(67)マナの変質
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世界に漂うマナを吸収(?)する存在である精霊樹と自らの中に侵入してきたマナを持つ存在を斃して集めるダンジョン。
どちらもマナを一か所に集めて再分配するいるという意味では同じ存在だけれど、その役割は大きく違っている。
二律背反とまでは行かないとしても相反するような存在同士とも言えなくはないわけで、その両者が交わった場合にどうなるのかという興味は尽きない。
そんなわけで一周目の時からどうにかできないかと試していたわけだ。
今回また来たのは、以前よりもマナへの理解も扱いも格段に上がったからだ。
精霊樹をダンジョン内に持ち込んだうえでマナの動きを観察できれば目的を果たせるのではないかと考えたわけだ。
とりあえず最初は何もせずに前回と同じようにただただ植えてみようとしてもできず、オトとの会話のようにそれぞれの性質の違いで反発が起きているように感じた。
前回はその反発さえ感じ取ることが出来ていなかったので、それだけでも自分自身が成長していることがわかる。
といってもそれだけで満足したわけではなく、当然のように今のマナがどんな状態であるのかを観察してみた。
マナは通常の状態だと生物の周りにオーラのように身にまとっているように見える。
ただし『量』で考えるとそこまで多くはなく、本当にただ薄く全身を覆っていたりする。
中には部分的にしか覆っていない生物もいるのだけれど、それはあくまでも例外的な状態で通常の状態とは言えない。
それは世界樹が生み出している精霊樹も同じで、たとえ地面に植える前の小さな状態であっても全体をマナが覆っていることは見て取れる。
マナは基本的に世界の根源的なエネルギーそのものである――というのがプレイヤー間での認識になる。
それが正しいと仮定すると世界のどこへ行っても、極端なことを言えばプレイヤーが活動しているそれぞれの世界のマナを比較しても違いがないということになる。
であるならたとえダンジョンと精霊樹が覆っているマナに違いがあるわけではない――ということになるのだけれど、実際にはそうはなっていない。
他人同士で手と手を合わせても交わることがないように、何故か精霊樹をダンジョンの地面においても両者のマナは綺麗に分かれている。
精霊樹やダンジョンというそれぞれの『存在』にマナが引っ張られているからということもあるのかもしれないが、それにしても綺麗に別れすぎている。
そもそもを考えると人も一人一人マナを纏っていて、たとえ握手などしたとしてもそれが交わることなく存在している。
であるならば両者のマナを分ける(区別する?)何かがあると考えたほうが自然だろう。
――と、ここまでのことだけなら既に掲示板内で推測されて話されている内容になる。
ダンジョンに精霊樹を植えられないという事実は、その推測を裏付ける証拠にもなっているのだろう。
とはいえダンジョンを出た通常の地上であれば精霊樹は植えられるという事実とは矛盾している。
であれば、精霊樹を植えるための何かしらの条件のようなものがあるのではないか。
その前提に立った上で考えると、普通のフィールドで精霊樹を植えるためには領域の制圧していないと駄目だという条件が何かしらのヒントになっているように思える。
領域の支配又は制圧をした状態というのは、魔力的に同質のものに作り替えるものだと考えていた。
それをマナの視点で見ても同じようなことが言えるのではないかということになる。
ただしここのダンジョンはユグホウラの眷属がマスターなので、それだけだと精霊樹を植えられないことの説明が出来ない。
「――師匠、大丈夫?」
植えることが出来ていない精霊樹を前に考え込んでいると、クファが少しだけ心配したような顔になってそう聞いてきた。
今いる場所がダンジョンだということを忘れて、ついつい集中して考えてしまった。
考え事をしていただけだとクファに返したあとは、もう一度精霊樹を観察してつい最近できるようになったことを試すことにした。
その最近できるようになったことというのは、マナの性質(?)を変化させることだ。
ただし性質を変化させるといっても、色が赤から緑に変わるといった分かりやすいものではなく、ほんの少しだけ濃度が変えられる程度のものになる。
マナをエネルギーの一種だと考えれば、エネルギーを増減させられるようになったと言うべきだろうか。
マナは直接エネルギーとして使えるわけではないので、具体的に数値でどれくらいの増減があったかは示せないのであくまでもイメージの話になる。
それでも何かしらの変化をしていることは確実なので、今回はそれを試そうというわけだ。
問題は生命を相手にそれをやったことがないのでどうなるのか分からないということと、ダンジョンと性質を合わせることができるかどうかも分からない。
そもそも精霊樹が生命として考えていいのかどうかの問題は横に置いておく。
今いるダンジョンはユグホウラの眷属が運営しているので、魔力的には近しいことは間違いない。
ユグホウラの勢力範囲としても認められているので、これは動かしようのない事実となる。
魔力は指紋や声紋のように個人個人で違っているので、これを揃えることは出来ない……とされている。
となるとあとはマナを合わせるしかない――ということが今回の実験の根拠になっているのだが、それがうまく行くかどうかは別問題だ。
それらに加えてマナの性質を変えることが出来ているのは、あくまでも自然の中に漂っているマナに限っての話。
生物が纏っているマナを変えたことは無く、それをするとどうなるのかは分かっていない。
生体を覆うことでマナの性質が何かしら変わっているとすれば、そもそも変化をさせること自体出来ない可能性も考えられる。
とはいえここまで来て一度も試さないということは考えられないので、まずは精霊樹を覆っているマナに干渉することにした。
「――んえ? ……ああ、なるほど。そうなるわけか」
どうにか精霊樹の周りにあるマナに干渉をしてもう少しで性質を変えられそうだ、という手ごたえを感じた直後にとある感覚が自分の中に流れ込んで来て思わず頭を抱え込んでしまった。
それをパーティメンバーである四人がどうしたのかという様子で見て来たが、それに「なんでもない」と答えつつダンジョンの地面の上に置いている精霊樹とダンジョンマスターの眷属を見比べた。
ここで得た確信からすると、精霊樹のマナを変容させるためにはマスターである眷属の許可を取らなければならない。
しかも精霊樹をダンジョン内に定着させるためには、ダンジョンそのものであるマスター自身も変える必要があったんだ。
ユグホウラの眷属であればこちらが望めば喜んでそれを受け入れてくれることは分かっている。
そして、だからこそそのことを簡単に口にするわけにはいかなかった。
時間にすれば数秒ほど考えてからすぐに答えを出すことは諦めた。
幾ら眷属とはいえ魂そのものを変えてしまうことを簡単に許してはいけない。
そう直感できたので、今この場で好奇心が赴くままに動いては駄目だと自分の中での結論を出した。
結論を先延ばしにしているるだけだと言われても仕方のないことだけれど、何故か自分の中ではこれは勢いに任せるのは駄目だと警鐘に近いものがなっている……気がしている。
何となく簡単に踏み込んではいけないような領域にまで踏み込んでしまったような気がして、久しぶりに恐怖というか焦りというか言葉にするのが難しい感情を抱くことになってしまった。
とにかくこのこと自体はすぐに相談する必要がある。
その相談相手として真っ先に浮かんだのは、当然と言うべきかアルさん――改めアルハサエルの姿だった。
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変化なのか変質なのか変容なのか。(※わざとごっちゃにして使っています)
フォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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