1-6
中央公社で倖田所長との面談を終えた絵里は、洋二と共に島の自治機関へと赴いた。
受付に立ち洋二の名を告げると、二階の狭い小部屋に通された。真ん中に机が置いてあり、向かい合うようにパイプ椅子が置かれていた。
向かいに自治機関所属の
机の上にも、天井にも、壁にもカメラが埋め込まれている。洋二の表情の変化などを見逃さない為なのだろう。絵里は
「それでは、始めます」という宣告の後に展開された事情聴取では、向こうから情報を提供することはほとんどなかった。亡くなった被害者男性との関係や、洋二が退職に追い込まれた経緯、職場の人間関係や金銭トラブルなどを主に聞かれ、洋二は幾度も言葉に詰まった。しかしそれは洋二自身の癖でもある。
「思い出せないんですか?」
対面した
事情聴取は夕方までかかった。それでも「まだ終わっていないので」と明日も朝から来るように命じられた。洋二は明らかに肩を落としていて、元気がなかった。帰りの
絵里は悩んだ末「晩御飯、何が食べたいですか」と尋ねた。洋二はしばらく無反応だったが、「暖かいもの」とだけ返事をした。
「分かりました」と返したきり、会話は終わってしまった。こんなに静かな洋二を見るのは初めてだ。
翌日も洋二は静かに自治機関に向かった。俯くことはないけれど、遠くを見つめていて、相変わらず何を考えているか分からない。初日に分かりやすい人だと思った印象は既に覆されている。あの時の絵里は洋二を甘く見ていたのだと今になって思う。
翌日の事情聴取の際、それまで別のことを聞かれていたのに、急に「で、動機は何ですか?」と質問された。洋二は「え?」と言って固まった。
「信じて貰えなかったことですか? 自分は盗難などしていないのに、ポケットから同僚の財布が出てきた。それを何度説明しても被害者に分かってもらえなかった。その気持ちが、あなたを凶行に駆り立てた」
「ええと、あの」
洋二は明らかに動揺していた。随分遠回りではあったが、きっとようやく核心に触れているのだと思った。要するにこの
「俺のこと、疑ってるってこと?」
洋二は先ほどまでとは声色を変え、低い声で静かに質問を返した。
「あなたが殺したんですか?」
向かい合う
洋二はしばらく黙っていたが、突然立ち上がり、座っていた椅子を蹴った。
「俺はやってない!」
それだけ言うと、絵里の方に体を向け、部屋の扉に手をかけた。
「まだ、終わってないです」
建物の外に出たとき、野々村から通信が届いた。
『治験者を至急自治機関に連れ戻すように』
絵里は咄嗟に洋二の腕を掴んだ。洋二は身体を引かれてその場に立ち止まる。振り返り、絵里を見た。
「なんだよ」
洋二は低い声を出した。
「戻るようにと、言われています」
洋二は返事をしない。
「このまま帰ると、立場が悪くなります」
絵里が言葉を重ねると、洋二は「俺はやってない」と小さな声で呟いた。
「戻って、きちんと説明しましょう」
絵里は再度洋二の腕を引いた。
「……信じてくれるはずない。昔から、俺の言うことなんて誰も信じてくれないんだから」
洋二になんと声をかけていいか分からず、絵里は黙った。
「どうせお前も、俺がやったと思ってるんだろ」
「洋二さんは、犯人ではないんですよね?」
絵里の言葉を聞き、洋二は一瞬目を見開き、すぐに細めた。
「ああ、やっぱりな」と口にして、洋二は背を向けた。
「あの、あれ、体調が悪いって言っといて」
洋二はそれだけ投げやりに言い残すと、さっさと歩きだしてしまった。
「洋二さん」と声をかけてみたが、振り返る気配はない。放っておいた方が良いのだろうかと絵里が逡巡しているうちに、洋二はどんどん遠くへ行ってしまう。ひとまずその背を追いかけた。そうしながら野々村に
とにかく洋二の傍を離れてはいけない。自分の任務の優先順位を思い出す。この判断は間違いないのだと
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