名前をなくしたきみへ

目の前の少女は笑っていた。彼女の持つ花瓶には萎れた花々が生けられている。どこかしら漂う虚しさが僕を惹きつけた。

「綺麗だね」

「そうでしょう?わたしのママなの」

「お母さんは元気かい?」

「元気よ。ほら」

少女が愛おしそうに花瓶を抱きしめると、たちまち花は鮮やかな色彩を宿した。

「素晴らしい。そうだ、君の名前を教えてくれる?」

「………わたしのなまえはどこかへいったきり帰ってこないの。だから、もしあなたがつけてくれるのならうれしいわ」

そう言って微笑んだ彼女に、僕は"すみれ"と名付けた。

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