第3話 みぃつけ……

 いやまて、もしかすると頑張れば別人と間違えてくれるんじゃないか?


 ただ先ほどの大門の様子を見る限り俺は巫女姿のときと似ているらしい。下手に振り返って違う人のようにふるまってもかえって藪蛇の可能性はあるな。


 無視だ。無視をきめこむのだ。それしか光明はない!


 どんどんどんどん。


 無視というのは心は非常に痛むが致し方ない。この痛みもすべて自業自得なのだ。ぐすん。


「もしかして別人?」


「みたいね。それか集中していて相手にできないか。いずれにしても後でいいじゃない」


「それもそっか……ごめんねー」


 幹事の子と円のしゃべる声が遠のいていく。良かった、なんとかなったみたいだ。


「でも夢原さんって可愛いよねー。そだ、今度めっちゃおしゃれしてきてもらおうよ。見てみたくない?」

「確かに、その方が盛り上がるかも――」


 可愛い言うな。


 なんだか恐ろしいイベントを話題にしてた気がするが、それはその時の俺が何とかしてくれるだろう。今はそんなことに意識を向けている場合ではない。


 さあ、進軍再開だ。






 カフェテリアまではもうすぐ。幸いにも今日は見回りが少なかったおかげでなんとかここまで来ることができた。


 もう俺の目には優雅にお茶をしている2人の姿が映っている。


 だが、カフェテリアを見ると、生徒会腕章をつけている人が何人かいる。突撃はハイリスクを極めるうえに、俺が男に戻った件をあそこで堂々と話すのは無理だ。


 仕方ない、オプションだ。


 俺は通信用のデバイスを取り出してレイにテキストメッセージを送ることに。そして俺は幸いにも近くにあったトイレへ逃げ込むことにした。


 あと少しだ。さすがに個室に立てこもれば見つかることはないだろう。


 立てこもるとか、まさか生涯において自分で使う時が来るとは思いもしなかったぞ。それはさておきゆっくり、堂々と怪しまれない立ち振る舞いで向かって――。


 だめだ。えーと、そだ。ちょうどそこにテーブルとベンチがある。


 座って、背もたれに寄りかからず前のめりに。腕を枕代わりに頭をのせて顔を隠す。


 まるで寝ているかのように装うんだ。


「おれトイレ寄るわ」


「先席とっとくよ」


「頼む。俺ココアミルクね。分量7:3で」


 同級生のレオンと林太郎くんだ。俺は見えないけど、たぶん如月ちゃんも一緒なんじゃないか? あの3人はよく一緒にいる印象だ。訓練もよく3人でやっている。


 3人の合言葉は『ノボルに負けないように』とかだったような。彼らは他に共通の友人がいるのだろうか。


 しかしちょっと今の行動は無理しすぎたか? でも気づかれなかったようで彼らはカフェテリアへと向かったようだ。


 よし、と顔をあげてすぐにまた頭を机へ墜落させた。


 今度は風紀委員の腕章が目に入った。なんとか顔を見られなければ大丈夫かなと思う。彼らとていつも判別機を付けているわけではない。怪しいやつを判別すると高須くんから聞いたことがある。


 そういえば高須くん、今日は見かけなかったな……。何か変なことになっていなければいいけど……。


 それはともかくこうして寝たふりをしておけば可能性はある。折れるな俺。


 しばらく沈黙。






 何とか気が付かれなかったようだ。周りに人の気配はない。顔をあげて周りをじっくりと観察。生徒会と風紀委員の証は目に入ってこない。


 やったのか? 


 ちょうど俺が座った席は亜hカフェテリアに背中を向ける席だったので、カフェテリアの方で話が終わったか確認する。


 ん……?


 にっこりと2人。ちょうど俺の後ろに立っていたようだ。その腕には、腕章……!


 あ、オワタ。


「よくいるんだよ。寝たふりしてその場しのぎしようとする奴。普通の生徒会は騙せるかもしれないが、執行部は騙せない。一緒に来てもらう」


「お、俺、悪い人間じゃないよ」


 自分で言ってて情けない言い訳だなほんと。


 ばちばち、と音がする。急に全身に力が入らなくなってその場に倒れる。


 急に眠く――。






 意識を取り戻した時には、椅子に座らされていて、手と足を縄で縛られていた。


「あら、起きたかしら……」


 パンフレットで見たことある学校おすすめの制服。実はこの服も俺の巫女服と同じ特殊素材でできている戦闘服にもなるらしい。


 話を聞いたところ、多くの人は普段ではなく戦闘のときに装備する用で購入する人が多いらしい。それを聞いてレイは即購入した。


 入学した後にレイも身分証明ができたので悪霊を倒すと報酬がもらえるようになったのだが、それで早速この制服を女子用2人分購入したのは最近の話だ。


 それはさておき片目が前髪で隠れている、上が赤茶で下に欠けて赤紫になっている長さミディアムヘアの凛々しいお方。この人だけが座って俺を連行してきた怖い男どもは立っているあたり、この人偉い人だってわかる。


 てか立っている方の1人デカいな、力士か?


「よそ見とは余裕じゃない」


「ご、ごめんなさい」


「そこに謝罪する前に吐くべき情報があるでしょう? お前は一体どこの手の者なの?」


 大変遺憾である。俺はこの学校の生徒だ。ただ、ちょっと男の子に戻っちゃっただけで。


「俺は怪しい者じゃないです! 信じてください!」


 目が細くなった。俺への疑いがさらに深まったと言えるだろう。


「お前たち」


「はい、会長!」


 会長……? ということはこの人生徒会長?


 それどころではない。なんか変なお札をもって俺に張り付ける。てかなぜおでこに貼るんですか?


「あの……これは一体?」


「お前の素性を明らかにする。脳の中からお前の個人情報を取り出す呪符ね。隠し事なんて許されない。お前がどこの所属か、なんの目的でこの学校に潜入したか、それもすべてわかる」


 バレる、ヤバい?


 と一瞬頭を巡ったが生徒会ということもあって俺はふと思い出す。


 入学試験のとき生徒会は俺の素性を知っていると言っていたような。


 なら焦る必要ない。俺の正体が知られれば驚きはされるだろうけど、俺が無実であることは証明できる。


「ちなみに、この術の間あなたはずぅっと全身がしびれてるかのような地獄を味わうことになるからね」


 はい?


 やっぱりヤダ、ヤダ。誰か助けて、俺は無実だ。


「首を振っても無駄。始めましょう? これでもまだ忍び込んだだけのいたずらっ子の可能性があるから痛い拷問はなしにしているのよ? こっちも妥協してるんだから、あなたも自分が怪しかったことを反省なさい?」


 びりびりびり、とめっちゃ聞こえてくる。


 あががががががががががががが。ぎゃあぁ。


「……ちょっと、うそでしょ」


 目は働いている。思考はできる。ただ全身気持ち悪くなるほどのしびれが出て、これが続けば体がイカれてしまいそうだ。


 どうやら俺の名前が出た時点で、会長は気づいてくれたようだ。


「もうちょっと出力をあげましょう。いや、まずは全身のスキャンね、このまま術を維持してこの術の正当性を確かめましょう。彼が夢原礼かどうか、ちゃんと確かめるわ」


 ナニィ! 俺は本物、じゃああああ!

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