(53)『壁』の存在
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マナと魔力(地脈)を隔てる壁は、プレイヤーにとっては文字通りに大きな壁となって立ちはだかる。
ただしそれはあくまでも『マナに触れる』ためであり、マナそのものをどうこうするという意識はなかった。――少なくとも俺の場合は。
他のプレイヤーがどうかといえば、まずはマナに対する五感を得てから初めて魔力のように扱えるようになるのではないかという考え方が一般的だった。
とはいえまだ誰も壁を超えていなかった当時においても、壁を超えること自体がマナに対して影響力を行使するのではないかという考察をするプレイヤーもいた。
もっともその考え方自体が、『壁』そのものに対して何かしらの影響を及ぼすができるとまでは言及していなかった。
何故なら地脈とマナを隔てるための壁は運営が用意したものであり、プレイヤーが触れることのできる領域ではないと一種の神聖視されていたところがあったからだ。
神聖視というと少し大げさだが、触れると爆発する的な扱い(比喩的に)だったことは確かだ。
だからこそ壁を越えたり突破することは目標にしても、それ自体を破壊したり変更を加えたりするようなことを実行するプレイヤーはいなかった。
そもそもマナと魔力(地脈)を隔てている壁は、マナに触れようとしているプレイヤーからすれば未知の存在だった。
マナのことを全く知らないのにマナを扱っているものを詳しく知ろうとしても分からないのは当然だ。
だからこそ壁そのものはほとんど触れてこなかったというのが正しい。
とはいえ今となっては、それなりの数のプレイヤーが中央の壁を超えてマナの存在に触れることができている。
それなら壁のことを詳しく調べているプレイヤーもいるのではないかと確認してみると、案の定どうにか分析できないかとトライしているプレイヤー
もっとも彼らはそこまでマナを上手に扱えているわけではなく、あまり成果らしい成果は出せていなかった。
結局ほとんどがマナと魔力の状態変化の観察だけでとどまっていて、壁についての考察は推論どまりで終わっている状態だった。
――ということまでがメモ帳に纏められていたのだけれど、これだけだと調査していたプレイヤーがどう感じていたのか分からなかったので直接会って話をすることにした。
壁の調査を行っていたグループは、最初にアリサという魔道具士系のプレイヤーが始めた調査に興味を持った他の三人のプレイヤーたち集まってできたグループらしい。
というわけで、早速アリサにアポを取って広場にある喫茶店で会うことになった。
「いやー、まさかキラさんと直接話をすることになるとは思っていませんでしたよー」
「あれ? 何回か会話したこと無かったっけ?」
「それはあいさつ程度でしょう。精々友達の友達の友達くらいの会話だったじゃないですか。成果とか課題とか突っ込んだ話は初めてですよー」
「あー……。言われてみればそうかも?」
一度脳内で検索を掛けてみたけれど、確かにアリサさん相手に詳しい話をした記憶は残っていなかった。
もしかするとどこかのグループと混ざって話をしたことがあるかも知れないけれど、その記憶にも残っていない程度のものでしかない。
もっともこれはアリサさんが特別というわけではなく、他のプレイヤーも似たり寄ったりのことが多い。
サーバー全体で百人と聞くと少ないように思えるが、実際の付き合いとなるとこんなものなのだろう。
……俺だけがそうだとは思いたくはないところだなあとは思ったりもしたけれど。
「だよねー。まあ、それはいいとして。壁のことについてだったよね。でもメモ帳に纏めていることがほとんどで、付け加えるようなことは何もないんだけれど?」
「ああ、そこは疑っていないよ。というか、隠していたとしてもそれを無理に聞くつもりもないかな。メモ帳はあくまでも物事の事実しか書いていないからね。詳しく聞きたいのは、調査していた時に感じた曖昧な部分なんだよ」
「曖昧な……? 感情とか?」
「そういうことでもいいよ。マナを扱うには感情も大事になって来る――気がしているんだ」
「へー。キラさんでもそういうことを言うんだ」
「でもって、どういうこと?」
「私が勝手に思っていることだけれど、キラさんって理詰めというかコツコツと積み重ねていって感情には頼らないタイプじゃない? 頼らないというか、感情に左右されることを嫌っているというか」
「あー。言われてみれば確かに。嫌っているというと少し大げさな気もするけれど」
そこまで多くの言葉を交わしてきたわけではない相手だったが、とはいえ狭いコミュニティの中のことだけに性格を把握されていてもおかしくはない。
一応、良くも悪くも注目されているという自覚はあるので、アリサさんの分析(?)には納得はしても反発はなかった。
「でしょー。まあ、それはいいか。それよりも壁を調べていた時に受けた印象ねえ……。うーん。改めて聞かれると難しいなあ」
「そんなに考え込む必要はないよ。心理テストの時みたいに、直感で答えてもらったほうが嬉しいかな」
「そんなもん? よくわからないけれど、結構前のことだからなあ。色々余計なものが混ざると思うよ?」
「それはそれでいいんだよ。とにかくどういう調査をして、どういう印象を受けたのかを聞きたいんだ」
アリサさんが壁の調査をしようと思い立ったのは、魔道具士の一人として何かの刺激を受けることが出来ないかと考えたからだそうだ。
地脈の中央にある壁が魔道具として分類していいのかどうかも当時は分からなかったので、とにかく調べないと始まらないと軽い気持ちで始めた。
そもそも中央の壁は物理的に存在しているわけではないので、それを道具と言っていいのかどうかは今でも分からないとアリサさんは苦笑をしていた。
外との空間を分けている家の壁だって広義の意味で道具の一つと言えなくはないので、調べていくうちにそこはあまり気にならなくなったとのこと。
「――それはいいとして。調べていくうちに強く思うようになったのは『何のために』壁って存在しているのか、ということかな」
「何のために? プレイヤーのためにじゃないの?」
「そういう意味じゃなくてさ。だってマナって基本的にはその場から動かないじゃない。だったら少なくともマナのためには壁なんて存在する必要はないよね?」
「……なるほど。どちらかといえばあの壁は魔力と混ざらないために存在しているってことか」
「確証はないけれどねー。それにマナと魔力が混ざるとどうなるのか、それ以前に混ざるのかどうかもよくわかっていないじゃない」
「そうだね。地脈の中だけじゃなく自然の中でもマナは存在しているけれど、その状態を『混ざっている』と言っていいかは微妙かな」
「そうそう。それこそキラさんの世界樹とかダンジョンとか。マナを魔力に変換する存在はあるけれど、それも混ざった状態とは言っていないよね」
「確かにあれは混ぜているとは言えないだろうなあ。それに地脈の中の濃い魔力と魂の源ともいえるマナは、自然に存在しているものとは比べ物にならない程の濃さ? 強さ? だろうしね」
マナや魔力の濃度のことをどう表現していいのかわからずに最後が曖昧な言い方になってしまったけれど、アリサさんにはしっかりと通じてくれたようだった。
それはともかくとして、話を聞けば聞くほど地脈の中央に存在している『壁』が色々な意味で特異な存在であるという気持ちが強くなっていった。
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