第1話 新聞に載っている同級生を発見!
呪術基礎論の授業。まさかの授業担当はこっちもヤンキー先生だった。近接指導のプロだけでなく、呪術も教えられるとは。
「お前らさぁ? なんで呪術って名前なのか知ってるか?」
授業始まってすぐこんなことから話は始まった。
「それこそ『魔法』って言い方にならなかったのは気になるよな?」
確かに、言われてみれば……。
「広い意味で言えば、ノロイもマジナイも超人的な存在に願って人に不幸や幸運を起こすこと。これは現代における呪術にも通じる考えだ。魔法との大きな違いは1つ」
前に板書で、2つの違いを文字にしたものを映し出す。ヤンキー先生はああ見えて感覚論否定派だ。言葉にできることは徹底的に明文化する。一ノ瀬先輩談。
「魔法は因果現象だ。体内の素となるエネルギーを使うのは同じだが、それで生み出すのは、起こしたい現象の要素、つまり原因であり、それを組み合わせ反応させ、目的の大きな結果を生み出す」
前に大きな文字で書かれているのはその続きだ。セオリーであるため誰でも方法を学べば再現できる。そこに個人の意思や技量に関係はない。
「呪術は、結果だけをその場に作り出すものだ。各自が『こんなことを起こしたい』という具体的なイメージがそのまま現象として発生する」
板書にはその続きが書かれている。
呪術は先ほど言った通り人間の強い『願い』が実体化する超常現象の類。だれでも再現できるわけではない。その人がものすごく具体的な強いイメージを持つとそれを体内の素が読み取り、現実化するものだと。
「呪術の授業では想像力、起こしたい現象を具体的にイメージできる頭が必要だ。そしてそれは、何も呪術だけでなく、俺たちが戦う上で常に必要になる」
授業が終わった後レイと合流する。レイは呪術を得意とすることから、呪術基礎論は御門家の呪術師と同じ授業免除となっていた。
レイはその間は悪霊研究会の部室に入り浸り資料を片っ端から読んでいるらしい。ゆえに暇はしていないそうだ。
「資料探すのも本当は俺も手伝わなきゃいけないのに……ごめんな」
「授業を受ける権利は礼の意思が勝ち取った報酬です。資料を読めるのもその恩恵ですから、むしろ私の方が資料を読む時間、ありがたくって思ってますよ」
「それは、必要なことだったから」
「礼が私に楽しめるところは楽しんでいこうと言ったのと同じ。礼も私のことだけでなく、せっかくの学校でいろいろなことを楽しみましょう? ね?」
……まいったな、これは一本取られた。俺が言ったことは自分でも実践しろと言われてはぐうの音も出ない正論だ。
確かに今までとは違う環境で、新しいことに多く触れられる今はとても楽しい。ただ、この状況に浮かれて私との約束のことないがしろにしているのでは? と疑われるのはちょっと怖かったところだ。
「最近は結構一緒じゃない時間もあるから、レイのことちょっとサボりがちかなって思ってたところもあってさ」
「礼はいつも私のこと考えてくれてますね。うれしいです。でも焦らないで大丈夫」
声のトーンも、顔も、しぐさも、いつもの穏やかなレイだ。『焦らない』は嘘ではないと聞き手の俺も安心できる。
「礼は勉強、修行、実戦経験、あなたの理想を叶えるためにすべきことは多いです。だからお互い、今できるいろいろなことを吸収する。それでいいと私は思います。私の問題は時間がかかるし、焦る必要なんてないです」
「そう言ってくれると助かるよ」
「はい。今日は修行の日なので、ジオラマシミュレーション室へと行きましょうか」
修行においてレイは師匠。彼女が提案する修行場所に反論はない。
「あれ、あれは……」
「どうした?」
レイが注目したのは張り出されていた新聞記事。どうやらある部活の発行した新聞のようだ。よく見ると結構興味深いことが書かれている。
――新聞部が今回発行した週刊の部誌で、特集を組んだのは反逆軍について。
この街の自衛と治安維持を遂行する貴き組織ではあるが、実は主戦力として活躍しているうち6割以上は18歳以下。
これは呪術の大家である御門家も同じ傾向にある。
若者を戦わせるってどうなの? という話は昔から何度も何度もされてきたのだが、戦いに用いる呪術を使うための体内エネルギーを最も速く回復できて、最も多く持てるのは10代から22歳くらいまでの間なのだ。
さらに言えばその時期に戦いの経験を積まなければ、そのエネルギーを発生させる器官が衰えてしまう。
京都を守るという目的で理に適っているのは有志の若者に戦ってもらうこと。
幸いにも、というべきか、反逆軍や御門家に属して戦う者たちはかねてより人格的に善い人ばかりだ。彼らが誉れ高く活躍する姿を常日頃から見ている次世代の子が新たにその道を志す。
またこの街は常に戦いに満ちている。無抵抗でいるよりは抵抗の術を知っておきたいという興味を持つ若者も少なくない。
そういったループができているので有志の数が減ることはない。現にこの学校に1000人以上の入学者がいるのはいい証拠だ。
――ちなみにここまでは新聞の中身の導入部分をそのまま見ただけなのだが。
それはさておき、そういえば、と思い出したのは、同級生にも反逆軍に属しながらこの学校に通っているやつのこと。
所属を複数持つことは禁じられていない。御門家と反逆軍という重複は御門家が禁止していると円が言っていたけど、彼女だってこの学校に通っているのだから、学校兼業はありらしい。
「あ、2面のインタビューを受けているのは、如月さんと林太郎くんですね」
何度か授業で一緒になったのだが、2人ともフレンドリーで授業のグループワークではそれなりに交友を深められている。
そうか、2人とも反逆軍と学校掛け持ちなんだな。
インタビューの中身の文を追っていくと。見覚えのある名前が2人の口から出ていた。
「夢原希子……姉貴じゃん。どれどれ、歩家領地にとらわれていたところを姉貴に救われて……? この前の遠征の時ってことか」
「お姉さんは遠征に行くこともあるのですね」
「ああ。実際俺姉貴が遠征とかで何やってるか知らなかったけど……ちょっと興味が出てきた。もう少し読んでみるか」
「彼らに話を聞いてみるのもいいかもしれませんよ?」
「教えてくれるかな? 俺この前夢原希子の妹説否定したばかりだし……」
「ちょうどインタビューに書かれていたことを詳しく訊いてみる体でいいと思います。ごはんに誘ったり、他にも何かいいタイミングがあればその時に」
そうだな、気に留めておこう。
新聞も一通り読むことができたので、またその足を訓練場所へ向かうために動かし始めた。ただ頭の中で何を訊こうか考え始める。
そういえば俺は反逆軍のことも、街のために戦っている人たちということくらいしか知らない。姉貴は教えてくれないから、2人から何か聞けるとおもしろそうだ。
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