琥珀

「どうして、私を救ってくれるの」

「君が、尊いからです。僕のそばにいてくれるから」

「そんな言葉、もらってしまってどうしよう。言葉は嘘になるのに」

私は泣いた。バスタオルがぐしょぐしょになって、水浸しになるくらい泣いた。

彼のひとみは私を射抜く。最初、私はそのひとみが怖かった。

まるで、皮膚の下のもっともっと下、心臓の色まで見透かされるようで。

彼のひとみは湖のように静かでおとなしかった。それでいて淀みがなく、力強い。やがて時間が経つにつれて、私はそのひとみを見つめるのが大好きになった。

彼は周りの軽薄な人間とは違っていた。初めて会ったときから、彼は他の人間と何かが違っていた。身にまとう重厚なオーラ、ルージュのように真っ赤な髪。その奇抜な装いは周りの人間を寄せ付けないようだった。私もその一人、のはずだった。彼の優しさに触れるまでは。

「君はね、僕の大切なひとです。君が離れていってしまうまで、この言葉は本物です」

「私、どうしたらいいの。しあわせでしあわせで仕方ない」

「そばにいて。君の気が済むまで」

彼のひとみがゆっくりとわたしを見る。湖は揺らぎがなく、今日も静かだった。嗚咽が止まらなくて吐きそうだ。

私は彼の優しさにまるで取り憑かれていた。彼はとにかく優しすぎる。やわらかい真綿のような、どこまでも深い海のような、そんな優しさ。限られた人間にだけそう接するのだと彼は言っていた。その中でも私が一番なのだとも。

私は白になりゆく視界の中で何度目かわからない愛の告白をした。彼の匂いは安心する。爽やかで朗らかな、人間の匂い。

頭を撫でられる感触がして、涙がぽろぽろ止まらない。

また、手をつないで動物園に行こうね。水族館にも行こう。ついでに近くの砂浜を歩いて花火をしよう。星を見て、きれいだと言い合おう。真っ暗な道を駅まで二人きりで歩いて、路上でキスなんかもしよう。

いつか二人が破綻してしまっても、思い出は覚えていてくれるから。

鳥の鳴き声が聞こえる。

もうすぐ夜が明ける。

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