第4話(終) 「『□□』しないと出られない」部屋

 ひぃ、おかしくなる……。タスケテ。


「そこまでだ。そいつは本物だよ。景浦会長?」


 天の助け……まさか玄武先輩がこれほど格好良く見える日が来ようとは。その後ろにいるのは高須くん。こんなところにいたのか。


「どS趣味もほどほどにしろよ? あまり暴走すると学園長からお叱りがくるぞ?」


 高須くんがこっちによってきてお札をはがしてくれた。全身のしびれが取れて解放されたときの喜びは思った以上だ。


「大丈夫? これ、思ったよりつらいよね」


「お前も、やられたの?」


「……本当に男なんだ。でも、印象は変わらないな。まあ、俺としては女の子のキミの方が好きだけどね」


 いや……もう意地悪はいいよ。今の尋問でもう限界だ。


「この子が本当にあの夢原礼なのね」


「俺も男のときの姿を見るのは初めてだが、こいつに我らが御門家の解析術を欺くほどに力はない。学校中を逃げ回っていたのも、男に戻っている状態で変な誤解を招きたくないからだろ」


「じゃあなに、それを見抜けなかった連行者の彼らが悪いとでも言う気?」


「なに、執行部のいいところは疑わしきを罰するだ。不幸な事故とでも思っておけ。まあ、再発防止のために男の方の生体データを登録していつもの夢原に紐づけするくらいは必要だな」


 玄武先輩は俺を連行してきたうち、力士の方に目をやる。力士は一礼してすぐにこの部屋を出ていった。今の命令を遂行するためだろうか。


 それにしても生徒会執行部とは生徒会の中の組織だとは思うが、普段見かける生徒会とは印象が違うような……。


 人を失神させて誘拐して、縛り上げて尋問とか闇の組織がやることだぞ。この前会った悪い奴らがやりそうなことで、生徒会がやっちゃダメだろ。


「すまない夢原さん。私は生徒会会長、景浦真。生徒会、および生徒会執行部を統括して学校内の雑務を主に担当しているの」


 今みたいのも雑務なのか。そんなことないって。


 ところで1つ気になることが。


「生徒会と生徒会執行部は何が違うんですか?」


「生徒会が学校の運営の補助に力を入れる組織であるのに対し、執行部は学校の治安維持を裏から支える組織よ」


「でも治安維持なら風紀委員会がいるんじゃ……」


「風紀委員は表向きの治安維持を行う。団体同士の抗争が起きそうだったらそれを仲裁したり、違法でなくても学校規則に反することを取り締まったりする警察的な組織。対して執行部は特殊部隊みたいなもの」


 特殊部隊と言われればまあ、こんなことされている時点である程度、やべー組織だなとは察しはつくけれども……。


「違法行為に走った生徒を摘発して手段を問わずそれを鎮圧できる権利が与えられた組織。手段を問わずとは、相手を攻撃しても許される。もちろん、そういう組織だからこそ、下手な人間は所属させられないけどね」


 恐ろしい組織もいたもんだな。そんな学校に忍び込もうとしていた過去の俺はやはり認識が甘かったと思わざるを得ない。


「ちなみにどんなお仕事を……?」


「過度ないじめを行っていた生徒をハンゴロシにして自主退学させたり、学校内に入ったスパイを捕まえて更生させたり、違法行為を行った生徒を処分したり。後は外敵との闘いでも最前線に立って戦う。風紀委員は指揮、執行部は兵隊として」


 思った以上に恐ろしい組織だった。そんなの学生の領分をはるかに超えている気がするのだが、いいのか、この学校?


