(65)年少組
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精霊樹をダンジョンに植えること――これがここのダンジョンに来た理由の一つではあるけれど、それ以外にもダンジョン探索をする理由はある。
理由というと少し固く聞こえてしまうが、一応弟子という立場であるオトとクファがどの程度成長したのか見るという目的だ。
もっとも事の始まりは、二人から一緒にダンジョンに行きたいとせがまれたからということだったりする。
トムやシーリは勿論のこととして、オトとクファももはや保護者が必要なレベルにはいない。
とはいえ二人にしてみれば『それはそれ。これはこれ』らしく、たまには師匠らしいこともしてほしいとのこと。
そんなことを言いつつも、二人とも本音では久しぶりに一緒にダンジョンに行きたいと思っているということは分かっている。
最近はプレイヤーとしての考察で忙しくてダンジョン探索も行けていなかったので、二人の可愛い我がまま(?)を理解した上で了承した。
二人とも既に精神的には大人になっているといっても良いのだけれど、たまにこうして子供らしい面を見せてくれるのでつい言うことを聞いてしまった。
――そんな言い訳をしつつも、実のところはオトの成人が目前に迫っていることで寂しく感じているということも理解している。
成人したからと言ってすぐに手放さなければならないというわけでもないのだけれど、これまでのことを考えればそう感じてしまうのも仕方ないと思う。
まあ、二人は今でも既に自分自身で考えて行動しているので、ほとんど俺の手を離れているといっても過言ではない。
二人が成人して独立した後どうするのかは分からないが、それまでは精一杯面倒を見るのが弟子として迎え入れた俺の責任になるだろう。
と、俺がそんなことを考えている事がばれているのかいないのか。
オトとクファは、小さかった時から変わらず許される限りは一緒にいると言ってくれている。
オトもクファも緑魔法の使い手で、世界樹の傍にある拠点で過ごしているのが心地いいという打算もあるという。
もっともそれは、俺がいつまでも離れるつもりのない二人が親(仮)離れできていないのではないかという杞憂を無くすための優しさだとも思う。
そんな親バカ意見はとにかく、誰に似たのか真っすぐに育ってくれている二人は、順調に魔物を倒しつつダンジョン内を進んでいた。
精霊樹を植える予定にしてある階層まではまだもう少し先になるが、今いる階層では二人が後れを取ることはまずないだろう。
数年前だったら子供らしく油断をして危なっかしいところも見せていたのだけれど、今の二人はそんな様子を見せることもない。
一般にはあまり知られていない緑魔法も、二人それぞれの特色を生かして使えている。
緑魔法については自分たちも弟子を捕ったりした方がいいのかと二人から聞かれているのだけれど、その辺りは本当に好きにしていいと答えている。
そもそも緑魔法が使える前提となる緑の魔法が見えるかどうかが壁となっていて、資質の有る人間を見つけることが難しい。
オトとクファにしたってトムの出会いという中継する存在がいたからこそ出会えた奇跡のような偶然が重なってのことだった。
もし万が一二人が活きていて緑魔法が使える人間に会えることがあれば弟子にすれば良いと思うが、結局は当人たち次第でしかなく俺がどうこう言うことではないと思っている。
とはいえまだまだ荒く見えるところもあるのも事実で、小休憩の時にアドバイスをすることにした。
「オトはやっぱり動き回りながら魔法を使うことに慣れていないね。時々止まりながら魔法を使っていることがあったよ。自覚はあるみたいだけれど」
「は、はい。どの魔法を使うか考えようとするとどうしても止まってしまいます」
「みたいだね。その辺は慣れだからなあ。アドバイスといっても何度もこなしてスムーズにできるようにしていかないと駄目かな。あとは下層じゃなくて、敢えて上層で試すとかね」
「上層で? それだと訓練にならないのでは?」
「そんなことはないよ。むしろわざと聞きにくい魔法を試してみてどんな反応が返ってくるのか、調べるのにはちょうどいいとも言えるんじゃないかな?」
そうアドバイスを送ると、オトはなるほどという顔をして何か考え込むような顔になっていた。
そんなオトを見ながら、次は期待した様子でこちらを見て来るクファの方を見た。
「クファは……オトとは逆だね。動き回りながらの魔法行使はスムーズだけれど、使う魔法が一辺倒でバリエーションが増えていないかな」
「ウッ……」
「すぐに弱点を突けるような魔法を選択出来ているのはさすがと思うけれど、それだと格上相手を対応するときには困ったことになるよ」
「ハイ……。頑張ります」
素直に頷いたクファに、「頑張れ」とだけ返した。
オトは思考しながら魔法を行使するのに対して、クファは考えるよりも先に魔法を使うというのがそれぞれのタイプになる。
そのどちらが良い悪いということはなく、どちらにも利点と欠点はある。
問題なのは欠点を知った上でどう自分なりに成長をしていくかということの方が問題なのだけれど、これは敢えて自分の口から言うことはしない。
そういうことを自分自身で気付いていくことも大切だと考えているから。
ちょっとした課題を与えると、二人は少し俯きながら何やら考え始めた。
その顔を見れば、落ち込んでいるわけではなく先ほどの助言を聞いて考え込んでいることが分かったので少しの間そのままにしておくことにした。
今は休憩時間なのでいいだろう。それに、周辺は眷属たちが見ているので万が一ということも起こらない。
そんなことを考えていると、オトとクファとは別のところから二組の視線がある事に気がついた。
「いや。トムとかシーリへの助言は出来ないよ? スタイルが違い過ぎるって分かっているだろうに」
「それは分かっているのですが……ご主人様は色々と指南していたと話を聞いておりますが?」
「それはそうなんだけれど、そうは言ってもなあ。今のトムは、そのアドバイスを聞いたカールやらラウから指導されているんだろう? 今のところ教えられるようなことは無いよ」
「そうですか。――だってさ、シーリ」
何となくそう言われることが分かっていたのか、トムは全く残念そうではない顔でシーリを見ながらそう言った。
そうトムに言われたシーリは、少しだけ残念そうな顔をしてため息を吐いた。
「あれ、なんだ。話を聞きたかったのはシーリの方か。何か悩んでいるようなことでもあるの?」
「は、はい。悩みというか、下層に行くにつれて私の攻撃が通じなくなってきたから、何かいい方法を知らないかなと……」
「あ~。なるほど、そういうことね。といってもなあ……。さすがにすぐには思いつかないかな。そもそも今までオトとクファがメインに戦ってきたし。ここから先はトムとシーリがメインになってみる?」
これまでも基本的に後衛になるオトとクファでトムとシーリは前衛という形で進んできた。
ただしこれまで出て来た魔物が、オトとクファにとってはそこそこの強さで済んでいたためにそこまで苦労をせずに討伐できていた。
そのためトムとシーリは出番らしい出番がないままここまで来ていたんだ。
そんな状態でアドバイスのしようもないという事情をくみ取ってくれたのか、これからはトムとシーリがメインになって戦闘を進めて行こうということで話が決まった。
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