(66)精霊樹とダンジョン

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 今回精霊樹を植えようとしているのは、中間層を過ぎて下層に入ってすぐの辺りの予定だった。

 そこまでの道中で、休憩中に決めたとおりにトムとシーリをメインにして戦ってもらう。

 そして何度か戦闘を繰り返して気付いた点を教えながら先へと進んで行く。

 確かにシーリの攻撃力が足りないという悩みは間違ってはいないということは分かったけれど、それは大した問題ではないということもわかった。

 そもそもシーリはスカウト(盗賊)系で一撃の重さを期待するのは間違っている。

 勿論、この先にも進んで行くためには攻撃力そのものを高めないといけないのは確かだけれど、それは一朝一夕に身に着くようなものではない。

 今すぐにそれを望むのであれば、今使っている武器をグレードアップすることが一番の近道だろう。

 だがそんな都合のいい武器等すぐ手に入るわけもなく、今できるアドバイスとしてはもっとパーティ内の連携を考えて動くようにと言っておいた。

 

 いい武器を手に入れるにしても連携にしてもすぐにできるようになるわけではない。

 それでも当人の学習意欲が高いお陰か、目的地に着くまでにはどう動けばいいのかくらいは意識できるようになっていた。

 勿論それがすぐに結果に結びついたわけではないけれど、シーリ自身が何かしらの手ごたえを得ていたようなので今はそれで良いと思う。

 完全に身に着くまでには時間がかかると思うので、今はその感覚を得られたというだけで十分だ。

 

 あとは新しい武器の更新だが、これはホーム周辺にいるドワーフに頼めば何かしら用意できるはずだ。

 とはいえ探検での攻撃力には限界があるので、魔法や魔道具と併用して使うようになれればいい。

 シーリ自身は魔法タイプではないとはいえ、全く使えないというわけでもない。

 相手をかく乱できる手段はいくらあってもいいので、とにかく手数を増やすことを考えたほうがいいというのが俺の考えだ。

 

 俺としてはアドバイスになっているのかと不安になるところもあったのだけれど、シーリはこれだけでも十分だと言ってくれた。

 彼女自身に迷いがあって、それを吹っ切るための後押ししてくれる存在がいて欲しかったのかもしれない。

 武器や魔道具に関しては探索を終えてからゆっくり考えてみるという答えが返ってきた。

 なぜ彼女が新しい武器を購入することをためらっているのか、その理由も何となく見当がついているので特に強制するつもりもない。

 

 ――そんなこんなをしながらダンジョン内を進んで行くと、ついに目的地へと到着した。

 このダンジョンは眷属が管理しているので、その能力を使えばすぐに来れるのだけれど敢えて攻略をしながら進んできたのはトムたちの希望があったからだ。

 最近では一緒にダンジョン探索ができる機会も減っていて、折角だから色々と見て欲しいと言われた結果だ。

 正直、もう俺のアドバイスなんて必要ないじゃないかと思えるくらいに考え、動けているのだが、それはそれということなのだろうと考えることにしている。

 

 とにかく目的地に着いたので、早速精霊樹を植えるための準備を進めていった。

 植物に関することは緑魔法が得意とするところなので、オトとクファも興味深げに見守っていた。

 精霊樹のような特殊な存在の場合、普通の植林をするだけでは根付くことがないので普通ではありえないような作業が必要になる。

 中々見れる機会もないため二人にとっても色々なことを知ることが出来る機会だろうと思う。

 

 そんな二人に注目されつつ眷属のダンジョンマスターを話し合いながら精霊樹を植える場所を決めた。

 あまり魔物が多くいる場所に植えてもちょっかいを掛けられてしまう可能性があるので、守護する存在は必要になる。

 そのためにもダンジョンマスターの協力は不可欠で、だからこそ眷属がマスターをやっているダンジョンを選んだのだ。

 それ以前に、精霊樹がしっかりと根付けなければ意味のない配慮なのだけれど。

 

 精霊樹だからといっても最初の植え方そのものは、普通の木の植林と変わらない。

 ただし精霊樹の場合は、普通の木と違って植える場所を適当に掘ってそこにおいてあげればそれでいい。――通常の場合は、だが。

 ダンジョン内ではそんな都合のいいお手軽な方法で植林ができるはずもなく、以前試した時には結局最後まで根付くことはなかった。

 今回も同じやり方から試そうと考えているが、わざわざここまで来たのは別のやり方も思いついたからだった。

 

「――こんな魔物が多そうなところに植えて根付くんですか?」

「どうだろうなあ。少なくとも普通に植えるだけじゃ無理だろうね。あと魔物自体は大丈夫だと思う。ちゃんと護衛は置くし。それもこれもきちんと根付いたら、だけれどね」

「そうなんですか」

 

 精霊樹を見るのも初めてのオトが、不思議そうな顔をして首を傾げている。

 そもそも精霊樹がどういった存在かもあまりよくわかっていないのだからそういう反応をするのも仕方ないと思う。

 オトにしてもクファにしても緑魔法の使い手として成長してきているので、そのうち成長した精霊樹を見せに行くのいいかとその顔を見ながら考えた。

 世界樹ほどではないにしろ、精霊樹もまた普通の樹木ではありえないような成長の仕方をする。

 一度はきちんと目にしないと幾ら口で「凄い」と言っても実感として理解できないのは仕方のないことだ。

 

 そんな会話をしつつも穴を掘って精霊樹を置いてから根の部分に土をかぶせて植え終える。

 当然のように魔法を使って水を与えたりもしてからしばらく様子を見ていたけれど、残念ながらその場に定着した様子は見られなかった。

 精霊樹は普通の場合の植林とは違って、ゲームのエフェクトのような現象が出現する。

 それが出てきていないということは、植林には失敗したということになる。

 

 そのままの状態でしばらくの期間見守るという選択肢もあるのだけれど、はっきり言ってしまうとあまり期待は出来ない。

 以前に試した時の経験から分かっていることなので、現状のまま放置していてもこの場に精霊樹が定着することはないからだ。

 通常の栄養素や光以外に魔力で成長する精霊樹という特殊な存在なので枯れることは無いが、だからといって放置したままというのも気持ち的にあまりよろしくはない。

 だからこそ以前試した時も、ある程度の間だけ眷属たちの見張りを置いて、駄目だと判断したあとはきちんと回収をしていた。

 

「精霊樹は世界樹にマナを送るための存在なんですよね? 同じことをしているダンジョンと共有できるのですか?」

「それなんだよね、問題は。マナの奪い合いになるから植えられなくなっている可能性はあるかな」

「やっぱり分かっていましたか。では何故、わざわざ植えようと?」

「ヒノモトみたいにダンジョン近くの外に精霊樹があるのに、中に植えられない理由が本当にそれだけなのか、知りたいってところかな」


 ヒノモトは全域がユグホウラの領域になっていて、当然のように精霊樹が万遍なく植えられている。

 その領域の中にもダンジョンは存在しているので、その逆もできるのではないかと考えたのが実験しようとした発端だった。

 ただダンジョンはある種の閉鎖空間と同じことなので、そこに精霊樹を植えてしまうとマナの奪い合いのようなことが発生するというのは理解できる。

 だからこそ最初から植えられないようになっているということも理屈としては分かるので……あくまでも好奇心からの行動でしかない。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る