(56)新しい説?(立証できず)

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 自分がマナについて調査やら訓練をしている間、アンネリやアイリは二人だけで冒険者として活動をしている。

 その様子を一日の終わりに聞きながら俺自身は、変わらずに調査を続けていた。

 マナから魔力への変換を自分で出来るようになったとはいえ、それはまだまだ少量でとても実用的とはいえない規模でしかできない。

 マッチ棒くらいの大きさの火をつけることは出来るけれど、それではわざわざマナから魔力への変換をする必要はない。

 そのためこれからは実用に耐えうる量の変換を目指して訓練を続ける必要がある。

 とはいえそれはまだこれから先の課題として一旦保留をしておいて、次は元の疑念だった中央の壁の調査を始めることにした。

 マナの変換が出来るようになったお陰で細かいマナの動きも感じ取ることが出来るようになったので、壁の見え方も変わったのではないかと期待している。

 ただし壁がどういう構造になっているのか不明なため、すぐに解明できるだろうという過度な期待はせずにアンネリやアイリと別れてから中央へと向かった。

 

 壁がある場所ではマナと地脈を流れている魔力が綺麗に分断されていることが分かっている。

 問題はそれが物理的に起こっているわけではなく、どうやって『壁』として分けられているのかというところにある。

 そもそも魔力自体が物理的な法則とは全く違った摂理で動いているので、通常の壁を意識しても意味がない。

 アリサさんたちもそこが一番わかりずらく、今でも壁のことがよくわからない最大の理由なのではないかと言っていた。

 

「壁を隔てて魔力とマナが分けられていることは間違いない、か。でもどうやってこうまで綺麗に分けているのかが分からないんだよな。それに加えて、マナを扱えないプレイヤーを侵入させないための『何か』があると」


 今一度考えてみると、最初に壁を越えられた時には物理的な肉体を持たずに魔力的なモノになってはいj目て移動することができた。

 そうすると、この場には物質的な仕掛けが施されているわけではないことは分かる。

 物理的な何かがあるならそれこそそれ自体を調べればいいのでわかりやすいのだけれど、この場にはマナや魔力を視ることが出来る『目』で確認しても何かがあるようには見えない。

 というところで行き詰まっているのが現段階でのプレイヤー間の認識になる。

 もしかすると別の意見を持っているプレイヤーもいるかもしれないが、それは表に出てきていないので今は考えることは止めておく。

 

 しばらくの間、地脈側から壁に触れようとしたり目で確認しようとしたりして見たけれど、どうしても『何か』があるようには感じられなかった。

 それでも何も得られるものはなく、今度はマナ側から何か確認できないかと移動することにした。

 その時にふと思いついたのが、ある意味では巨大なマナだまりとなっているこの場所で魔力への変換をしたらどうなるのかということだった。

 この世界にとってはマナの中心地となるこの場所でそんなことをしてもいいのかという考えも浮かんだけれど、思いついてしまったことは試してみたいという気持ちが大きくなってしまった。

 こればかりは性分なので仕方ないと、意を決して試してみることにした。

 そもそも俺自身が一度にできる変換の量はこの場にあるマナの量からすればごくわずかなので、そこまで極端に大きな変化が起こることは無いという計算もある。

 

 一度覚悟を決めてしまえばあとは実行するだけだったので、マナから魔力への変換は割とスムーズにできた。

「……あれ? 変換した魔力はどこに行った?」

 変換の手ごたえはあったので、失敗したということは無いと思う。

 それでも変換した魔力は周辺にあるようには感じ取れなかった。

 

 そこでさらに数回試してみたが、少なくとも近くに変換した魔力が残るようなことは無かった。

 通常であれば魔力を発生させれた自分自身の近くに残るはずである。

 これはどういうことだとしばらく考えていたところで、一つの仮説が浮かんできた。

 その仮説というのは周りにあるマナの量、というか濃度が濃すぎて魔力がマナだまりの周辺である地脈の中央に追い出されているのではないかということだ。

 

 マナの量が濃いとそれ以外のモノは存在することはできず、たとえ魔力のようなマナにとっての異物が発生しても外側に追いやられてしまう。

 逆に外側から中に入ってこようとしても、マナの濃度が濃すぎて弾かれてしまうということでもある。

 その理論(?)が正しければ、プレイヤーが『壁』と認識している現象も説明することが出来る。

 逆にいえば地脈の中央にあるマナだまりと同化できるようになれば、壁を抜けることが可能になるわけだ。

 

 マナや魔力という物理からはかけ離れた存在を説明するのに物理的な考え方でいいのかという疑問も出て来るけれど、そう考えるとスッキリ出来る。

 さらにいえば、自分自身でもある程度筋道だったこの考え方にどこかモヤモヤしない部分もあった。

 それが何かを具体的に問われると答えられないのだけれど、喉に骨が刺さっているような違和感がある。

 その違和感が何か分からずに時間をかけて考えてみたが、それでも答えは出てこなかった。

 

 いくら考えても答えが出てこないので、この場で考えるのは諦めてそのままホームへと戻った。

 ホームにある家に用意されている自分の部屋で、ベットに寝転がりながら考えると何かしら思いつくことがあるんじゃないかと期待してのことだ。

 ハウスに戻って端末から何かしらの情報を得ようかとも考えたのだけれど、まずは自分の感覚だけを頼りに考えたほうがいいと思ったこともある。

 そもそも今自分が感じている違和感は言葉で説明できるようなものではないので、都合よく条件が当てはまる事象や考察があるとは思えないということもある。

 

 そんな考えの元ベットの上に寝転がっていると、だんだんと睡魔が襲ってきて睡眠まどろみと覚醒が交互に来るような状態になってきた。

 いっそことここまま昼寝でもしようかと眠りに身を任せようかと諦めかけたその瞬間、ふとある時ガイアと交わした会話を思い出した。

 

「――そうか。壁自体がマナから魔力への変換をしているという話をそもそも忘れていたな」


 思い出してしまえばなんでそんな基本的なことを忘れていたんだと落ち込みそうになるけれど、濃度のことを思いついたときにはそっちに気を取られていて全く気付けなかった。

 喉につっかえていたもやもやが晴れて、すっかり眠気も飛んでしまった。

 壁自体が変換を行っていることは、アルさんから話を聞いただけではなく他の運営さんからも確認が取れているので間違いはないだろう。

 となると先ほど中央で思いついた濃度による移動説はどこかに抜けか間違いがあるということになる。

 

「科学からかけ離れた存在のマナとか魔力に物理的な説明を当てはめようということ自体が間違っているとか……?」


 いくら考えても何が間違っているのわからずに、ついついそんな言葉が漏れてしまった。

 とはいえ思いついた説が完全に間違っているとは思えない。……思いたくはない。

 

 そんな個人的な感想はともかくとして、いくらマナという不可思議な存在(?)に満たされているとはいえ魔力がその場から勝手に消え去るとは考えづらい。

 だからこその濃度による移動説を思いついたわけで、その考え方を含めて壁の説明ができることを期待したい。

 あるいは、別のプレイヤーが全く別の理論を思いつくまでこの考え方を封印しておくか。

 いずれにしても自分自身では何とか壁自体の働きも含めて何かしらの説明ができるように研究を続けるつもりでいる。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る