。


 だが、夢原礼が生き残ってもその可能性は砂粒ほどであり、考えるに値しない可能性だ。鬼の覚醒をさせてしまえば終わりなのだし、現状維持、これが最善だっただろう。


 だから、悪は討たれ、めでたしめでたしなのだ。


 夢原希子は今日も平和の礎となった家族と部下の墓へとお参りに行く。


「……私、死ねないんだぁ。早く会いたいよ。礼」

(BADEND4 肝心な時に呪力切れ)

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