(64)不人気ダンジョン
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アンネリとアイリのダンジョン探索はまだまだ続くけれど、アイリの不機嫌の原因は一区切りついたらしいので気にすることは止めた。
さらに解決の見込みがないマナ関係の調査に関しては、正直なところまるで進展がないといっても構わない状況になっている。
変化があったことはあったが、それによってさらに深い迷宮に入り込んでしまったとも言える結果になっている。
というのも、掲示板やプレイヤー同士の直接の交流で分かったのだが、どうもマナに関する事柄はこれまでのように一つの答えがあるわけではないということがだんだんと分かってきたんだ。
一つ例を上げるとすれば、地脈の中央の壁について自分なりの答えに近づきつつあると考えていたところが、他のプレイヤーが全く別のアプローチから答えが得られそうという感触を得ている。
それ以外にも『もしかするとこうではないか』とプレイヤーごとに得ている感触が違っていたりする。
厄介なのは、そのどれもが間違っていると否定できず、下手をするとそのどれもが正しいのではないかという流れになっている。
一つの答えを出しがちな科学的にいえば「そんなバカな」と言いたいような結論だが、扱っているのがマナという不可思議な存在だけにプレイヤー間でも「そういうこともあり得るか」という話の流れになっている。
マナという
そもそもマナがエネルギーそのものだという考え方も正しいのか分かっていない。
そうした物質的なものではなく、ただ単に概念(のようなもの)として存在しているだけの可能性だってないわけではない。
……何やら物質的ではなく精神やら概念的な話になってきて本当かと疑う気持ちもないわけではないのだけれど。
そもそも俺自身がいるサーバーでさえ様々な立場のプレイヤーが存在しているわけで、ゲームのように答えが一つの一本道が用意されているわけではないと考えると納得できる。
そうなると今度は、マナに対して自分なりの答えを見つけなければならないということになる。
であるならばこれまで考えて来たことを延長して考えて結論を出してしまえばいい。
一つの公式を求める科学的な思考に慣れている身としては何とも言えないところではあるが、そういうものだと言われれば納得するしかない。
とにかくその考え方の真偽はともかくとして、そんなことを色々と悩んでいる内に一つやってみたいことが出来ていた。
そのために俺はアンネリとアイリではなく、子供組と一緒にダンジョン探索をしていた。
ただ子供組といってもトムとシーリはこちらの世界の基準では既に成人しているし、オトは今年、クファは来年に成人する。
そろそろ子ども扱いも止めないといけないのだけれど、出会った時が小さかっただけに中々慣れないでいるのが現状だったりする。
子育てってこんなものなのかな~、なんて場違いなことを考えながらダンジョンを進んでいるとクファが首を傾げながらこちらを見てきた。
「師匠~、随分と考え事しているようですが、大丈夫ですか?」
「あ~、ごめんごめん。皆に余裕がありそうだったから、ついつい関係ないことを考えてしまっていたよ」
「いえ、それは別にいいんですが。クインさんとか狼ちゃんたちもいるから、万が一の事故も起こらないでしょうし。そっちの心配ではなくて、何か不安事でもあるのかなって」
「いや。そうじゃないよ。心配かけたんだったら済まなかったね。分からないことがあって行き詰まっていることがたくさんあるから、考えることも色々あってね」
「それならいいです。師匠なら私たちがいなくても同じことをしそうですしね」
冗談なのか本気なのか分からずそんなことを言ってきたクファに、苦笑を返すことしかできなかった。
ちなみにクファが発言した後にオトが「こら」と軽く小突いていたが、ここまでがワンセットで最近の二人のやり取りになっている。
ダンジョンの中なのにこんなやりとりができるのは、当然のように眷属たちがいるからということもあるのだが、トムを筆頭とした四人が安定して進んでいるからだ。
トムやシーリは既にBランク程度の実力にはなっているし、オトとクファに至っては成人したらすぐにCランクからスタートできると冒険者ギルドから太鼓判を貰っている。
オトとクファが未だにランクが上がっていないのは、二人が成人になっていないのでその資格がないからという理由だけだ。
二人が成人した後でどうするのかは聞いていないけれど、少なくともオトはクファが成人するまではCランクのままでいると思う。
トムとシーリの二人はそもそも冒険者ランクにこだわりがないようで、何度かギルドからのランクアップの誘いを断っているようだ。
トム曰く「そもそもキラ様の奴隷で執事候補なので冒険者ランクはそこまで高くする必要はありません」らしい。
シーリはシーリでトムと一緒に行動できるだけでいいらしく、同じくランクには興味がない。
ランクアップを目標にやっている他の冒険者から睨まれそうな考え方だけれど、二人はまったく気にしていないようだ。
今自分たちがいるのはクラン『大樹への集い』の本拠地があるヘディンのダンジョン……ではなく、そこから一番近い位置にある別のダンジョンだ。
そのダンジョンは、冒険者たちからは「割に合わない」と敬遠されていてあまり人気がない。
とはいっても全くのゼロというわけではなく、地元の冒険者や大穴狙いの冒険者が攻略を進めている。
冒険者たちが言う「割に合わない」というのは消耗品などの経費に対して収入が低すぎるという意味で、要は稼ぐのが難しいダンジョンということになる。
冒険者から人気がないということは、当然のように近くにある町もほとんど発展しておらずギリギリ村ではなく町といった規模にしかなっていない。
ダンジョンが近くにあるということは魔物が活性化しやすいということもあって、町の規模を広げづらいという問題があるからだ。
本来ならダンジョンで稼ぐ冒険者が集まって商売関係も発展していくのだが、冒険者が集まりづらい町は発展もそこそこになってしまうというわけだ。
特にこのダンジョンは後半に出て来る魔物が強すぎて、完全に潰してしまうこともできないでいる問題のあるダンジョンということになる。
何故そんなダンジョンにトムたちと一緒に来ているのかというと、勿論とある目的を果たすためにこのダンジョンが最適だったから。
そして何よりも、ここのダンジョンのダンジョンマスターがユグホウラの眷属であることが決定的な理由だった。
眷属が何故使えないダンジョンを運営しているかといえば、それは当然ながらわざとそのように運営しているから。
冒険者が寄り付かないダンジョンが周辺にどんな影響を与えるのか調べるために、敢えて稼げないダンジョンを作っているのだ。
そのダンジョンで何をしよとしているのか。
それはずばり、ダンジョン内に精霊樹を植えたらどうなるのかを調べるためだ。
ダンジョン内に精霊樹を植えるということは一周目の時から思いついていたことだけれど、その時はダンジョンから拒否されてできなかった。
ただ管理者になってマナの扱いにもある程度慣れて来た今なら精霊樹を植えることが出来るのではないか、そう考えたからこそここまで来たのである。
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