(54)マナの処理

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 領域を支配している爵位を持つ魔物やダンジョン(マスター)は、周辺に散らばっているマナを集めて魔力に変換する役目を持っている。

 最近は歪みのことについて注目して忘れがちになっていたが、これは一周目の時からの変わらない事実だ。

 もっとも世界樹の妖精だった時、そして二周目になった時も、世界樹の中にいてマナを変換しているところを感じ取ったことは無い。

 そもそもマナを感じ取る能力がなかったので当然といえば当然なのだけれど、これは結構重要なことなんじゃないか。

 アリサさんと話をしていてそんなことを思いついてしまったせいで、少しの間ついつい目の前にいる相手のことを忘れてしまった。


「――キラさん?」

「あっ……。いや、ごめん。ちょっと考え事をしてしまった。すぐ目の前に話相手がいるのに。申し訳ない」

「ううん。それは別にいいんだけれど。何か思いついたみたいだけれど、私の話を聞いて何かあった?」

「何かというか。そもそもの基本的なことを忘れていたなって、思い出したんだ」


 その説明に首を傾げたアリサさんに、先ほど考えたことをそのまま話した。

 相手がきちんと話をしてくれてそれがきっかけになって思いついたのに、自分だけは隠すなんてことをするつもりはない。

 

「基本的なこと?」

「さっきアリサさんが言っていたことだよ。世界樹のような爵位持ちやダンジョンは、自然に散らばっているマナを処理しているって」

「うん。言ったけど、それがどうかした?」

「マナを処理しているのに、ダンジョンマスターだったり爵位持ちの魔物が勝手に自動で処理しているってどういうことかなって考えたら不思議じゃない?」


 そう言ってみたもののアリサさんから返ってきた答えは「どういうこと?」という顔だった。

 アリサさんは人族プレイヤーであるために、自分の知らないところで勝手にマナが処理されているという感覚がよくわからないようだった。

 

「――爵位持ちとかダンジョンマスターって、普段は無意識のうちにそういったものを処理しているんだよ。プレイヤー的にいえば、無意識というか、システム的に処理されていると思い込んでいるというべきか」

「なるほどー。つまりは、本来であればマナから魔力への処理を出来ているはずなのに、『ゲーム』的に進めないと意識することは無いということか」

「もう一歩踏み込むと――これは俺だけかもしれないけれど、未だに世界樹がどうやって処理しているのかはわかっていないね」

「えっ……!? ということは、それが分かれば壁のことも分かるということ?」

「かもしれないってところかな。実際にはそこまで甘くはないような気もするけれど。それに、壁を通り抜けている他の人外系プレイヤーが、どう感じているかも興味あるね」

「確かに。言われてみれば、掲示板でもその辺の話はされていなかったと思うかなー」


 人外プレイヤーのうち少なくとも爵位持ちに関しては、それぞれの領地でどうマナが処理されているかを具体的に分かっているプレイヤーはいなかった思う。

 ダンジョンマスターのプレイヤーの場合は爵位持ちほど詳しく知っているわけではないけれど、そんな話は聞いたことがない。

 ただしその手の話題が掲示板に上がっていたとしても『まとめメモ』なりに整理はされてるはずだ。

 そういったものも無いということは、プレイヤーがマナから魔力への変換について詳しく理解していることはないと思う。

 

「だよね。壁よりもそっちの方が簡単とは限らないとは思うけれど、調べてみる価値はありそうかなと」

「そうだねー。でもそうなると、そういったものが調べられない人族プレイヤーはどうすればいいのかな」

「それは確かにあるね。運営がそんなことを見逃すとはおもえないから何かあると思いたいところだね。――案外、爵位持ちとかダンジョンマスターと知り合いになって調べさせてもらうということもできるかも?」

「アハハ。あの運営だけに絶対ないとは言い切れないかなー」


 笑い話のように言っているけれど、あの上司がいる限りは絶対にないとは断言できない。

 アリサさんも表面上は笑っているようには見えたけれど、何となくどこかであるかもしれないと考えているように感じ取れた。

 それもこれもあの上司という存在があるからだ。

 ただ上司は自分の趣味のためにはぶれないというという所だけは安心(?)できるので、笑い話と捨て置くことは出来ない。

 

「――というか、現地のダンジョンマスターと知り合いとか話し合いになっている人族プレイヤーっていなかったっけ?」

「言われてみればいたような気もする。私はその辺りから調べてみようかなー」

「それがいいかも。俺は足元からきちんと調べ直してみるよ。この後で世界樹の中に行ってみる」

「そうできるのが人外系のいいところよねー。その分、人族プレイヤーと違って苦労していることも知っているけれど」

 

 もう既に大分過去のことになっているけれど、この世界に送り込まれた時にやったチュートリアルが人外系のほうが難しかったといのは同じサーバーのプレイヤーの間では当然の認識になっている。

 もしかすると奴隷スタートした人族プレイヤーがいれば人外系と同じような難易度(?)になっていたのかもしれないが、残念ながらそんな選択肢を選んだプレイヤーはいない。

 それぞれの世界の状況を知っている今となっては、猶更そんな状況を選ぶプレイヤーはいないだろう。

 そもそも二周目以降のプレイでチュートリアルから始まることはないので、今更検証することは不可能だ。

 

 少なくとも自分たちがいるサーバーでは、人族だけをプレイしているプレイヤーにとっては爵位持ちやダンジョンマスターがマナから魔力を変換しているところを見る機会はない。

 だからといって一から人外系プレイをやり直すと手間がかかり過ぎるので、もし確認しようと思えばそういう存在に確認をして見るほかない。

 もっとも自分も含めて直接的にマナから魔力への変換を意識しているとは思えないので、間接的に見せてもらうことになるだろう。

 あるいは人外系プレイヤーが調査した結果がまとまるのを待つという選択肢を取ることもできる。

 

「それにしても、キラさんも色々と考えているのね。さすが」

「? どういうこと?」

「あれ? つい最近、全体のレベルアップのことを考えているって聞いたよ?」

「あー、それね。今回のこれも、そこから派生してたどり着いたって感じなんだけれど……確かに手を出し過ぎている気がするな。どれもこれも答えにはたどり着いてないし」

「なるほどー。確かにあれもこれもと手を出すと大変かもね。というか最近私思っているんだけれど、『答え』が一つとは限らないんじゃなかなって」

「どういうこと……?」

「なんていうか――人生の答えは一つじゃないとかじゃないけれど、ゲームのロールプレイングみたいに一つの決まったルートがあるんじゃなくて、たくさんの枝葉ルートがあるんじゃないかなって」

「枝葉……ということは、運営が敢えてたくさんのサーバーに分けているのも意味があるってことか」

「そうそうそんな感じ」


 それぞれのプレイヤーに与えられた世界のマナの総量を増やすこと――これが柱としてあるとしても、そこに至る道は一つだけじゃないということがアリサさんが言いたい事だと理解できた。

 そもそもファンタジー系からSF系に至るまで多くのサーバーを用意しているのだから、その考え方は間違っていない……かもしれない。

 そう考えると、答えは一つだけじゃなくて幾つも道があると言うこともできる。

 会話の終盤だったからという理由もあるかも知れないけれど、この考え方がアリサさんとの話をしていて一番印象に残ることになった。




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