オドル

白い紫陽花、傘を閉じるきみ。スローモーションで視線が合う、時の音。

ああ、この景色、なんか見たことあるな。正夢か、デジャブか。

ざあざあと降り続く雨も、しっとりと濡れていく髪の毛も、シャツが肌にくっつくあの感触とか。

きみは、6月が好きだといったね。ぼくはあまりすきではなかった。お気に入りの革靴が履けなくなるからだった。

頬に雨がしたたる。傘は持っていなかった。突然の豪雨は映画かなにかの撮影のよう。

両手をひろげながら何度も何度もターンするきみ。雨粒と共にステップを踏むきみ。水たまりの中央で雨水が跳ねる。

まるで、妖精みたいにきみは。

「雨とおどるのがすき。ほんとうの私になれるから」

そうきみが言っていたことを思い出した。

きみのせいだ。この靴が駄目になったのも、遠くに見えるバスに乗り遅れたのも。

こうして見惚れてしまった以上は、もうなにも言えない。

きみが、美しく、たのしそうに、雨と遊ぶ姿がいとおしい。

「雨、やんじゃった」

ふわりと微笑んだ。きみは、ずるいね。

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