(45)今、思うこと

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 交易についてはともかくとして、本題のアンネリとの結婚については無事に報告ができたので一安心した。

 そのアンネリも実家に残っている弟妹達との交流も出来たようで、満足げな様子だった。

 その弟妹達について気になることがあったので、転移装置に向かう途中の道すがらで聞いてみることにした。

 

「辺境伯のところで式が挙げられないというのはいいとしても、ホームで挙げる式に弟たちを呼ばないというのは本当のよかったの?」

「うん……? 何を気にしているのか、よくわからない……ああ、そういうことね。あなたのところでは家族全員を呼ぶのが普通だったのね」

「そうなんだけれど。そう言うってことは、こっちだと呼ばないのが普通なんだ」

「平民たちがどうかまでは分からないわ。でも貴族はせいぜいが実の親を呼ぶくらいで、兄弟を呼ぶってことはほとんど無いわよ。そもそも領地にいるとき以外は、当主と次代を同じ場所に纏めておくこと自体滅多に無いわ」

「あ~、なるほど。そういうことか。次代は良いとして、他の兄弟は?」

「母親違いの兄弟をどうするのかということもあるし、根本的な問題として貴族の結婚は多量に嫁いだり婿入りすることがほとんどよ。キラは日常的に転移装置が使えるから忘れているかも知れないけれど、結婚式で他領まで家族全員で移動することなんて無いわよ。王都の移動だってほとんどしないのに」

「そっか。すっかり忘れていたけれど、移動の問題があったか」


 転移装置のことも勿論あるけれど、結婚となると前の世界の常識しか知らない状態なので、ついつい前の世界での移動をイメージしてしまっていた。

 新幹線やら飛行機が当たり前にある世界だと国内にいれば数時間で移動ができるので、こちらの世界の移動の不便さをすっかり忘れて考えていた。

 確かに移動のほとんどを馬車で行うとなると、結婚式な重大なイベントであったとしても近親者を気軽に呼ぶなんてことは出来るはずもない。

 

 さらに細かく話を聞いてみれば、女性の貴族が他家に嫁いだ場合の結婚式に呼ばれるのは血のつながった両親くらいで社交のために第一夫人がそれに加わるくらいだそうだ。

 移動には護衛が付くことが当たり前で、血縁者が騎士になっている場合はついて行くこともあるけれど、それは例外的な扱いになっているとのことだ。

 

「うーん……技術力の差か。出来ることなら自分たちでどうにかしてほしいと考えているんだけれど。拡張系の魔道具もそこまで研究が進んでいないんだよなあ」

「だからといってユグホウラで開発されたものを出すのは駄目よ? 自分たちで研究しようするという意欲が失われるわ」

「それはわかるんだけれどね。ただ数百年という時間があってもほとんど発展して来なかったということも事実だからなあ……」

「それは確かにそうかも知れないわね。――それにしても突然どうしたの? 今までは技術は与えるだけじゃ駄目だと考えていたわよね?」

「それは今も変わっていないよ。ただ今の話を聞いてふと思ったんだけれど、もしかしてこの世界、技術の発展にリミッターがかかっていたりしないかなって」

「そんなことがあるの!?」

「いや、無いと思うよ。少なくとも神様みたいな存在がやっているなんてことは絶対に無いと断言できる」


 この世界を創造したのは運営か上司になるのだろうけれど、彼ら彼女らが意図的に介入しているとは思わない。

 そもそもそんな世界であることを強制するのなら、異世界からプレイヤーを呼び込むなんてことはしないだろう。

 もしかするとプレイヤーにその辺りのことを任せるつもりで制限していた可能性はあるとしても、プレイヤーを呼び込んだ時点で解除しているはずだ。

 以前ちょっとした雑談のつもりでアルさんと話をしたときに軽く聞いたことはあるけれど、少なくともこの世界でそんな制限を掛けているとは言っていなかった。

 逆にプレイヤーが介入することを前提にしている可能性もなくはない。

 ただし上司が常々言っている「プレイヤーが好きに行動しているのを見るのが楽しい」ということを考えると運営(アルさん)が余計な介入をしているとは思えない。

 

「ふーん。そんなものなのね。……他の人が言うと何を言っているのかと思うけれど、キラが言うと信じられるのが不思議だけれど」

「あはは。もしかしたら洗脳とかしているかも知れないよ?」

「何を言っているのよ。キラにそんなことができるわけないじゃない。ここまで来るのにずっと待たせた甲斐性なしに」

「グフッ……」


 アンネリが返してきた反撃に、クリティカルヒットを貰ってしまった。

 アンネリの顔は笑っているので、当然のように冗談で言っていることは分かっている。

 ……いや、甲斐性なしは本島のことかもしれないけれど。

 と、とにかく、人を洗脳してどうこうする趣味はないので、アンネリの言っていることは紛れもなく事実なので否定することは出来なかった。

 

「フフフ。それはともかくとして、何を悩んでいるの?」

「悩んで……? そんなつもりは……いや、アンネリにはそう見えたのか。そうか……うーん」

 

 自分としては全くそんなつもりはなかったのだけれど、アンネリからすれば会話の合間に考えていたことを読まれてしまっていたようだった」


「一人で納得していないで、何かあるんだったら話してほしいわね」

「いや、そんな大したことじゃないんだ。どうしてこうも同じことを繰り返し悩み続けるのかなって」

 

 そんなことを言った俺に、アンネリは言葉では返さずに首を傾げていた。


「さっきの技術云々の話だよ。何度も何度も同じようなことで愚痴ったり考え込んだりしているからね。いい加減、安易な方向に進みたくなってきた」

「ユグホウラから直悦技術提供するって話? それだったら拡張袋で様子を見るんじゃなかった?」

「そうなんだけれどね。思ったよりも広まっていないようだから、もう少し手を入れた方がいいかなってね」

「ダンジョンからの供給を増やすの? でも開発力のない国に提供してもあまり意味がないんじゃない?」

「それもその通り。だからついついもっと技術力が上のものを提供したくなってくるんだよな」

「それをするとそれぞれの開発力が落ちるんでしょう? 私もそれは正しいと思うわ。技術開発なんて何年もかかるのが当たり前なんだから、もう少し様子を見ましょう」

「そうだよなあ。……ごめん。またただただ愚痴を聞いて欲しかったみたいだ」

「んふふ。気にしなくてもいいのよ。それでキラの気がすむんだったら」


 目を細めて楽しいと嬉しいが混じったような表情になってそう言ってきたアンネリに、「ありがとう」と返した。

 アンネリにしてもアイリにしても眷属たちとは違った方面で頼りにできる存在になっているんだと、その顔を見て改めて感謝した。

 アンネリと出会ったばかりに頃にはこんなことを考えるようになるなんて欠片も考えていなかった。

 それが今ではここまで寄りかかることが出来る存在になっていたのだと。

 そんなことを考えて、前世(?)では考えられなかったプロポーズをする勇気を出して良かったと本気で思えた。

 

「どうしたの……?」

「いや。なんでもない」


 そんなことを考えていたら不思議そうな顔を見て首を傾げながらそう聞いてきたアンネリに、小さく笑ってそれだけを答えた。




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