(51)マナの訓練 その2

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 アルさんの助言に従ってマナの変化に対する訓練を増やすことにした。

 マナに関してアルさんは完全に俺の師匠になっていて、色々とアドバイスをしてくれている。

 マナの扱いに関しては完全に個人の感覚に頼ることになるので教科書的に教える(教わる)ことは出来ないらしく、こうして助言めいたことを言われることが定番になっている。

 それでも何もないよりははるかにましで、アルさんから助言がある時には有難くその教えを守ることにしている。

 ただしどう訓練するべきかは完全に自分で考える必要があって、そこはアルさんに頼ることはできない。

 余談だが『マナに触れる』ことが出来たプレイヤーには、一対一で運営の誰かが付いている。

 その付いている運営は、プレイヤーに合った相手が付けられているように思う。

 俺にとってはアルさんは非常にやりやすい相手であり、お陰で順調に力を伸ばせている。

 

 それはまあ、いいとして。

 アルさんから言われたマナに対する『感度』をどう上げるのかが問題だ。

 普段地脈の中央から触れているマナやマナだまりの解消の時に触れているマナは、質も量も高いものになる。

 例えて言えば多くの川の支流から集まってできている大河のようなもので、アルさんや自分のようなマナを扱える存在が使っているマナはより小さな源流のような量でしかない。

 

 マナに対する感度を上げるというのは、その源流のような量のマナを感知しなければならないことになる。

 言葉にすれば簡単なのだが、ではどうやって訓練するのかということが皆目見当もつかない。

 いや、より正確にいえば一つ思いついていることはあるのだけれど、相手が必要になるので頼んでいいのか少しばかり躊躇している。

 さすがに運営の一人であるアルさんに頼むのも違うのでプレイヤーの誰かに頼まなければいけないのだけれど、マナを扱えるプレイヤーとなると限られる上に皆が忙しく動いているので自分の訓練のために頼むのは若干頼みづらい。

 

 とはいえ遠慮ばかりしていても仕方がないので、時間に空きがあって協力してくれるプレイヤーを探すために広場へと向かった。

 同じサーバーのプレイヤーでマナをある程度扱えるようになっているプレイヤーは少ないので、時間がありそうな人はすぐに見つかるはずだ。

 そう予想して広場にいたプレイヤーの何人かに聞いてみると、管理者の一人で魔女のサキさんが仲間たちと話をしていたという情報を得ることが出来た。

 女子会もどきのトークをしていたらしいのでそこに混ざるのはどうかとも思ったけれど、駄目なら駄目で諦めるつもりだった。

 

「――折角友達と話をしていたのに邪魔してごめん。ちょっと頼みたいことがあってね」

「大したことは話していなかったからいいよ。それよりもキラさんから訪ねて来るなんて珍しいね。何かあった?」

「ちょっとね。マナの訓練で試してみたいことがあるから時間があるなら手伝って欲しいんだ」

「なるほどね。それは私も興味あるかな。そして今ここにいる管理者は私しかいないってこと」


 何故自分のところにと首を傾げていたサキさんだったけれど、すぐにその理由に思い至ったようだ。

 マナは管理者だけじゃなく中央を突破していれば扱える。

 とはいってもやはり管理者になっているとできることが段違いなので、比較する意味でもまずは管理者に手伝って欲しいという理由もある。

 そんなことを話しながら広場の一角に用意された訓練所に向かった。サキさんと話をしていた友人たちも着いて来ていたのは、マナの訓練に興味があるからと言っていた。

 

 訓練自体は別に隠すつもりもなかったので、誰が着いて来ても構わない。

 というか、隠すつもりなら誰かに手伝ってもらおうと考えるはずもない。

 プレイヤーの誰かに相談する時点で、少なくともサーバー内ではオープンになるというのは暗黙の了解となっている。

 着いて来ている皆もそれが分かっているので、これからやる訓練の内容を秘密にするべきかどうかなんてことを確認してくることはなかった。

 

「――それで、訓練場に着いたけれど私は何をすればいいの?」

「マナを体内循環してくれないかな」

「それだけ? 他には何もしなくても?」

「それだけでいいよ。あとは、こっちがその様子を見るだけ……なんだけれど、むしろそっちの方がまずいか?」


 はた目から見るとセクハラだと言れてもおかしくはない状況だと端と気付いて少し焦ってしまった。

 それを見て何を気にしているのか気付いたのか、サキさんは小さく笑って「それくらい構わない」と言ってくれた。

 魔法に限らず何かの訓練をするにはどうしたって他人の動きを見る必要があることは分かっているので、それをセクハラだのなんのといわれると話が進まないことは理解しているようだ。

 幸いにしてサキさんも含めてこの場にいる皆がそれを理解していて、変な騒ぎにならなくてホッとした。

 

 マナは魔力とは違って、通常体内に存在しているわけではない。

 その代わりに周囲にあるマナを取り込んで魔力と同じように循環させることをマナの体内循環と呼んでいる。

 アルさんから最初の頃にそう教わったのだけれど、それはサキさんも同じだったようですぐにマナの体内循環をやってくれた。

 サーバー内で統一された認識なのか、別サーバーでも同じ扱いなのかは分からないが、他の面々も戸惑っていないことから少なくとも同サーバー内では共通認識だということは分かった。

 

 ちなみにマナを体内循環させたからといって、特別な作用が起こるわけではない。

 魔力の場合は様々な効果が得られたりするのだが、マナ自体は体に対してだけではなく周辺環境にも直接的な効果を及ぼすことは無い。

 マナの体内循環を行う訓練は、あくまでもマナを扱うことに慣れるための基礎的な訓練方法でしかない。

 もっとも魔力の体内循環と同じで基礎的であるがゆえに重要な訓練でもある……と思っている。

 

「見られることよりも、何故そんなことをと聞きたいところだけなんだけれど。何かわかったことでもある?」

「うーん。何かというか、アルさん――運営の人から感知能力が低いと言われたから、ちょっと他人が使うときのマナの量を確認しようかと。運営の人は比較にはならないだろうし」

「そういうこと。でもプレイヤーでもかなり差があるんじゃない?」

「まあね。どっちかといえば、他人が動かしているマナを確認すること自体が目的だから、量は二の次だね」


 今回はあくまでも他人が使っている(動かしている)マナを確かめたいだけなので、動かせるマナの量にはあまり注意は向けていない。

 魔力も同じことが言えるが、使っている魔力やマナの量が常に大きな効果を生み出せるわけではない。

 特にアルさんから指摘された転移の感知については、他人に気付かれ難くなるようにわざと少ない量を動かす(使う)こともある。

 だからこそ少ない量で実行できる体内循環を試してもらうようにお願いしたという事情もある。

 

 そんなことを説明しつつ、サキさんがマナを体内循環させる様子を何度か確認できた。

 別に今まで一度も他人がマナの体内循環を行いところを見たことがなかったわけではないけれど、改めて注視すると普段訓練している時と比較すると本当に小さな量しか動いていないことが分かった。

 さらに付け加えると、確かにその程度の量をしっかり把握できているかといわれると曖昧になっていることも分かった。

 それらのことが分かっただけでもサキさんに訓練に付き合ってもらった成果があったと実感することができた。




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