第6話 人を見た目で判断してはいけない
彼女が霊体の時には俺の体を借りることができる。彼女と出会った日も、逃げる時は彼女が俺の体を動かしていた。
「へえ、そんなことまでできるのか。おもしれぇ」
「これなら私も学校に行けますかね」
「いいかもな。ところで巫女礼は大丈夫なのか?」
「今は私が意識の主体ですが、ちゃんと今の光景は見えているし聞こえていると思います。ただ表に出てきていないだけです」
はい、彼女の内側で今とてもビビっております。
敵は全員白い仮面で顔を隠している。全身も黒づくめ。多分身バレを防ぐ目的だろう。逆に仮面を破壊して服を剥いでやれば正体も分かるというものだ。
それにしても仮面の奥からでもわかる殺気。そうとうヤバイ奴だなあれ。
「鬼か……ようやく会えたな。わざわざ探す手間が省けた」
レイの迷わず鬼と言い、わざわざ探す手間が省けたと言っていた。あんな趣味の悪い知り合いはいないし、団子屋の店主を殺した奴に少しは関係する奴らだろう。
それはどうやら大門も気づいたようだ。
「てめえらがばあちゃんぶっ殺したやつか?」
「団子屋の店主は知らないの一点張りだった。次奴らが来たときのために監視をおき、団子に毒を混ぜろと協力を申し出たが、断るの一点張り。それどころか、誰かに電話しようとしてたらからな」
「仕方なく殺したってか。クソが。やっぱり外から来た連中にマシなのはねえもんだな!」
外から……。こいつら、京都の外の神人の領地の人間なのか?
「鬼の力は興味深い。利用した方がいいだろう? 兵器に改造してもいいし、巫女との契約を研究し、憑依術を開発できるかもしれない。使いようはいろいろある」
使いよう……?
感じる。レイが怒りと嫌悪感でいっぱいになっている。アイツらはレイを単なる道具だと本気で思ってる。俺もあいつらは嫌いだ。そんな気がしてならない。
「ばあちゃんは団子一筋で生きてきた。客の笑顔の丈に一生を捧げてきたんだ。その誇りも踏みにじってぶっ殺すとは……良い度胸だ」
「……時代遅れの蛮族はこれだから」
「んだと?」
「人間の価値とは、神人に与えられた役割に丁寧に従い利益を出すことだけだ。それ以外の価値は必要ない。馬鹿には言わないと分からないとは、本当だな」
大門の握りこぶしに血管が浮き出てきた。強く握っているのは怒りの証。
そりゃそうだ。なんだその従順な奴隷みたいな考え方。そしてそれ以外の考えを尽く踏みにじる横暴な態度はめちゃくちゃムカつく。
「……話す気も失せたわ。鬼レイ、そっち頼むわ」
「はい。殺しは?」
「好きにしろ。俺は、連中が泣きじゃくったら止まるかもしれないが、最後までイカれだったらぶっ殺す」
「あなたの怒りはもっともなもの。私はそれを尊重し、貴方にあわせます。まずは無力化します」
向こうの連中は変な術を使ってきた。何もないところに唐突に黒い二つ頭の獣が現れる。俺は見ることに集中できるので、それが敵の人の数くらいいることが分かった。
それだけじゃない。当然人間の方の連中は各々が武器を持っている。光の刃を剣や槍、さらには銃も。
これ以上の言葉はない。
二つ頭の獣から炎が撃ちだされ始まった。レイはそれを呪術で、大門は……そのまま受けたぞ大丈夫か?