「そんな怖い顔をしないで。これでも必要なことなの。誰かが汚れ役を請け負ってでもこの学校にいる8割以上の志高い善良な生徒を2割の穢れでダメにしたくない。それがこの組織の役割」


「でも、そういうのって、生徒がやることじゃないのでは?」


「もちろん大人もやってくれているよ。だけど、こんな仕事普通に求人広告出したら問題だと思わない? だからこの執行部は将来的にそういう仕事をやる人の入り口になってる」


「いるんですね、そういう仕事する人」


「世の中綺麗ごとだけじゃ回らないわ。この当たり前のように武器を振るわれる世じゃ特に、頭のおかしい犯罪者が暴れると厄介なのよ。だからその前に悪の芽は摘む。暴れられたら、ほかの人に被害を出さないために速やかに抹殺する」


 うう、悪寒がしてきた……。まさかそんな話を学校という場所で聞くことになるとは思いもしなかった。


「おや、興味出てきた? でも君はちょっと性格に難ありだから入れないな」


「いや、別に入りたいわけでは」


 てか、正確に難ありってここでも言われるのか。


「まあ別にそれはそれでいいと私は思う。適材適所というのは特に性格に使われるべきだ。ここでやる連中はそういう性格なんだし、君は君でそういう性格でいい。性に合わないというのは最も効率が落ちる。やめた方がいいことだ」


 ガチャ。とそこ扉だったんだという壁が開く。


「礼、大丈夫ですか?」


 レイだ。ああ、こんなにも会いたくなる日がこようとは。


「わざわざ来てもらってすまないな。お前の相棒がトラブってたもんでね」


「いいえ、お知らせいただいてありがとうございます。玄武先輩から直接連絡が来るとは思ってませんでしたので驚きました」


「景浦ちゃん、もういいだろ。解放してやれ。昨日の高須に今の夢原に、最近の尋問不足でうずうずしてた体もおさまっただろ」


「あのね。私そんな人に術流して苦悶しているところをみて喜ぶ人間じゃないから」


「ほんとかなぁ?」


 縄も高須くんにほどかれレイから刀が手渡される。受け取ってこの部屋を後にしようと思ったが。


「夢原、ここで変身しないのか?」


 何を、こんなところで女の子になるのを見せろってのか。


「また外で巡回している連中に当たるのも面倒だ」


 そういわれるとそうだけどさ。そうだ、レイが変身するところまで俺の姿を隠してくれれば。


 レイ? どうして肩に手を置いているの。


「こっちの方が手早いですね。礼、集中してください」


 なぬ? 別にこんなところで変身しなくたって。


 レイから鬼の力が流れてきているのを感じる。どうやら俺が反論する前にことは済みそうだ。


「見ものだな」


 玄武先輩はとてもにっこりと俺を見ている。まさかこれを見たいがためにうまくレイを丸め込んできたんじゃ。


 やっぱりいけ好かない奴だ。


 体が変わっていくこの感覚ももう慣れたものだが、さすがにみられていると恥ずかしい。幸いにも変わる瞬間は呪力の層で俺の輪郭しか見えない。


 しかし輪郭しか見えないので変わる様子はわかりやすく、しかしながら生々しくもないという、見るのに理想的な変身ムーブメントを実現している。


「おお……こりゃすごい」


 身長も少し縮んで、あ、終わったなという感覚とともに、周りから感嘆の声が。


「興味深いわ」


「だろ? 景浦ちゃんも戦ってるときはいつもあんな風に変身してるんだぜ。客観的にみると面白いもんだろ?」


「ちょっと、今の流れだと私が変身魔法少女みたいになるからヤメロ」


 肘で腹にズドン、『ぐぉ』と玄武先輩。十二天将に暴力とかさすが生徒会長の権力といったところか。


「うつくしいな……」


 高須くん? 冗談きついぜ。なんか目がキラキラしてるけど。


「みなさん。お騒がせしました」


「ええ、今後はこのようなことがないようにね。夢原礼」


 生徒会長に見送られ、レイに手を握られ引っ張られていく。この感覚は幼いころ迷子になったときに、迷子センターまで姉貴に迎えに来てもらって回収されたときと同じ感覚。


 まさか……この歳になって同じ気分を味わうことになるとは。顔がほてっている気がする。リンゴみたいに熟した顔になってると自覚できる。


「礼、これからは気を付けてくださいね」


「はいぃ」


 情けない声で俺はレイに返事をするしかなかった。


 あー、その。本当に、今後は気を付けます……!

(終)

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