(62)突き放し

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 < Side:アンネリ >

 

 ダンジョンマスターが去った後もアイリは熱心に歪みが発生した場所を調べていたけれど、一つ目巨人が出て来た後はその痕跡は全く無くなっていた。

 世界樹が歪みを『処理』した後のように、用がなくなった歪みは元から何もなかった時のようになったようね。

 アイリでもまるで駄目だと判断した以上は、私ではとてもその痕跡を見つけることなどできるはずもなく。

 アイリの気が済んだところで周辺調査は終わりとなり、これまで通りにダンジョン探索を続けることにした。

 

 ただしお騒がせ集団との絡みと歪みの発声からの一つ目巨人の出現と、少しばかり予定外のことが立て続けに起こったことで予定よりも進捗が遅くなってしまったわ。

 というわけでダンジョン探索を続けるものの日帰りは無理と判断して、この日はダンジョンで一泊することにした。

 キラたちへの報告については眷属を介して伝えることが出来るので、その点は問題はない。

 ついでに言うと今ならお邪魔集団がいないので、さっさと先に進んでしまった方がこれからが楽になると判断したの。

 

 その甲斐もあってか、翌日の昼前にはもともとの目的地だったダンジョンの外と繋がる転移陣のある階層まで攻略することが出来た。

 アイリもお邪魔虫がいないことで絶好調だったようで、景気よく魔物と吹き飛ばしたりしていたわね。

 昔は攻撃的な魔法はあまり使えていなかった彼女だけれど、今では躊躇なく攻撃魔法を使ったりしている。

 キラの影響を受けたからというわけではなさそうだけれど、私と同じように地脈と繋がることが出来るようになった影響は多分に受けていそうね。

 彼女自身の元からの性格も勿論あるのでしょうけれど。

 私自身もバシバシと魔法を飛ばしているので、あまり人のことはいえないかしらね。

 

 とにかく『次』に繋げるための種まきは終わったので、今回のダンジョン攻略は終わりとなった。

 ただこれですべてが終わりというわけではなく、当然のようにダンジョン外に出たところで嬉しくない出会いが待っていたけれど。

 その出会いが何かといえば、前日ダンジョンで別れることになったご一行だった。

 彼らの姿を見てアイリの周辺の気温が下がったような気がしたけれど、あくまでも気のせいだと思いたいところね。

 

「――何か用でしょうか。これからギルドに報告に行くつもりだったのですが」

「それはまたつれないね。僕らは君たちを心配して待っていたんだよ? 少しくらい話をしてくれてもいいんじゃないか。ギルドの報告も僕らが済ませたんだし」

「それはあなたたちのするべきことであって、私たちには関係のないことですわ。私たちには私たちのするべき報告がありますので」

「どんな報告をするのか、是非とも聞いておきたいところだけれどね」

「あなたたちに話せるようなことはありませんので、知りたいのなら私たちが報告したあとでギルドに聞いてみてはどうでしょう」


 ギルドには守秘義務というものがあって、だからこそ下層に向かうような冒険者もダンジョンで起こったことをある程度簡単に伝えているわ。

 多くの冒険者が出入りしている上層で稼いでいる冒険者たちから話を余程のことが無い限り聞くことは無いけれど、下層に到達したということだけでも報告はしてほしいと言われている。

 ギルドとしては、これから下層を目指す冒険者のために情報が欲しいという建前がある。

 もっともそれはあくまでも建前で、下層に到達できるような冒険者がどの程度の実力があるのか把握するための聞き取り調査という側面もあるでしょう。

 場合によっては情報料をもらえたりできるので、私たちも報告を避けるつもりはない。

 

 ダンジョンマスターの情報については伏せさせてもらうつもりでいるけれど、転移陣までの道中で会った魔物や採取物についての情報を隠すつもりはない。

 そもそもギルド側もその程度の情報は他の冒険者から仕入れているはずなので、私たちの報告に嘘がないかを確認するだけで終わるでしょうね。

 あとは私たちが倒した一つ目巨人の情報や採取品などの情報は欲しがるでしょうけれど、これも別に隠すようなことは無いので話すことにしている。

 素材についてはキラが、というよりもアイ様が統括している眷属が欲しがるかもしれないのでギルドに卸すかどうかは彼女たちに確認を取ってからになるわね。

 

 私がそんなことを考えている間も、ディオはめげずにつれない態度をとり続けているアイリに話しかけ続けていた。

 アイリ自身はうんざりという顔になっていてそれにも気付いているはずなのに話し続けられる度胸(?)に少しだけ感心してしまった。

 

「そんな冷たいことを言わないで。ずっと一緒にダンジョンを探索していた仲だろう?」

「あなたのあれは探索ではなく、ただのナンパだと思うのですが?」

「ハハハ。そんなことは無いさ。僕は僕できちんとすべく役目をこなしていたんだよ」

「その割には、あの巨人が現れたときには真っ先に逃げ出しましたよね? ダンジョンでは戦力にはならないと証明されたのではありませんか?」


 護衛たちに連れられて逃げ出したことは紛れもない事実なので、ディオは言葉に詰まったようね。

 王子という身分を考えれば自己防衛できる程度の武技は身に着けているでしょうけれど、それでも自身が下層で戦い続けられるほどではないことは見ればわかる。

 そのことは当人もよく理解しているのか、アイリに返せる言葉が思い浮かばなかったのでしょう。

 これが貴族が開いているパーティの会場なら笑い飛ばして躱すこともできたのでしょうが、実際にダンジョン攻略をしている私たちには何の意味もないスキルだと証明されてしまった。

 

 ここまではっきり言われると言外に『貴方は邪魔』と言っていることは明白で、社交で鳴らしているらしい王子がそれを理解できないはずもない。

 だからこそ一瞬とはいえ言葉に詰まった上に、今の話題からは話を逸らすことしかできない。

 実際にすぐに建て直ったディオは、ダンジョンの話題からそれてアイリの個人的な情報を収集することに方向転換していたわね。

 もっともアイリはそれに答えるつもりはないらしく、結局ギルドに着くまで会話が成り立つことは無かったわ。

 

 さすがにギルドの中までついて来るようなことはせずに、私たちはそのままダンジョン内で起こったことをギルド職員に報告することになった。

 一つ目巨人が出現して討伐されたことまでは例の隊長が報告をしていたので、私たちがそのまま探索を続けたことを咎められることは無かったわね。

 とはいえ私たちが当事者であることには変わりはないので、より詳しく話を聞きたかったみたい。

 彼らよりも私たちの方が早く反応していたこともきちんと話をしていたらしく、ギルド側はそのことを知りたかったみたい。

 

 もっとも私たちが言えることは、魔力と歪みの変化に気付いたからとしか言いようがない。

 魔力のことはともかくとして、歪みについては話を聞いてきた職員も素直に意味が分からないと首を傾げていた。

 この辺りでは歪みのことは一般的に知られているわけではないので、そんな反応になることも納得できる。

 東方の巫女であるアイリがいたので、そちらの考え方の一つだということで納得したようね。

 

 とにかくこれで一つ目巨人に関しての話は終わり。

 明日からもこのダンジョンの探索は続けるつもりだけれど、私たちが転移陣を使って移動する以上は問題の一行は着いて来ることはできないでしょうね。

 少なくとも明日からはまともなダンジョン探索が続けられそうで一安心といったところかしら。




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