(63)ダンジョン探索途中結果

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 < Side:キラ >

 

「――結局問題児たちはそれで終わり?」

「そうね。自力で転移陣がある場所まで来れるなら話は別だけれど、そこまでする必要があると上が判断するかは分からないわ」

「なるほどね」


 ホームにある拠点でアンネリから一通り話を聞いた俺は、それだけでアイリの不機嫌の原因だったナンパ男たちについてのことは終わらせた。

 そんなことよりも話の途中で出て来た歪み関連の話の方が気になっていた。

 

「それで、アイリ。歪みはどうだった?」

「そうですわね。規模としてはそこまで小さくもなく大きくもなくといったところでしょうか。ただフィールドとは違った性質があったような気がします」

「違った性質? どんな風に違っていたのかな?」

「それが……すみません。歪みが出て来たのは短い時間だったので、あまり詳しいことは……。何か違うと感じたのはいいですが、それを詳しく調べる時間がなかったです」

「そうか。それなら仕方ないか。普通の歪みとは違ったと分かっただけでも収穫だよ。これがダンジョンだったからなのか、普通のフィールドでも発生するのかは今後に期待だね」

「はい。目撃すること自体少ないので時間はかかるでしょうが、根気よく見つけていくしかないでしょう」


 アイリの感じた『違和感』のあるがフィールド上で発生するならそれで良いし、ダンジョン内でしか発生しないとしてもそれはそれで収穫となる。

 できることならどう違うのかまで知りたいところだけれど、遭遇を偶然に頼っている今だとどうしても時間がかかる。

 歪みの出現法則などが分かれば偶然に頼ることなく効率的に調べることが出来るのだが、こればかりはないものねだりでしかない。

 今現在の調査結果だと歪みはあくまでもランダムで発生するとしか思えないので、効率性はあまり期待できないところでもある。

 

「だね。ヒノモトだと巫女たちがいるからある程度組織的に動けるとしても、それでも限界はあるからなあ」

「国家ほどに強く結ばれているわけではありませんから仕方ありませんわ。個々の社がそれぞれの独自で動いているからこそ良いこともありますから」

「いや、別に批判したわけじゃなくてね。こんな世界だから一つに結びつくのが難しいというのもわかるよ。いくら信仰心があるからといってもね」

「……元はといえば、精霊様が大きな組織になることを嫌ったからと言い伝えられているのですが?」

「はてさて、何のことか分からないなあ」


 アイリにはとぼけて見せたけれど、確かにかつて世界樹の巫女として活動していたユリアにはそんなことを言った記憶がある。

 当時にヒノモトでは、地域によっては国外からの別信仰の流入により元からあった土着の信仰が消えかかっていたという事情がある。

 その上で、折角国外の信仰を追い出すことに成功したのにそこで世界樹だけを信仰の対象にすると土着の信仰が消えてしまうと危惧していたんだ。

 さらに自分が消えることで世界樹だけに信仰が集まることも回避できるかなんて後付けの理由もあったりしたんだけれど、どうもそこはあまりうまく行かなかった。

 

 眷属たちのことはある程度わかっていたのである程度の予想は出来ていたのはいいとして、予想以上にユリアをはじめとした巫女たちの信仰心が強かったということがある。

 世界樹の精霊であってもこの世から消えることがあると伝えるつもりだったのだが、そこは見事に(?)失敗したことになる。

 結果的には特に危惧したようなことは起こっていなかったので、現状で十分だろうと考えている。

 そんなことはお見通しなのか、最初から深く聞くつもりはなかったのか、アイリはそれ以上は何も言ってこなかった。

 

「――それはまあ、いいとして。ダンジョンマスターが様子を見に来たということは気になるかな」

「それは確かに。ですが、直接話をした内容以上のことは聞き出せそうにありませんでした」

「それは仕方ない。眷属たちも見つけられないくらいに隠れていたみたいだから、存在を知れただけでも十分だよ。それよりもダンジョンマスターが歪みのことを気にしていたことのほうが重要かな」

「彼の者が歪みを利用しているということでしょうか?」

「いや、そうじゃなくてね。ダンジョン内であってもダンジョンマスターが意図しない歪みが発生することが重要なんだよ。まあ、前から分かっていたことではあるけれど」


 ダンジョン内でも歪みが発生することや、それがダンジョンマスターの意図しないところで現れるということは以前から分かっていた。

 プレイヤーのダンジョンマスターからも裏が取れているので、共通の自然現象(?)と考えて間違いないだろう。

 問題なのは自然現象であるはずの歪みに巻き込まれる形で一つ目巨人が転移してきたことだ。

 ダンジョンマスターが意図的に行ったのであればまだ納得できるのだけれど、ただの偶然にしては出来過ぎている気もする。

 とはいえ歪みの発生に何者かの意図が加わっているとも思えない。

 

「つまりキラは、私たちがいたことであの歪みが発生したのではないかと考えているということね?」

「いや、さすがにそこまでは考えていないよ。ただ、アンネリの言った可能性もゼロではないとは思うかな」

「私たちが原因になったとすると。考えられることとすれば、地脈への接続ができるようになったことかしら?」

「どうかな。それだとどのダンジョンに潜っても同じことが起こらないと説明がつかないよね。一つの要因ではあるかも知れないけれど、他にも何かしらがある……いや、そもそも二人が原因と決まったわけじゃないから」


 どうも思考が一つの方向に向いてしまっていると感じたので、慌てて訂正した。

 歪み自体が地脈と連動している可能性はあるにしても、アンネリとアイリが地脈に接続できるようになったことと直接関係があると決めつけるのはよくない。

 もし本当にそれが正しかったとしても、別の角度から考えてみる必要はあるはずだ。

 アンネリも決めつけるつもりはなかったようで、すぐに「それもそうね」と言って頷いていた。

 

「アイリ、今回出た歪みの痕跡はもう無くなっているんだよね?」

「はい。少なくとも私が調べられる範囲では既に何も分からなくなっていますわ」

「毎度のこととはいえ、これも歪みの調査が進まない原因になっているからなあ。せめて何かしらの後が残ってくれればいいのに……まあ、残ったら残ったで世界に影響がありそうだから問題だろうけれど」


 歪みが発生するのは、魔力やマナに何かしらの問題が出た時に起こると考えている。

 だからこそ歪みが発生した後に何の痕跡も残していないということは、問題の原因が解消されたということだ。

 何かしらの後が残っていれば、それだけで調査の精度が上がっていく。

 ところがそれだと問題が残ったままになっているということになり、そちらの方が世界に対する影響が大きいということになる。

 世界にとってそれが正常な現象であるからこそ根本の原因を突き止めることが難しいという、一見矛盾しているような理由が歪みの調査が進まない一番の原因になっている。

 

 世界の管理者になったときのように運営が何かしらのヒントを用意してくれていればとも思うけれど、恐らくそれはないだろう。

 ここから先は自分で考えて、自分なりの答えを見つけろと言われているように感じているから。

 それは世界の成り立ち(?)が一つの答えで出来ているわけではなく、それぞれの考え方で違っているからだというのが今のところの自分なりの考えだ。

 とにかく、歪みについてはこれからも調査と考察を続ける必要があることは間違いないのだろうと二人と話をしながら考えていた。




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m(__)m

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