発光

二人でテレビを見ていた。


彼女が見たいと言ったのでもなく僕が見たいと言ったのでもないけれど、前のバラエティー番組の流れでなんとなく。


僕はバイト先で鍛えた腕を振るおうと、少し砂糖多めのホットチョコレートをキッチンで作りながら、光る画面を見つめていた。

珊瑚色のソファに座る彼女は体育の時間のときと同じように膝を抱えていて、僕が先程渡した出来たてのホットチョコレートを飲んでいる。


薄い四角の中では少し年配の芸能人夫婦がなにかおいしそうなスープを仲良くすすっている。23時を回っているからか、ゆるやかな雰囲気に包まれた旅番組だった。

どうやらこの夫婦はオーロラが見たくてアラスカに来ているらしい。もう今は真夜中の極寒に色違いの分厚いコートを着て外国人ガイドと三人で空を見上げている。


猫舌の僕は、ソファの前のローテーブルにマグカップを置いた。それはハチミツ好きの黄色いくまが描かれたものだった。

彼女の隣に座る。ふわふわのシートが心地良い。床に落ちたブランケットを膝にかけてやると感謝の言葉と微笑みが返ってきた。そんな仕草の一つ一つが綺麗でうっとりとする。


観測している途中、待てども待てども現れないオーロラに不安を見せた夫人を励ますように隣りに立つガイドの男性がなにか話を始めた。

「僕は二年前、妻を亡くしてしまってね。何度か彼女をここに連れてきたことがあるんだけど、彼女もここから見るオーロラが好きだったんだ。本当に妻は運が良くてね、彼女が来る日はいつも天気が良くて綺麗なオーロラが観測できたものさ。だから二人にもそんな美しいオーロラを見てもらいたいんだ。君たちは良い人たちだから、きっと神さまは見せてくれるよ」

エピソードを話し終えた彼の本当の声は吹き替えにかき消されてしまっていた。誇らしげな笑顔から彼の奥さんに対する愛情や人の良さ、優しさが伝わって胸の奥があたたかくなる感じがした。


いい具合に冷めたホットチョコレートを味わっていると、画面内の夜空に広がる鮮やかな極光が目に入った。赤や緑や白にゆらゆらとなびいて、まるで良質な布みたいだ。

「きれい」

この番組が始まって以来一度も話さなかった彼女が初めて声を発した。時計を見ると、番組はそろそろ締めの時間。これだけの長い間、静かにテレビを鑑賞していた彼女は珍しかった。

「一生に一度でいいから見に行ってみたいね」

僕がそう言うと、彼女は画面の中のたゆたう布を見つめながら、

「でも、世界の終わりみたいね」と、呟いた。


彼女の横顔が少しさみしげに笑った。僕は彼女の肩を寄せて香るロングヘアを撫でた。

同じシャンプーの匂いだった。

彼女の手中のマグカップは白い底が見えていて、茶色い雫が残っているだけだった。


ローテーブルに置き去りにされた黄色のくまは、もうとっくに冷えてしまっていた。

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