弾け飛ぶ午後

水玉のフレアワンピースを着た彼女は、炭酸水を飲む。

「暑いね」

ペットボトルの口をいやらしく舐めて、見せつけるように。

「ん」

額にうっすら浮かぶ汗。太陽の光がアスファルトに反射して頬を溶かす。

「飲む?」

微笑みながらそう言って、また透明の蓋に口を付けた。

ペットボトルを差し出されると思っていた俺は少しだけがっかりした。

炭酸水を流し込む彼女の首筋に流れる汗。舐めたいと思った。こんなことを思うのは、きっと夏のせいだ。暑さのせいだ。そう必死に言い聞かせて、平静を装った。

「……飲ませてあげよっか」

「え?」

長いスカートがひらり揺れた。

彼女は勢いよくペットボトルを空にして、俺の唇に噛みついた。急なくちづけだった。

口内に流れてくるはじけた液体。あふれて顎を伝い、喉を伝い、服を濡らす。

侵入してきた舌を迎えると、奥から前歯まで確かめるように歯列をなぞられる。こそばゆいけれど、気持ちの悪いものではない。

真昼の路上。ぎらつく猛暑の中。

すごく長い時間、そうしていたような気がした。

なまめかしい彼女の吐息が鼓膜を刺す。

ゆっくり開かれた瞳は海だった。

「…外だろ」

「ノリノリだったくせに」

「どこで覚えた、あんなの」

「前見た映画のまね。一回してみたかったの」

小悪魔的に笑った。俺の脳は暑さと酸欠でくらくらしている。

細くなった彼女の海が、俺を見つめる。

くしゃりと笑った顔は朝顔に似ていた。

「あたしたち、こんなとこでバカだね」

薄い布に包まれた柔らかな膨らみを俺の腕に押し当てて、彼女はつぶやいた。

「あのさ、家着いたら、この間買ったアイス半分こして食べよ」

「じゃあさ、アイス食べたら、セックスでもしようか」

にっこりと笑った彼女がいつもよりも大胆なのは、きっと夏のせいだ。

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