第57話 安住の本意(分岐あり)
場所は違うがあの時と同じだ。
俺はあの男の強さをよく知っている。今だって正直剣で戦えと言われたら技で叶うイメージはない。
あの時よりずっと戦いを学び、経験してきたからこそ、安住の強さが少しずつ理解できてきている。
だから俺に勝ち目があるとすればパワーだ。煌炎の剣であればアイツの剣をもろとも斬ることができるだけの可能性があるから。
躱されたらその後はどう考えても分が悪い。やるならあいつが俺を潰しにきたその瞬間だ。今すぐとびかかることはやめておこう。
「潮時だってのは、俺を殺すのがか」
「そうならないように願ってはいる。だがそこの鬼は殺す」
「なら、俺が渡すって言うと思うのか?」
「その目。もはやお前は、正しさをも踏みにじるつもりなんだな。本当に京都にとっての悪となったわけだ。だが悪あがきはさせてもらうか」
俺のことを認めないつもりなのはよくわかるよ。
「礼。あの男はダメです。どうか私にやらせてください。あなたの呪力を少しくだされば1分は戦えます」
「でも、君はまだ本調子じゃない。大丈夫。まだ戦えるから。信じてくれ」
反論は来なかった。俺のことはもう信じてくれるみたいだ。鞘に戻してある〈薄紫〉に再び手をかける。
まあ、アイツの言いたいことはわかっている。
「レイは悪くない」
「まだそんな甘いことを言うのか。その目で見てきただろう。痛い目にあってきただろう。その女が生きている限り、そいつを狙う敵が必ず現れる」
「なら。街を出ていく」
「だめだ。外で覚醒されたら結局鬼は京都の敵。その女はやはり殺してすべてを終わらせる」
「殺すことに意固地になっているのはお前だろ。俺がそんなことさせない」
「俺は心底分からん。なぜ納得しない。なぜ分からない。敵は戦いを呼び、関わりのない人間が死ぬ。それを見逃せと言われてどう納得しろと」
納得するなんて思ってないよ、もう。
俺には俺の正義がある。たとえ誰が敵になっても最後まであの子の味方であり続けると。その覚悟はもう決めた。揺らぐことはない。
「ああ。常識的に、普通に考えれば、鬼がまずい存在だってわかる。お前の言う通り、俺のやっていることは褒められることじゃないかもしれない」
「その言葉が出ただけ少しはマシな感覚になったか。だが結論が変わらないんじゃ意味がない」
「そうだ。だから俺たちは相容れない」
「俺たち? バカを言うな。お前が社会不適合者なだけだ。京都がすべての生命の生存が望まれる人間の楽園。なんて幻想は捨てろ。この街は生贄を差し出して害悪、不要、不調和を殺しつくして、ようやく奇跡的に存続してきた街だ」
相変わらず口悪いな……そこまで言わなくても。
「さっきの茶番はお前も見ただろう。あの男も生贄と言っていたな。そうだとも。俺たちはそんなに長くは生きられない。軍や御門家の若者が25歳を超えて五体満足で生きられるのは全体の3%」
何……? そ、そんなに低いのか。それじゃ、如月や林太郎も。
「俺たちは自分の生存に自分で責任を持ちたいだけだ。死にたがりなわけじゃない。悪の芽を見つけた瞬間に滅ぼすのは、未来の俺たちが死ぬ可能性を減らす行為。俺たちは間違っているか? 夢原」
まだ動かない。いつ斬りかかってくるか冷や冷やしていたけど、あいつは俺に言いたいことがごまんとあるみたいだ。まだ、剣を構えてもないしこちらに迫ってもいない。
どうしてここまで言葉を尽くすのか、だんだんと気になって来た。もう、俺は何があっても覆らないというのに。
「お前は知らないかもしれないが、この騒動の間も『影』や神人の暗躍や侵攻が絶え間ない。職務に忠実に戦っているのに、街からは鬼を何とかしろだの、暴挙を押さえろだの、クレームばかり。生意気な奴が声をはりあげてると分かっていても、嫌にもなる」
う、それは、その人達に申し訳ないとしか言いようがないな。
「人型悪霊が150体氾濫し、一般人の死者は500名程度しか……、も出た。それは明らかに鬼の存在が原因で起こったことだ。責任をとって死んでほしいわけじゃないとはいえ、今後もこの数で死人がでるのを見過ごすことはできない」
そ……そんなに死人が出ていたのか。あのドクロが起こした騒動で。
「例え首謀者が起こしたことであっても、未来に救える人々と1人の命を天秤にかけるのなら、善き人間なら喜んでその女を差し出すべきだ。京都で生まれ、育ち、この街を好むのなら」
「でも、その死人はレイが好んで出した数字じゃないだろ」
「そんなことはどうでもいいんだよ。人情を重んじるなど綺麗ごとだ。この世界は数字と分かりやすい印象がものをいう。現に、今のお前を喜んで迎え入れる人々がこの街にいるか? 本当はお前たちこそが懸命に戦っていたというのにな?」
反論が思いつかない。俺にもっと頭が働けばうまい言い返しが思いついたかもしれないけど。レイの前で自信たっぷりに立っている割に情けない状況だ。
「目の前で、必死に助けてと願った人を見捨てるのは善いことじゃないはずだ。そして一度手を差し伸べたのなら、全力で助けになるのが俺のするべきことだ。俺はそう信じてる」
「だから、その鬼を救うと? 責任をとると?」
「そうだ! 俺は。俺だけはレイの味方だ。その手を取ったんだから」
安住の眉間にしわが寄る。
恐ろしい殺気……いや、これは怒りか……?
