(61)予想外の情報
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< Side:アンネリ >
歪みから出て来た魔物は、ほとんど私とアイリだけで倒すことが出来た。
もしかすると残った護衛の人たちが混ざって来るかもと懸念したけれど、こちらを観察するだけで余計な手出しはしてこなかった。
自分たちが入ると連携が乱れるからと判断したのか、ギリギリまで見守ってから恩を売りたかったのかは分からないけれどね。
こちらとしても手出しはしてほしくなかったので問題はない。素材の分配の問題もあるしね。
小物狩りをしているときには大丈夫でも、今回のような大物狩りができた場合には必ずもめることになるから。
どちらにしても相手は騎士なので揉めるといっても変にごねたりはしなかったとは思う。
とにかく私たちだけで倒したことで素材の分配で揉めることは無かった。
さらにいえば私たちの討伐を最後まで見届けていた彼らは、こちらの一つ目巨人の処理をしている間にいなくなっていたわ。
護衛対象である
さらに、こちらの戦闘の様子を早く報告したかったということもあるのかしらね。
とにかく護衛隊長さんたちが離れてくれたことで、こちらも人目を気にせず話したいことを話せるようになったわ。
「――そっちはどんな感じ? 何かおかしいところはあった?」
「今のところ特に何もおかしいところはありませんわ。歪みから出て来た魔物ということで、普通と違うところがあって欲しかったのですけれど」
「そう。残念ね。今までこんなところでこんな大物が出たことがあるのかはギルドの戻ってからじゃないと分からないでしょうね」
「そうですわね。かといって今から戻るのももったいない気もしますわ」
「ギルドへの報告は彼らがやってくれるでしょうから、私たちはこのまま探索を続けてもいいでしょう」
「そうですね。そうしましょうか」
魔物の『処理』を進めながらそんな会話をしていると、それまで特に変わった様子もなくこちらを見ていた狼の眷属さんが唸り声を上げ始めた。
私たちといえばその変化に戸惑うことなく、ほぼ同時にある方向へと視線を向けた。
歪みの時とは違ってはっきりと魔力の変化が起こったので、私としてはちょっと前の変化よりもとても分かりやすかったわ。
「何のつもりで来られたのは分かりませんが、姿を見せるのであれば今のうちですよ? 彼らはいなくなりましたが、他の誰かが来てもおかしくはないですから」
「――やれやれ。普通はそんなに簡単には見つからないはずなんだけれどねえ。こんなにあっさり見つかるのか」
そう言いながら姿を現したのは、人の形をしていながら人ならざる者。
膨大な魔力を内包しているその存在は、まさしく今私たちが潜っているダンジョンを管理している『何か』だった。
私やアイリは勿論のこと、普段は護衛に徹している眷属の狼たちが唸り声を上げながら警戒している。
ダンジョンマスター云々は当てずっぽうとカマかけな部分もあったけれど、あっさりと白状してくれて拍子抜けだったけれどね。
「半分は偶然ですよ。それで、何の用でしょうか。こんな上層でダンジョンマスターが本気を出されるのですか?」
「いやいや、そんなつもりは全くないよ。勿論、僕の部屋まで来たら全力で相手をさせてもらうけれど。だから君たちもそんなに睨まないでくれ」
言葉の後半は明らかにキラの眷属たちへと向けられていた。
それは当然だとして、一級と言われているダンジョンのダンジョンマスターであっても警戒をしなければならないのかと少しだけ驚いたわ。
キラに言わせると、私たちの護衛に付いている眷属は第三世代で実力的にはまだまだ上がいるとのことだった。
それにも関わらずダンジョンマスターを警戒させているのだから、常にキラの護衛に付いている第一世代の眷属はどれほど強いのかと驚きを通り越して呆れてしまう。
少なくとも私たちには手も足も出ないどころか、無意識のうちに蟻を踏みつぶすように簡単に倒されてしまうということは分かる。
一度彼女たちが本気で戦っているところを見てみたい気もするけれど、それはそれで恐ろしい気もするので言葉にすることは出来ていないのよね。
「――やれやれ。とにかく僕はユグホウラに喧嘩を売るつもりなんて全くないから。勿論、深部まで攻め込まれたら本気で対応させてもらうけれどね」
「では何故、この場にいらしたのでしょう?」
私が口を開く前に、アイリがそう問いかけた。
「それね。君たちが倒した奴は深部にいた奴なんだけれどね。何故か僕の意図せず階層移動をしたんだ。何故かと来てみたら君たちがいて……一足遅かったよ」
「敵を討ちにいらしたと?」
「だからそんなつもりはないって。ダンジョン内で冒険者に討たれたならそれが命運だったってことだろう? それに何故、意味不明な動きをしていたのか君らが答えをくれたしね」
「では、歪みのせいでこの場に現れたということで間違いないと仰るのですか」
「今のところそれ以外に考えられないというだけだけれどね。何か他に答えがあるなら教えて欲しいよ」
どこか軽薄な印象を受ける口調で話をしているダンジョンマスターだけれど、少なくとも私には嘘を言っているようには見えなかったわ。
キラの眷属たちも警戒は続けているものの、話の内容に意義を唱えるつもりは無いようね。
こちらとしてはダンジョンマスターが関与していないと言質をとれただけでも十分すぎるほどの収穫と言えるでしょう。
歪みがここまでダンジョンに影響を及ぼすことがある場面が直接見ることができたのは、いつぞやのモンスター部屋以来となるわね。
歪みについての情報はこれ以上得られないと考えたのか、アイリは黙って考え始めた。
その様子を見てこれ以上質問することは無いと判断して、私は別の質問をすることにした。
「私たちはこのダンジョンにはマスターはいないと聞いて攻略していたのだけれど、あなたは本当にここのダンジョンマスターなのですね?」
「それはどこからの情報……ああ、聞くまでもなかったか」
ダンジョンマスターは、キラの眷属たちに一瞬視線を向けて納得した様子で頷いていたわ。
「僕がここのダンジョンマスターになったのは百年経たないくらいの頃だからね。それ以降ユグホウラの眷属が来た様子は無かったから、誰も把握していないんじゃない? 僕もそうなるように努めたし」
「そういうことですか」
聞きようによってはユグホウラ側の片手落ちだと言っているようなものだけれど、それをどうこう言うつもりはないわ。
ユグホウラの眷属たちも世界中にある全てのダンジョンの状況など把握していないだろうし、それをするだけの意味もないということは私にも分かる。
仮に情報収集していないダンジョンが暴走したとしても、それを押さえられるだけの戦力がユグホウラにはあるのだから。
目の前にいるダンジョンマスターがどんな魔物(もしかすると人の成れの果て?)で、どういう経緯でこのダンジョンに住み着くことになったのかが気になるけれど、これ以上聞くのは無理でしょうね。
そう判断した私は、これ以上の質問は無いと会話を打ち切るつもりで短く答えた。
その意図が通じたのかどうかは分からないけれど、ダンジョンマスターも短く「じゃあね」とだけ言ってその場から姿を消した。
脅威という意味では先に戦った一つ目巨人以上だったはずなのだけれど、不思議と恐怖を感じなかったのはあの軽薄そうな態度のお陰……だとは思いたくわないわね。
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本年中は今作をご愛顧いただきありがとうございました。
来年もまた引き続きよろしくお願いします。
フォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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