キャラクターストーリー 「姉貴に導かれた同級生 如月《きさらぎ》と林太郎《りんたろう》」

予告エピソード 特別インタビュー!「Youはどうしてこの街へ?」

 マスメディア情報発信部のインタビュー室は、各部員に定められている月1回のインタビュー記事作成の取材のために明かりがつけられることが多い。


 1年生の新入部員であるみずほは、初めてのインタビュー記事作成をするにあたってその標的をすでに決めていた。


「今日は忙しい中ありがとね!」


「いえ、でも俺たちでいいのか?」


「そういう企画だから。お気になさらずってことで」






 インタビュー記事はもう決まっている。


 聞けばみずほの目の前にいる2人が京都に来たのはなんと2か月前。神人が支配する外の世界からやってきたということになる。


 基本的に京都の外へは特殊な資格がなければ行くことはできない。その時点で京都の外について興味を向ける人はほとんどいない。


 外の情報が完全にシャットアウトされているわけではないが、各マスメディアが積極的に外の話に触れるのはタブーになっているし、取材なんてもってのほかだ。


 外に興味をもって資格もなく勝手に出て行った場合、無事に帰還する確率は3割を下回る。危険なところへの興味を持たせることは積極的に勧められないという理由もあるのだろう。


 そのため外の知識を持っている人は少ない。情報として出回る量も少ない。


 だからこそ外から来た人にその場所の話を聞くだけでも、希少なケーススタディとなり価値のあることだ。そしてこの学校と協力関係の関係各所では外の話はタブーではない。


 みずほのインタビュー記事はまさにこの学校でしか作成できないものであり、彼らの出身の地方の情報を得られるということもあって、多大な注目を得る記事になるだろう。


 みずほはインタビュアースイッチを入れて気持ちを切り替える。


「では、如月さん、林太郎さん、本日はよろしくお願いしますね」


 初めてのインタビューとだけあって、早速監督役の先輩からダメ出しが入る。


「みずほ、如月も林太郎も名字ではないぞ、相手が許可するまでは名字呼び!」


「しゅみません」


 如月と林太郎は2人して笑顔で、

「いつも通りの呼び方の方がリラックスして話せそうですし」

「うん、気を使ってくれたようでありがたい。俺らは別にこだわりはないので大丈夫ですよ」

 と初心者インタビュアーをさりげなくフォローした。


 初めに話が出たのは、やはりどこから来たのかということだ。


「中部地方にある歩領から」


 如月が結論をドンと突きつけるが、インタビュアーのみずほは首をかしげる。林太郎がすぐにわかっていないことを察して補足を入れた。


「中部地方は北を神人の一族たる伊東家、旧長野区域南部にある場所だ。位置的に天城家の領地が近く、防衛線の重要拠点になっている」


「ほぇ……そんなところが。でも、伊東家と言えば、噂によると人間区別主義を掲げる領地ですよね。そこで人間として生まれたということは」


「ん、それはまあ、大変でしたよ。だけど俺たちは運が良かった」


 林太郎がしゃべりすぎなのが気に入らなかったのか無理やり話に割り込んでくる。


「寺子屋っていう人間の子供をかくまって育てる場所に預けられて、そこで同級生20人くらいと先生と一緒に過ごしながら、いつか京都に逃げることを夢見てた」


「なるほど……寺子屋と言えば、京都では学習塾の形態の1つですけれど、そっちの地方ではそういった保護施設だったのですね」


 鉛筆で今聞いたことをメモする。実際インタビューは録音しているので、このメモは話の内容というよりは、インタビュー中での記事構成や内容、話を聞いて思ったことや取材者のメモなんかを書いている。