「ああ。そうだな。間違っていないと、昔の俺は言っただろう。きっといいことだ。だがな。お前のせいだ。1万回言われたことがあるのか」
声のボリュームがどんどんと上がっていく。
「自分の行動が、自分の至らなさが多くの人間を不幸にする! たとえどれほど手を尽くしても、どんな事情があろうとも、一度道を踏み外せば、そいつは人間に不利益や負の感情をもたらした悪とみなされる! 責任をとれると本気で言えるのか?」
「そのつもりだ」
「お前は知らないからそう言える。そんなもの、個人が責任を取れるようなものじゃない! 命に次はない。次は頑張るはないんだ!」
ここまで激しい感情をさらしてくる安住は……本当に初めて見た。
「他人であれば破滅は捨て置くがお前は違う。俺の命の恩人である総隊長の生きがいである可愛い弟。お前はこのままいけば破滅する、そして多くの人間を不幸に追いやる究極の悪へと変化しようとしている。お前はそれが望みなのか! 答えてみろ夢原!」
心が震える。
今までのように俺たちを命あるものとして見ていないいつもの安住とは違う。
あいつが言葉を尽くすのはすべて、俺の姉貴のため、そして俺のためだった。
「お前は、その鬼を手に取りさえしなければ、きっと善い人間なんだ」
あいつの言葉に間違いはなく、あいつに非はおそらく、ないのだろう。
でも、ここまで来たんだ。
多くの人の努力があった。レイを認める多くの人がその命を懸けてつないでくれた奇跡だ。そして俺がそうしたいと願ってつかみ取って来た結果だ。
レイに生きててほしい。それだけを願ってここまでやって来た。その軌跡を思いを何を言われたからと言って捨てていいわけがない。
何より俺はもう、揺らがないと決めた。
ここまで不幸にしてしまったすべてが元に戻らないのなら、その先で必ずそれに意味があったことを示してやる。
「俺はそれでも、彼女は捨てられない」
安住から感じる気配が、怒りからまた殺気に変わった。
「そうか。なら問答はここまでだ」
「ああ」
「お前が呪われているのなら俺がやる。無理やりにでも鬼の巫女を殺し夢原礼を取り戻す。目覚めた時、鬼が死んでいると分かれば、あきらめもつくだろう」
剣を構えた。
最初の日と同じ、いや、それ以上のプレッシャーだ。
俺も剣を構えた。
俺と安住、どちらの主張が生き残るべきか、その決着をつけるために。
足を前へ。
安住が近づいてくる。俺が近づいていく。
剣は斬るべき敵を間違えることなく、空を斬り、敵である安住へと向かった。
二歩先。今、剣は交わる。この一瞬が勝負だ。一撃で決着をつける。
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分岐のふりかえり
25話 人型悪霊との激闘
1 己の中の呪力をさらに使って呪術剣戟を強化し、力づくで術師へと斬撃を弾き飛ばす
→26話―1 消費呪力+60
2 無理はせず、この撃月を相殺できるまで呪術剣戟とぶつけ続ける
→26話―2 消費呪力+40 負傷+1
38話 水晶野郎との戦い
1 円形ののこぎりを止める
→39話―1 明日を掴む炎のためにすべてを捧げよ 消費呪力+20
→40話ー1 選択2 意識を集中させて気配を探る
→40話ー1 選択3 周りの骸骨兵の様子をうかがう 負傷+1
2 水晶野郎を攻撃する
→39話ー2 悪を祓う巫女の善なる炎 消費呪力+25
→40話ー2 選択2 近づいてくる射撃音の正体に注意を向ける
→40話ー2 選択3 その場で様子を見る 負傷+1
52話 決着のとき
→53話ー1 ようやく約束を果たす 消費呪力+10 負傷+1
→53話ー2 団子屋の2人に捧げる勝利 消費呪力+20
以上を踏まえ、この先第1章の最終分岐をします。
(消費呪力の合計が+95以上)→選択1
(負傷の合計が+3以上)→選択2
(それ以外)→選択3
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