(52)マナの訓練 その3

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 サキさんとの訓練は特に大きな問題が起こることもなく順調に進んで行った。その代わりに大きな進展があったとわけでもないのだけれど。

 少なくとも自分はいきなりパッとできるような『天才型』ではないと考えているので、一歩一歩地道に進んで行くつもりで今回の訓練も行っている。

 そんなことを口にすると、何故だかサキさんがあからさまにジト目になってこちらを見て来た。

 

「キラさんが天才型じゃないとしたら……いえ、違うか。天才型じゃなくて秀才型ということかな」

「いや、地道な努力もそんなにしているつもりはないんだけれど?」

「そんなことをあっさり言えている時点で普通とは違うと思うね。少なくともこのサーバーでトップであることには違いないんだからさ」


 サキさんがため息交じりにそう言うと、他の面々も大きく頷いていた。

 そこまで言われてしまうと、これ以上反論することは難しい。

 こうして皆が自分のことを評価してくれることは勿論嬉しいのだけれど、ごくごく平凡な人生を進んでいた自分としてはいきなり天才、秀才扱いされても戸惑うことしかできない。

 あちらの世界にいるときならまだしも、同じ日本で生きて来たプレイヤーに囲まれていると猶更そう感じてしまう。

 これまでのことはたまたまいい方向に作用してきたからであって、これからもそうだとは限らないという思いの方が大きい。

 

「――なんというか、キラさんらしいというか。うん、まあ、別に悪いことじゃないんだからそれでいいんじゃない?」

「「「そうそう」」」

 

 何となく話の流れで正直な思いを告白(?)ことになってしまったが、女性組はあっさりと納得していた。

 彼女たちの顔色を見ても本気でそう言ってくれていることが分かったので、素直に受け入れることが出来た。

 そもそもプレイヤーは元が普通の人間(?)だったこともあって、それぞれが完璧な存在ではない。

 精神的に不安定になることもあれば成長することもあるので、その時々のあるがままの思いで考えて進んで行けばいいと思えた。

 

 普段そこまでの深いやり取りがあるわけではない相手に、こんなことを話すことになるとは思っていなかった。

 けれども、そうだからこそ話が出来たのではないかとも思える。

 普段からこんなことを考えているわけでもなく、突然思い浮かんだことだったからこそ彼女たちに話す気になったのではないかとも思う。

 

 とにかく何となくお互いにそんなことを話しをしていると、俺とサキさんが一緒にいると話を聞きつけたヒロシが訓練場にやってきた。

 そのヒロシは、特に訓練らしいこともせずに会話だけをしていた俺たちを見て首を傾げていた。

 

「訓練しているって聞いたんだが? 邪魔したか?」

「いんや。どっちかといえば訓練の休憩の合間だったよ。ちょうど話も終わったしそろそろ再開するつもりだった」

「そうか。まあ、邪魔にならなければどっちでも良かったんだ。それよりも、何の訓練をしていたんだ? 他から聞いても要領を得なかったんだ」

「何って言われても、サキさんがマナの体内循環させているところを見せてもらっていた」

「体内循環……? それだけか?」

「それだけだね。もっと言うと、星レベルの大きな動きじゃなくて個人レベルでの小さなマナの動きを見たくてサキさんに頼んだんだ」


 最後に補足をするとヒロシはそこでようやく「なるほど」と納得していた。

 俺(男)がサキさん(女)のことをじっと見ているだけという、端から見ると誤解を受けそうな状況だけにまた聞きで話を聞いたヒロシが意味が分からなかったと言ったことも理解できた。

 サキさんを含めて複数人の女性がいてその状況を普通に受け入れていたこたことからいかがわしことをしていたわけではないと分かっていただろうが、それでも何の訓練をしているのかと疑問に思うことも分かる。

 さらに俺自身から訓練内容を聞いてきちんとした訓練をしていた納得できたのはいいのだけれど、妙に大人しいというか地味な訓練をしていたんだと考えるということも納得できた。

 

 何故今更そんな訓練をと言いたげな顔をしてこちらを見て来たヒロシに、改めて今回の流れを説明した。

 アルさんから言われた『マナの小さな動き』に対する訓練の一環だと説明すると、ようやくその目的も理解して貰うことができた。

 

「――マナの動きで相手の動きを察知するか。魔力でも似たようなことができるんだからできてもおかしくはないが……本当にできるのか?」

「アルさん……に限らず運営の人たちは、出来ないことを出来るとは言わないと思うよ」

「確かに、それもそうか。となると俺も出来るようになった方がいいというわけか。でも、それこそ魔力と混同するんじゃないか?」

「それがしないんだよね。不思議なことに。使う側が魔力とマナを間違ったりしないのと同じ理屈だと思うよ」


 魔力は現実世界に実際に作用するもので、マナは直接的に作用することはない。

 その違いが混同することがない理由の一つになっているとは思うけれど、はっきりと違うと断言できるくらいにマナと魔力を間違うことは無い。

 今やっている小さな動きでさえはっきりと区別ができているので、今後も混同することはないと断言できる。

 そこまで考えたところで、ふと疑問が浮かんできた。

 

 マナは世界に対して直接的に現象を起こすことがないはずなのに、地脈の中央ではそれこそアルさんが転移してきたようにマナを使って『現象』を起こすことが出来ている。

 これはどういうことか。――と、今更ながらに出て来た疑問に、ヒロシもサキさんもそういえばと首を傾げた。

 

「もしかすると転移自体は魔力を使っていて、マナが壁のように邪魔をしているからそれをそっと避けて通っているとか?」

「確かにサキさんが言うとおりだと理屈は通るな。そもそも中央の壁突破がプレイヤーにとっての一つの壁になっていることも何か理由があると言われていたな」

「なるほど。あれも実はマナを知るための訓練の一つになっているということか。そう言われると納得できてしまうな」


 サキさんとヒロシの考察になるほどと頷いた。

 中央の壁を突破した時には全く認識していなかったけれど、あれも『マナに触れる』ための入口の一つだと考えれば納得できる。

 さらに付け加えれば、単にプレイヤーにマナのことを認識させるだけではなく、マナに対して何かしらの影響力を行使している可能性もあり得る。

 中央の壁突破がマナに触れるための試練の一つだという考え方は以前からあったが、後半に関しては今まで誰も触れていなかった……はずだ。

 

「――もう一度、しっかりと壁のことを調べる必要がありそうだね」

「キラさんの言う通り、私も戻って確認してみるよ。何か新しい発見があるかも知れないし」

「だな。何もないかも知れないが、それは俺たちがまだ何かしらで未熟なところがあるからかもしれないしな」


 壁を調べたからといって何かが見つかるとは考えていなかったけれど、サキさんとヒロシも順番に賛同してくれた。

 そもそも試練としての中央の壁突破を果たしてからは、詳しく調査をするということをしてこなかった。

 壁自体はなくなっているわけではないのに、放置しっぱなしというのは問題があるだろうと思う。

 運営が用意した中央の壁は文字通りプレイヤーが一つの壁を超えるために用意されたものだけに、ブラックボックス的な扱いになっていたところもある。

 だからといって運営が何かしらの制限を掛けているというわけでもないので、何かを言われることもない……はず。




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