第55話 再会の喜びとともに
ん? この感じ……。
「結界が解けたか。本当にギリギリだったな……」
マジか。円の言う通りだったな。何とか決着がついてよかった。
「外のみんなは大丈夫かな」
「確かにな。だが、そりゃやることやってからにしようぜ」
「……そうだな」
この後やることとしては円の援護だろうか。それともまっすぐレイのところに向かうべきか。
「俺が円の方に行く。お前はおにれいの方にいってやれ。俺はもう目的を果たした。だがお前はアイツを助けないとだめだろ」
大門の言う通りだ。今は何よりレイを最優先しないといけない。
「まかせた」
ちょうど窓から上に行けそうだ。屋上でまだ捕らわれているだろうレイにもうすぐ会える。とにかくいろいろ話したいことがあるけどまずは奪還しなければ意味がない。
一番近くの窓の外から外に出ようとした。
――嫌な予感。俺は窓から出ずにむしろその場から離れ剣を再び構えた。
ドガガガガ! ズガン! ガン! ガガガガガガガガガガガガ!
豪快に、強烈な破壊を目の前の壁を破壊していく水晶の茨。
冷や汗が流れたのを感じる。まさか。でもそれしかありえない。
「へ、へへ……ァァああああああ! ハハハ!」
間違いなく体は切れている。大門の攻撃も真正面から受けきっている。もう立てない体をむりやり起こし、ゾンビみたいに立ち上がって、血をだらだらと流してなお笑みを浮かべる狂人。
正直、ドン引きだ。ここまでやるのか。あの死に体で、なんでそこまで笑えるんだ。
「安心、しろ。お前らの、勝ちだぜ。だが、俺の本気をまだ、見せてないのに、死ねねえよなァあああ!」
別の壁から巨大な何かがやってくるのを感じる。
「大門! そこから逃げろ!」
警戒。剣に光を灯した。
「大水晶、食人花アア!」
壁から大きな花がまるで生物であるかのように動いてやってくる。それだけで十分恐ろしいものだ。
花には水晶の棘がたくさんある。花の中心がまるで口の中のように見えて、俺はそれがなんであるかを察した。
食われる。
あの花は口だ。俺たちを閉じ込めてあの棘でかみ砕き飲み込む、そういうおぞましい以外の何者でもない生物。
呪術は人の想像によって生まれる。なら、あの人を食いつぶし飲み込む化け物もまたあの男の想像から生まれたものだということ。
ゾッとするだろう。この男はどんだけ人間を殺したがりなんだって。
なにより、もしも呪術を封じる結界がなかったらこれが俺たちの前に待っていたのか?
これがあるからって負けるつもりはないけど、さすがに状況はとんでもないほど悪くところだったな……。少なくとも俺と大門が両方今みたいに五体満足では勝てなかった。
「野郎……!」
完全に後れをとった。花の大きさとスピードから逃げるのはほぼ無理だ。
もうこれを壊すしかない。けどそれはあまりに危険すぎやしないか……?
「死ねええええ?」
いや、ここまで来て花に食われて終わりはあまりに馬鹿らしい。
やるしかない。剣に呪力を集中させて……。
「いい光だぜェ! 光……あ、やべ」
は? やべ? どういうことだ。
ぴきぴきぴき、と音がする。正直限界に近い俺は、もしや、と都合のいい想像をした。
さすがにそんなことないだろと理性が勝ち剣を構えていたけど、まさかまさかで水晶の妖花は自分で崩落を始めてしまった。
なんで……? でも、なんにせよ悪いことじゃない。
「いい加減……」
大門の動きは速かった。死に体のそいつにとどめを刺す一撃。
「くたばれェ!」
オーラを手に最大に集中させて放つ渾身の裏拳。なけなしの水晶の盾を容赦なく爆散させ、水晶野郎は吹っ飛んで壁にたたきつけられた。
壁を見事に破壊。大門のとどめがいかに威力が高かったのかが想像つく。
「でも、なんで……あの花が」
「まるで自分で崩落しやみたいだったな。俺から見ると、アイツがお前の光ってる剣を見た後にそうなってたぽいぞ」
呪術は想像を現実にする。何もいいことばかりじゃないらしい。自分で作ったものを自分で壊れる想像をしてしまうとそれが現実に反映されてしまうのか。
「もしかして、光の攻撃を使う奴に前に痛い目にあわされたのかもなぁ? ざまあみやがれ」
……光の攻撃。思い当たる人が1人いるな。高須くん。
ん? 待てよ。高須君も戦ってたって言ってたよな。まさかコイツと。てことはもしかしたら。