いや、闇のオーラを纏って防御したのか。
憑依された俺の体は勝手に動き始める。そしてレイの狙いも頭に流れてくる。
呪術のバリアに当たって爆発した直後大門とレイは互いに敵へと接近を始めた。
レイ、速い。俺の体明日筋肉痛になるかも。俺の全力疾走より2倍以上速度が出ている。剣でサクサク獣を斬って、もう敵の人の目の前だ。
敵方も接近に気づき剣を振り下ろすが、その腕ごと止められ、顔に手をたたきつけて吹っ飛ばす。
思えば安住と戦っているときもかなりアグレッシブな戦い方だったからな……。思った以上に暴力的なふるまいでも、驚くようなことではなかったか。
3メートルしか離れていない銃撃にもレイは対応する。足を狙われたと気づいたら跳躍、その後は呪術のバリアで弾丸を防ぎながら1人ずつ殴り、頭を蹴り、膝をうちつけ、鞘を叩きつけ、敵を沈没させていく。
多人数戦の感覚を身をもって学習した。多方面に気を付けながら動きを複雑にして狙いを容易に絞らせないということか。
見て分かるには分かるが自分でやるのは難しいんだろうな……。それにしても、まさかに現実にこんな大人数を軽々突破できる人がいるとは。すごい。
大門の方は。
闇のオーラに触れた獣が溶けている。それを見て残りの獣は恐れからか動かなくなってしまった。ご主人様であるこの人の連中のいうことも聞こうとしない。
「ぐらぁあああ!」
大門、咆哮とともに突進。あっちの方が獣に見える。人だかりを力任せに貫通し、一人を巻き込んでは、地面にたたきつけた。
大門に斬りかかった2人。
たたきつけられた光の刃は闇のオーラに触れた瞬間に溶けてしまった。
あんな光景は初めてだ。それはあいつらも同じだったようでその場で恐れおののく。
「化け物……!」
「そうだ。俺は忌み子だったからな。小さい頃からこの力を放つだけで気味悪がられる。それでいじめられてきた。疎外されてきた。ダチも俺を守ってくれる大人も、2人を除いてはいなかったんだ」
忌み子。いじめられていた……? レイを励ます時に少し言ってたのは、そういうことだったのか。
俺も最初あのオーラを見た時に、体が自然に震えた。それでヤバイ奴だと思ってたけど、そういう先入観できっとひどい目に合ってきた。それはすぐに分かった。
ああ、人は見た目で判断するもんじゃないな。おばあちゃんのために起こっているあいつは化け物なんかじゃなくて、ちゃんといい奴なんだ。
「ばあちゃんと孫娘のあの子だけが俺の味方だった。それをお前らは奪った! お前はその化け物を敵に回したんだ」
「ひ、ひぃ……」
「楽に死ねると思うなよ?」
戦意喪失。さっきまで大口をたたいていたわりに度胸のない三下だったわけだ。
「憑依して頑張った割には拍子抜け――?」
言葉とは違う緊張が体を走る。それはあまりに急なこと。何かに気が付いた?
あ、いや、なんだこれ……!
俺も大門も何もしてないのに、敵の体が燃え始めた。こんなのって、アリかよ……!
「ァアアアアアアアアアア!」
「ぎゃkshysないうh」
「bybんsぢうdhしんbsぢう」
「おい、どうなってやがる……!」
大門が火をかき消そうとオーラで吹き飛ばそうとしても消えない。
レイが少し遠くを見る。こちらを見ているひとりの影。
あ、ヤバイ。
別格だ。一目でわかる。だってレイですら緊張したんだ。
暗がりで顔はよく見えないけど、何か印を結んで術を発動させたところは見えた。それがこの発火を起こした?
その男? はただ一言。
「人間を使ってみたが……。ふふ、鬼を釣ったくせに返り討ちとは、底辺動画配信者も冷ややかに笑うレベルだ。アレが『本物』だと分かったことだけは褒めて火刑の栄誉は与えてやるとも。俺様優しい」
それだけ言うとその場から走り去った。
レイが素早く追うために追跡の術を使ったが何も見えなかった。
灰すら残らず綺麗な火花になって風に流されていく敵。
敵は追えない。その一言を告げると、大門はただ一言。
「今は逃がしたとしても、いつかは絶対に潰してやるからな……!」
謎の男が去った方向を睨みづけていた。
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