(42)圧倒的パワー

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 この世界において魔力量は生まれ持っただけのものではなく、鍛え方によっては増加させることが出来る。

 ただし修練によって急激な変化を起こせるのは成長期を多少過ぎた辺りまでと言われていて、その後は緩やかに増やすことしかできない。

 それでも戦闘中に使える魔法の数が増やせればそれだけ魔法使いとしての格を上げることができるので、魔法を使う職に就いている者にとって魔力増加はもっとも重要な課題といっても過言ではない。

 だからこそポーションや魔力回復系のスキルに頼ったり、人の道を踏み外すような外法と呼ばれる手法に頼る者も後を絶たなかったりする。

 それほどまでに重要な魔力量だからこそ、目の前でアンネリが急激に魔力量を増やした事実にヒルダはもとより、辺境伯や見学者たちもあり得ないものを見たような顔になっていた。

 アンネリが自分自身の持つ魔力を隠してこれまで戦っていたというのであれば、まだ分かりやすかったのかもしれない。

 だが超が付くエリート魔法使いであるヒルダが、そんな小細工に気付かないはずないない。

 もしくはアンネリがヒルダを相手に隠し通せていたのであれば、それはそれで最初から適う相手ではなかったということになる。

 

 勿論、ただ単に魔力量を上げただけですぐに戦闘に勝てるようになるというわけではない。――常識的に考えれば。

 魔力が増えた量が倍程度であれば、ここまでヒルダが焦るようなことは無かっただろうと思う。

 けれど今回アンネリが増やした魔力量はそれどころではなく、それこそ『常識』の範疇では収まらないほどの増加量だった。

 それほどの量の魔力を使って何ができるようになるかといえば――、

 

「お母さま、いきますよ? しっかりと防いでください」

「ちょ、ちょっと待っ……キャアアア!?」

「ヒルダ!!」

 

 まともにアンネリからの魔法攻撃を攻撃を喰らったヒルダが、おおよそヒルダらしくない悲鳴を上げながら吹っ飛んで行った。

 それでもしっかりと冷静に落ち着いて地面に着地できたのは、さすがは二つ名持ちの高ランク冒険者といったところだろう。

 

 これほどまでにあっさりとヒルダが吹き飛ばされたのには、きちんとしたわけがある。

 ごくごく簡単な話で、仕える魔力の量が増やせれば使う魔法の威力を増加させることが出来るようになるためである。

 魔法を使って戦う際には自分の中にある魔力の調整しつつ戦うことになるので、早々簡単に大威力の魔法を使うことなどできない。

 逆にいえば、相手の持っている魔力よりも自分自身の魔力が大幅に超えていると確信できれば、その分だけ威力を増やすことが出来る。

 

 そもそも余程の偶然と奇跡が重ならなければ、人種が持つ魔力などさほど大きな差ができるわけではない。

 もっともこれは人外の生物から見た観点で、人種の中ではその差が大きな違いとなることが往々にして起こる。

 アンネリが現在魔力量は、その人種が持ち得る魔力量をはるかに超えた量となっていた。

 そして何故それほどまでの魔力をアンネリが持ってるかといえば、それは彼女自身の魔力というわけではなく外から――もっといえば地脈の力を借りているというわけだ。

 

「――とんでもないわね。一体何をしたの?」

「おや。今はそんなことを気にする余裕はないと思うわよ?」


 ヨロヨロと立ち上がりながらそう言ってきたヒルダに、アンネリはこれ以上続けるつもりがあるならさらに追撃をするという意思表示をして見せた。

 それに対してヒルダは、即座に両手を上げて降参をしてみせた。

 圧倒的な魔力量を持つ今のアンネリであれば、端から見れば無駄な使い方をしてとんでもない強度を誇る結界を作ることもできる。

 その結界を破るためのイメージが持てない以上、ヒルダが降参するのは当然のことだといえる。

 