「では、その施設の手で京都に無事に?」


「人間差別主義、いえすみません、こっちでは区別主義ですよね。その思想を持つ領の支配者である歩家に見つかって俺たちは誘拐され、監禁されていましたね」


「それは……その、あまり聞いたらまずい?」


「いや、そこでの暮らしはひどい思い出ですけどその後に奇跡を見ることをできた。それだけで俺たちの運命はまだ終わっていなかったと思えたんです」


「奇跡?」


 如月は満面の笑みでその軌跡の内容を話す。


「友人が脱獄して、その後に反逆軍を連れて助けてくれた。すごいなって本当に思った。その友人も、助けに来てくれたどの人も。私たちもそんな人間になれたらいいなって思って――」


 如月は語る。当時、反逆軍に助けられたこと。そこで命がけで戦う反逆軍を見た時、自分たちの生き方が決まったのだと。







 3か月前。如月と林太郎の古くからの親友、ノボルが味方を連れて、死にそうになりながらも助けに来てくれた。


 永遠の疲労を与えられる水の牢獄にとらわれていた林太郎と如月は、彼が連れてきた反逆軍の人たちによって解放された。


 その時、反逆軍の、そして歩家への抵抗軍の指揮を執っていた人は数人いたがそのうちの1人が、当時反逆軍の守護者第9位『夢原希子』。


 血を流し、左腕を時々右手でさすっているところを見て、如月も林太郎も、これほどの人が命を懸けてまで助けに来てくれたのだと感動した。


 元々、捕らわれる前から如月も林太郎も強くなりたいという願望を持っていた。寺子屋では先生に武器の使い方を学んでいたほどだ。


 もっと強くなれば誰かに何も邪魔されず自分らしく生きていけると、そんなことを漠然と考えていた。


 漠然な理想が中身を得始めたのがこの戦いだったのだ。けがを負ってまで『人々を救い、守る』という理念を掲げ命がけの戦場を走る反逆軍の姿を見て。


 自分たちもこんな大人になれたなら誇らしいだろうな、と。


 その憧れをより強めたのが、同じ戦いでの最後の一幕。


 ようやく逃げられそうなところに敵の援軍がやってきたとき、絶望的な戦力差の中、死ぬと分かっていながら自分たちを守ろうとした夢原希子の弟子がいた。


 剣を振るい、敵を狙撃で沈め、これまで多くの努力で磨いてきた技をすべて、救われた弱者のために使い、味方の援軍が到着するまでの生贄となった。


 その時、夢原希子の弟子である剣士が放った言葉は2人はよく覚えている。


「俺達は反逆軍だ。俺たちの存在は、多くの人間の救済によって報われる。この戦いが彼らの未来へとつながるというのなら、命をかける価値はある!」


 あんなことが言える人間になりたい。自分の人生に誇りを持てる人間になるために強くなるのだと誓った。そのために、反逆軍に入ろうとも。






「……その言葉に感銘を受けたと?」


「それだけじゃないが、それもあるということで。今俺たちは、その先輩たちの伝手で夢原総隊長の管理する夢原第三隊として、先輩たちから勉強してる」


「うーんと。その、お2人が本当に、その……」


 みずほはつい言葉に迷ってしまった。


 どうして? と。


 ――戦って死んだ人を見たのなら、絶望を前に抗ったのに痛そうにつぶれた人間を見たのなら、恐ろしいでしょ! どうしてまだ戦おうとできるの? そんなの、怖いと思うのが普通じゃないの? もうやめようって思わないの? なんか、この2人、おかしくない?――


 我慢した。みずほは言わなかった。そんなのこの学校にいる自分が言えた話ではないし、今は自分の意見を前に出す場じゃない。


 2人は外の人だから価値観がそもそも違うのかもしれないと自分の意見を封殺して、インタビュー相手を不快にしないよう心掛けた。


「すごいですね。本当に勇気がある」


「私たちなんてまだまだ。それこそ、私たちを助けに来てくれた友人に負けないように、自分で生き方を決めて、それを誇れる人間になるために日々頑張ってます」


(如月と林太郎編 12月27日から投稿開始!)

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