閉鎖病棟

閉鎖病棟に棲む君、美しさは黒から始まる。薄青く痩けた頬、ギンガムチェックのパジャマがよく似合う。

彼女がベッドとマットレスの間に隠していた真っ赤なカプセルは頭の芯を溶かすような味がするらしい。

「波がね、ごうごうと、うねる音が聞こえる。きっと太平洋ね。しけってる。怪物みたいで、きれい。」

僕は彼女のうわ言がすきだった。

「君は海が好き?」

何度目の質問になるだろう。

「わたし、海はきらいだった。ともだちがしんだの。海に飲まれてしんでしまったの。だから、海が憎い。わたしが海になれたらよかった。でも、わたしは、海にはなれない、だからかなしい。」

彼女の友達は海とひとつになれたのだろうか。僕はまだこの目で海を見たことがない。彼女の記憶の中に存在する海しか知らない。むしろ、そのほうがきっといいのだ。彼女の世界で呼吸をしているような気分になれるから。僕はそこでゆっくり死んでゆきたい。

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