 ヒルダが降参の意思を示したことで、アンネリはすぐに地脈からの魔力供給を止めた。

 イメージ的にいえば、アンネリの周囲に纏わりついていた魔力が一気に霧散したように感じたはずでる。

 実際には地脈へと纏っていた魔力を戻しているのだけれど、はた目にはそんなことをやっているようには見えない、または感じとれないはずだ。

 地脈から吸い上げた魔力を元の場所に戻すのは、生のままの魔力を周辺に散らすことがあまり世界にとって良いことではないと分かっているためだったりする。

 

 アンネリの周囲にあった魔力がなくなり、周囲で模擬戦を見ていた者たちの中には大きくため息を吐く者がいた。

 魔法が使える者、魔力に対する知覚が過敏な者ほどその傾向が大きかった。

 魔力そのものに『圧力』があるわけではないけれど、アンネリがそれらの魔力を使って魔法という現象を起こした際に何が起こるのか、よくよく理解できている者たちだということもできる。

 大きな魔力が無くなったことで、それらの可能性も無くなったとようやく恐怖の感情が亡くなったといったところだろうか。

 

「――参ったわね。まさかとは考えていたが、本当に降参することになるとは思わなかった。何をしたのか聞いてもいいのか?」

 悔しさを隠しきれない顔でそう言いながら近寄ってきたヒルダに、アンネリはニコリと笑い返していた。

「それを聞くのはご法度よ。――と、言いたいけれど、構わないわ。聞いたところでお母様が実行するかどうかは分からないけれど」

「ほう? できるかどうか、ではなく実行するかどうか、なのか」

「ええ。だって私がやったことは、お母様が――ではなく、上位者たちが必要ないと切り捨てて来たことだもの」

「……そう言われても分からないな。もったいぶらずに、さっさと教えてほしいものだが……」


 アンネリが「上位者」と言ったのは、魔法を使う者たちの中でも特に評価されている者たちのことを指している。

 ヒルダに限らずそうした上位者は、必ずと言っていいほど昔からを否定してきた。

 そのあることというのは、上位者ほど実戦で魔法を使う能力を磨いてきたという事実と、昔から受け継がれて来ていた常識によって否定され続けて来たという歴史的な事実があった。

 

「別にもったいぶっているわけではありません。お母様も私が弟子たちに何を教えているのか、きちんと把握しているのよね?」

「何を言われてもだな。彼らはほとんど実践的なことは教わっていないと……まさか?」

「ええ。そのまさかよ。魔力操作や瞑想、そう言った非実践的な修練の行き着く先が今私がやったアレに繋がる――と言ったら信じますか? まあ、私はどちらでも構わないけれど」


 アンネリが弟子たちに教えていることや講義で教えたことは、未だに半信半疑という様子で受け止められている者たちもいる。

 それは、今現在上位者と言われるような立場にいるほど傾向が強い。

 そもそも魔力操作の訓練をせずに今の地位にまで上り詰めて来た者たちばかりなので、そうなるのも仕方ない面はある。

 勿論、アンネリが講義をして名が知られるようになったときのように、使えるものは使うと受け入れる者も一定数はいるのだけれど。

 

 対してヒルダはどうかといえば、特に驚く様子もなく何かを考える様子になっていた。

 そもそもアンネリがどういう行動をとっているのかを調べているだけあって、ある意味では予想の範囲内だったのだと思われた。

 ただし弟子たちの様子を伺っていても自分には関係ないという考えていたのをアンネリによってその常識を打ち砕かれたといったところだろうか。

 もっともその顔を見れば落ち込んでいる様子はなく、むしろ今後どう対処していくべきかと考えているように見えるのはさすがというべきか。

 

 ヒルダのとにかくとして、アンネリの目標であった自分の実力を認めさせるということは達成することができた。

 あとはこの結果を受けて辺境伯が何を言ってくるのかというとろだけれど、少なくとも約束を反故にすることだけはないだろうと思う。




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