1‐4
絵里は洋二の歩幅を分析しながら、決して追い越さず、かといって遅れない程度の速度を維持し、横を歩いた。洋二はきょろきょろと周囲を見渡して落ち着かず、
倖田研究所では、人間に仕える
だから
倖田研究所の入るビル、中央公社を出てから十分ほど経っていた。あと五分ほどで洋二と絵里の家に到着する。家のすぐ傍には商店街があり、
島の南側のエリアは戸建て住宅の立ち並ぶ家族用住宅街だが、ほとんどの家は空き家だった。この島のほとんどの住居に人は住んでいない。治験者の受け入れは始まったばかりだ。
青い屋根の家の前で、絵里は立ち止まった。ポケットに入っている鍵を取り出し、玄関を開ける。生活に必要なものは揃っている。家具も家電も備え付けられている。洋二が深呼吸をしたので「どうしました?」と尋ねる。
「ええと、新築の匂いって、こういうもんなんだね」
洋二は照れ臭そうに笑ったので、絵里も一緒に笑った。洋二の心音は、少しずつ落ち着いて来たようだ。
家の間取りを洋二に把握させるため、各部屋を覗いた。寝室にベッドが一つしかないことに洋二は驚いていたが、絵里が「嫌ですか?」と問うと勢いよく首を横に振った。絵里は洋二の妻役を担う
家具と家電は揃っているが、冷蔵庫の中には何も入っていないし、洋二の着替えもない。洋二の手持ちの荷物の中にも、ボロボロのスウェットが一組しかないのだと言う。絵里は買い物に行くことにした。洋二にそう伝えると、「一緒に行く」と言う。家の前から
「白い車はタクシーで、紺色の車はバスです。緊急車両の色は赤色で、それ以外は私用車です」
「へええ」
「ちなみにこの
「ええと、大丈夫。俺、免許持ってない。
「そうですか」
「ええと、ということは」
洋二は身を乗り出して、
「この運転手も
洋二はじろじろと角度を変えて、運転手のことを観察する。運転手は「はい」とだけ返事を返した。
「ええ。
「すげえ。全然
洋二は感動している様子だった。絵里は「ただし」と付け足した。
「
「ええと。成長すると、絵里、さんみたいに完璧になるってこと?」
絵里は洋二の表情を見て、「ふふ」と笑った。
「絵里、でいいですよ」と笑うと、洋二は絵里から目を逸らし、視線を泳がせた。心拍数が上がっているのを絵里の
「あの、ええと」
言いながらごそごそと尻ポケットを漁り、財布を取り出す。
「これ、チップ。少ないけど」
「洋二さん、別にそんな」
洋二の方に足を進めながら声をかけたが、洋二は首を横に振り、反応出来ずにいる運転手の手に何かを握らせた。
「ええと、俺の自己満足だから。ありがとう。運転、上手だったよ。仕事、頑張ってね」
早口で告げて、洋二はそそくさと
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