「どうしたみこれい」
「高須君に感謝しないと。君が、俺を守ってくれた」
「ん……? ああ。そうか。もしかしてこいつが。へへ、アイツの戦いも無駄じゃなかったってことだ」
こつこつ。足音がする。
でも今度は剣を抜かなかった。この気配は悪い感じじゃない。
「て、ちょっと。なんでこんな壊れてるのよ」
「いろいろあったんだよ」
「でも倒せたのね。良かった」
「そりゃこっちの台詞だ。よく1人でなんとかしたもんだぜ。あの女も相当強かったと思うけどな」
円は呪符を出して俺と大門の傷を手当してくれた。こういう時呪術って便利だなぁと思う。俺も剣ばかりじゃなくていろいろ学ばないとなぁ。
「ありがと」
「ゆめ。お疲れ様。本当に」
「ん? どしたの急に」
「だって無謀な戦いを勝っちゃうんだもん。感心したわ。そうだ。さっき外を見てきたけど表の連中全員くたばってたよ。さすがうちの生徒会と風紀委員。しかもこっち死者0みたいね」
あんな大群相手に? やべえ人たちだなホント……。
「ようやく。レイに会いに行けるね。堂々と安心して。邪魔する奴ももういないんだし」
「そうだな。うん」
「まだいじけてたら、私を1人にしないでって言ってきなさい。そうすれば必ずレイは戻ってくるでしょ」
いやいやいやいや、なんでそんな乙女みたいなことを言わないといけないんだよ……。
それに伝えるべきことはさっき伝えた。レイは信じると答えてくれた。
なら、もう大丈夫だ。きっと。
「じゃあ、迎えに行ってくるよ」
2人に見送られ、俺は屋上へと向かう。
屋上で磔になっていたレイ。だけどさっき覚醒仕掛けたその時の呪力で拘束が外れかかっていたのだろう。
今はもう、処刑台から解放されてはいたが、その場でへたりこんでうとうとしている。
だけど、俺の姿をみたら意識がはっきりしたみたいでこっちを向いてくれた。
「お待たせ」
ふらふらしながら立ち上が彼女には今呪力が足りていない状況だ。
呪力を渡そう。と思ったがふと思った。
心臓は戻っている。契約はもう切れているのかもしれない。その場合今までと同じ方法で呪力を渡すことができるのだろうか。
でも、今彼女に説明を求めるわけにはいかないしな――。
ちょっと、レイ? え? 何を? ダメだって、さすがに外じゃ恥ずかしいって誰かみてるかも。
と、思った時にはもう遅し。壊れた建物の屋上で愛のこめて抱き合うことにな……。
――――?
え……。
これって。まさかキ、
「100%じゃないですが、充電完了ですもう大丈夫」
あ、ああ。それなら良かったけど。
「ふふ、顔を赤くしちゃって。礼は可愛いです。一生その姿でいてください」
「冗談はよせって」
もっとシリアスな感じの再会になると思ったけど、思いの他そうでもなかったな。でもさっきそれはもう済ませたから、必要はなかったのかも。
「そうだ。もう一度契約をしないとレイの呪力は」
「それはもう平気です。神の核との呪力のパスができたみたいです。私に少しずつですが呪力が流れこんできています。この土地を伝って。それで戦闘がなければ常に実体化できます」
え、それってまずいんじゃ。
「でも本当にパスがつながっただけみたいです。そのほかは何も変わらない。相変わらず、人間に戻りたい私です」
「平気なんだよね?」
「はい! でも急速に回復したい場合は今まで通り礼の呪力をいただきますね」
手をつなぐ。確かに今の彼女から暖かさを感じる。こうして触れてようやく安心した。
「ありがとう。私にとってあなたは本当にヒーローです。いつも約束を破ってばかりのわがままな私を、あなたはこうなってなお救ってくれた」
「俺としては、そんなつもりはなかったけど」
「今度こそ。私の命はあなたのモノです。あなたが絶望しない限り、もう二度と勝手にいじけたりしません。例え、多くの人間を殺すことになる原因になっても、私は、私のままこの世界で、人間として生きたい」
「うん。必ず人間に戻すから。信じてくれよ」
「はい!」
なら帰ろう。俺たちの居場所……学校に在るかなぁ。まあなければ辞めて別のところに行けばいいのだ。
時間ならある。ゆっくり真相に近づいて行けばいい。
手を取り合って俺たちはこれからも。一緒に。
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