(59)不測の事態

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 < Side:アンネリ >

 

 中層へ移動するために速度を速めた私たちに、問題の集団はついて来ることを選択したようだった。

 中心人物のディオは、いきなり歩く速さを速めた私たちに始めは面食らったように立ち止まっていたけれど、護衛から話を聞いてすぐに追いかけて来た。

 私が話をした隊長がどう話をしたのかは分からないけれど、ディオはついて来ることを決断したということでしょう。

 その決断がただの無知からのものなのか、護衛たちの実力を信じているからなのか、どちらなのかしらね。

 

 もっとも魔物が徘徊しているダンジョンの中で平然とナンパをするディオ自身も、それなりに実力はあると思う。

 そもそも高位貴族になればなるほど幼いころから武器を持つ訓練はするので、そこまで不思議な話ではなのよね。

 中には訓練など全くせずに過ごす者もいるけれど、それは自身の評価を下げることに繋がるので多くの貴族の子女は素人よりは使える程度にはは鍛えられる。

 とはいっても、ディオが実力行使に出たとしてもアイリが力で押されるなんてことは起こらないでしょう。

 たとえ護衛全員でかかってきたとしても、アイリ一人でどうにかしてしまうかもしれないわね。

 それに加えて私もいるから最悪の事態になるなんてことは、万が一にも起こらないわ。

 

 昨日彼らの行動に付き合っていたのは、どういう目的があるのかを見極めるためでもある。

 それ以外にも、上層の様子を見たいとアイリが言っていたから。

 ダンジョンで発生する可能性がある歪みを見つけることも、アイリにとってはダンジョン探索をする大切なことの一つだからね。

 彼らと遭遇したのが探索の後半だったということも災いしていたわ。振り切って逃げても中途半端で終わるような場所だったから。

 

 とにかく平常のスピードに戻しても彼らは着いて来ている。

 その速さにも慣れたのか、ディオも少しずつアイリへのアプローチをし始めていた。

 そしてそろそろそのアイリが反撃を始めるのではないかと機嫌が急降下して限界を超えそうになったその時、さらに下の層に向かうための入口とは少しだけずれた場所に違和感を覚える。

 

「アイリ」

 

 他の誰もそれに気づいていなかったようなので、私は短くアイリへと警告した。

 やはりアイリは私が意識を向けている場所へと視線を向けて、すぐにその違和感の正体に気付いたようだったわ。

 それと同時にディオへの対応で私よりも気付くのが遅くなったことに、ほんの少しだけ自分への怒りを感じているようでもあった。

 

「私には魔力の不自然な流れしか感じないけれど、もしかするとあれがそう?」

「ええ。間違いなく歪みですわ。それよりも、歪みと分かったのですか?」

「いいえ? 魔力の流れが不自然だったから確認してみたら当たりだっただけよ。歪みじゃない場合もあるから、やっぱりアイリに確認しないと」

「そうですか。それよりも、あれは少々不味いかも知れませんわね」


 私には魔力の流れの乱れとしか見えていないのだけれど、アイリにはアレがはっきりと歪みとして見えているらしい。

 それはいいとして、問題は少しばかり厳しい顔をして歪みのある場所を見ているアイリと今まで以上に警戒を強めたキラの眷属たちでしょう。

 今いるような上層で眷属たちがここまで警戒を強めるのは、非常に珍しいことなので『何か』が起こることは間違いないと思う。

 当然のようにアイリもそのことに気付いていて、だからこそ厳しい視線を向けている。

 

 私たちの雰囲気がこれまでとは一転して変わったことに気付いたのか、護衛の皆さんも何事かと顔を見合わせていた。

 ディオの様子はあまり変わってはいないのだけれど、さすがに口説き文句ではなく軽い調子で警戒を強めているアイリに話しかけているわね。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 < Side:護衛隊長 >

 

 何なんだ、この二人は。

 周りの部下たちの様子を目を配りつつダンジョン内を移動している俺は、普通ではない速さで攻略を進めている二人の女性を観察していた。

 そもそも俺たちがディオの護衛として動いているのは、国からの要請があったためだ。

 国からの要請ということで、当然のように女性たちの情報は得ていた。

 ただし今の攻略状況を観察する限りでは、その情報はかなり抑えめに書かれていると断言できる。

 二人が魔術師系で前衛がいないということで多少なりとも侮って見ていたのだと、今の様子を見て反省しきりだ。

 そもそもこうして間近に観察するような組織なりがいなかったのかもしれないが、うちの情報部ももう少しまともに調査をして欲しいものだ。

 

 今の二人の動きを見ているだけでも、ひとかどの冒険者だということが分かる。

 ランクはつい最近Aになったという話だったが、上がったばかりの実力のようには見えなかった。

 万が一を考えて十二分の働きができる部下を揃えたつもりだが、万が一が起こった場合は逃げることを優先したほうがいいかも知れん。

 私一人で二人を同時に相手できるとは思えないが、王子を逃がすだけの時間は稼げる……はずだと思いたいところだ。

 

 私がそんなことを考えている間に、王子もいつもの調子を取り戻しつつあった。

 あれが我が国の王族の一人だと考えると少々頭が痛くなってくるところだが、役に立っていることは周知の事実なので止めることもできない。

 同性異性問わず、いつの間にやら相手の懐に入り込んで重要な交渉をやってのけるだけに、国内では優秀な王子として知られている。

 ……その実態が、少なくとも異性に対してはナンパの結果だと知られると評価が分かれることは間違いないところだろう。そうだと思いたい。

 

 そんな王子が再びナンパ、もとい情報収集を始めた矢先、突然任務対象の二人が歩みを止めて進行方向から少し外れた方向を見て何やら相談を始めた。

 歪みがどうのという話をしていることは分かったが、私にはそれが何を指しているのかが分からない。

 部下として連れてきていた魔法使いに視線だけを向けて確認を取ってみたが、返ってきたのは無言のままの首振りだけだった。

 ただ歪みというのが何のことが分からないとしても、二人の表情を見れば何かしらの良くないことが起こっていることは理解できた。

 

 冒険者としては一流と分かっている二人の女性がここまで表情を変えるとなると、こちらも対応を考えざるを得ない。

 任務のことは確かに重要ではあるが、私たちにとって一番重要なことはディオ王子を無事に連れ帰ることだ。

 私たちの手に負えないような相手が出て来る前には、出来ることなら逃げ出しておきたい。

 いざとなれば私が盾となって王子を逃がすだけの覚悟はあるが、それはあくまでも最終手段だ。

 

 それはいいとして、やはり二人の態度は気になる。

 周囲を見渡してみても強い魔物が近づいて来ているという様子はないので、こちらとしてもどう対処すればいいのかが分からない。

 相談を続けている二人の様子を見ても、強敵が来ているというようには見えない。

 だからこそと言い訳をするつもりはないが、これまでと同じような対象を続けるようにと指示を出していた。

 

 ダンジョンの中にいるのだから常に警戒は続けているので、何かしら不測の事態が起こったとしても対処は出来るはず。

 それが甘い認識だったと理解できたのは女性二人が視線を向けている先、私たちには何の変哲もないダンジョンのフィールドであり得ない変化が起こったからだった。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る