(60)外から観察

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 < Side:護衛隊長 >

 

 二人の女性が感じ取っている変化が私には何か分からなかったが、既に部下たちには何が起こってもいいようにと対応させている。

 その矢先、二人が視線を向けている場所で誰が見ても分かる変化が起こった。

 ダンジョン内の自然物以外には何もなかった場所で、初めは小さかった光の粒が大きくなっていき、やがて形を作って行った。

 誰が見ても魔法陣だと分かるまで一瞬で変化したその光だったが、それもすぐに消えることとなる。

 単に魔法陣が消えただけではなく、一体の魔物を置き土産とするかのように。

 

 出現した魔物を見て、その場にいた誰もが息を飲んだのは仕方のないことだと私も思う。

 身の丈が三メートル近いような二足歩行の人型のその魔物は、目が一つしかない化け物だ。

 一つ目の巨人といえばサイクロプスが有名ではあるが、この場に出て来たのはそのサイクロプスよりも格上の魔物だったのだ。

 どうあがいても今いるメンバーでは倒すことが出来ない相手の出現に、私はすぐに王子に指示を飛ばした。

 すぐにこの場から離れるように、と。

 

 幾らダンジョンとはいえある程度の法則があるはずなのだが、目の前に現れたその敵はどう考えてもこの階層に出て来ていいような相手ではなかった。

 何がどうなってこんな相手が出て来たのか、普段偉そうに講釈を垂れている学者共に問い詰めたいところだが今はそんな悪態をついている暇はない。

 今の私に課せられている使命は、何があっても王子を生きて国に連れ帰ること。

 正直それも怪しいところだが、自身の命を盾にしてでもその命令だけは守らなくてはならない。

 

 魔法陣が現れてからここまで、時間にすれば両手で数えられるほど。

 ここまでやってようやく周囲に目を向ける若干の余裕ができてから例の二人の方を確認してみて驚くことになった。

 二人が逃げることではなく戦うための準備をしているであろうことは予想の範疇だった。

 だが現れた相手を見ても慌てることはなく、冷静に状況を見守っていたのだ。

 

 事前に何らかの変化が起こると分かっていたとしても、一つ目巨人が現れた時の落ち着きようではない。

 今目の前に現れた敵は、フィールドで出現した場合にはある程度の大きさの都市が守れるかどうかを覚悟しなければならないほどの相手だ。

 我々とて少数で王子を守れるだけの実力者を揃えているが、全員で相手をしたとしても敵わないと判断したからこそ逃げの一手を打ったのだ。

 それにも関わらず、二人はこの状況を見極めたうえでこちらの行動を観察するだけの余裕があるらしい。

 

 明らかに格上だと分かる動きだが、残念ながら王子には理解できていないようだった。

 部下たちに誘導されつつ逃げる態勢に入っていたが、めげずに逃げるように女性陣に声を飛ばしていた。

 思わずその言葉は悪手ですと言いたくなったが、今はそんなことを言っている暇はない。

 それにこの状況は二人の実力を本職として見極めるにはちょうどいいと判断して、私はこの場に残ることにした。

 

 私が残ることを決めたと分かったのか、副官は既に王子を連れて逃げ出していた。

 他にもこの階層を切り抜けられるだけの人員を連れているので、この場に残ったのは私とあともう一人だけだ。

 もう少し階層を進んでた場合には全員で逃げなくてはならなかったところだったことが功を奏したのかどうか、結果を見てみないと分からないだろう。

 そんなことを考える余裕ができたのも、王子がある程度離れた場所にまで逃げることを見届けることが出来たためだ。

 

 勿論その間にも、状況は刻一刻と変化している。

 女性二人が一つ目巨人と対峙することを決めたことはいいとして、問題はどうやって討伐をするのかだ。

 この戦闘で二人がどう立ち回ったのか、それをつぶさに観察して国にその情報を持ち帰らないといけない。

 最初は無謀だと考えていた私の思考は、不思議なことにこの時点であの二人ならやってくれるのではないか――というものに変わっていた。

 

 常識では考えられないその考えだが、落ち着き払って状況を見極めようとしている動きを観察するとさほど的外れではないだろう。

 もし本当にあの二人だけで一つ目巨人を討伐することが出来たならば、今後の国としての方針も変わって来るはずだ。

 少なくとも腕力を使ってどうこうしようと考える者は減るだろう。

 もともとそうした考えを持って動いていないからこそ王子を当てていたのだろうが、今以上に慎重になることは間違いない。

 

 そうして始まった戦闘。

 当たり前だが、突然湧いて出て来たとはいえ魔物が目の前にいる『獲物』を前にして待ってくれるはずもない。

 一番手近な場所にいた二人の女性に向かっていくのは当然のことだった。

 

「――なっ!?」


 一つ目巨人を相手に二人がどう戦うのかと興味半分が見守っていると、まさかのアンネリという私に助言をくれた女性の方が近接戦闘を始めた。

 しかもそれはアンネリだけではなく、アイリという女性も同様だった。

 これまでの動きを見ていた限りでは、二人は純粋な魔法使いで近接戦闘など行っていなかったので驚いたのも仕方ない。

 

 思わず声を上げてしまったことに対してそう内心で言い訳をしてから、出来る限り二人の動きを冷静に観察することにした。

 そうして詳細を見てみれば、やはり二人の動き自体にはまだまだ未熟なところがあることがわかった。

 ただし魔力による身体操作は、私では詳細を知る事が出来ないほどに高みにいることも加えて理解できる。

 分からないことを理解できたという矛盾するような状態だが、事実なので認めるしかない。

 とにかくその有り余る魔力操作の力を使って身体の能力を最大限まで上げた結果、私では目視するのが難しいほどの速さで巨人と相対できていた。

 パワーでは一つ目巨人では圧倒的に及ばないが、スピードで補っているといったところだろう。

 

 さらに言うと二人が使っている武器もまた通常のものではないことも分かった。

 そうでなければ鉄よりも固いと言われる一つ目巨人の皮膚を、ああもたやすく切り裂くことなどできるはずがない。

 これまで二人が武器を使って戦うところを見たことがなかったのではっきりとは断言できないが、何かしらの魔力を纏っていることは遠目で見ても確認できた。

 もしかすると武器そのものは金さえ出せば手に入れられるような性能のものかもしれないが、彼女たちが纏わせている魔力のお陰で対等以上に渡り合うことが出来ている。

 いや。そもそも一つ目巨人の皮膚を切り裂けるほどの魔力を纏わせることが出来ている時点で、既に既存の武器とは違った造りをしているのかもしれない。

 その辺りのことはもっと手近に確認しないと分からないが、彼女たちも簡単に自分たちの手札の一つを見せてくれるはずもない。

 それこそ王子あたりに頼んでどうにか見せてもらえないか交渉して欲しいところだが、望みは薄いだろう。

 

 いずれにしてもこの監察結果で国に報告することが増えたことは間違いない。

 二人の動きを見ている限りでは、よほどのことが無い限り一つ目巨人を相手に後れを取ることは無いはずだ。

 勿論、戦いである以上は何か不測の事態が常に起こりうるので油断できる状況にはないのだが。

 とはいえそんな隙を見せることなくさほどの時間を掛けずに二人が討伐を終えたのを確認できたことは、国にとって良かったことなのかあるいはその逆なのかは私には判断は出来なかった。




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※今年も残すところあと二日になりました。

今年最後のご挨拶ということで、明日の更新も行いますのでよろしくお願いいたします。


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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