(37)亀さんの日常5
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< Side:タートル >
眷属からD国で起きかけている問題の話を聞いてから数日後、僕はA国の城を訪ねていた。
A国は初めて僕らと直接の関わりを持つようになった国で、しっかりとした信頼関係も築けている。
ただ僕らのことが関わると暴走気味になることが玉に瑕で、今回も釘をさすために来ることにした。
もっともA国とは商業的な取引も行っているので、その話し合いにかこつけてという事情もある。
僕の眷属たちは人族が作る物に中々興味を示すことは無いのだけれど、酒類に関しては自分たちで作るよりも美味いらしくA国にとってもいい取引になっているようだ。
そんな取引について一通りの話を終えた後に、話相手である国王に例の話を切り出した。
「――ところでD国で妙な思想が流行っているみたいだけれど?」
「D国……? ああ、あそこのことですか。制裁が必要ならすぐに動きます。御亀様のことなので、こちらが特に動く必要はないと考えておりました」
「うん。それでいいんだけれどね。他の国がうるさくなっているんじゃないかなと思ってね」
「確かにそれはそうですが、御亀様と直接対話したことのある国は理解しておりますから妙なことにはならないでしょう」
「それならいいんだけれどね。あ、勿論、自衛するなということを言っているわけじゃないから」
「ありがとうございます。そのお言葉だけでも十分でございます。……ただ、かの国が行き過ぎた場合は制裁が必要になるとは思いますが?」
「その辺の加減は特にこっちから指示するつもりはないかな。それこそ国同士のやり取りなんだから、口を挟むつもりはないよ」
今のところ人族至上主義の国々がまとまったとしても、それ以外の国々が負けることは無い。
ただし人族至上主義の国々が、本気でまとまって戦争を起こしたりすると犠牲が多くなることは目に見えている。
そうなる前に代表国であるD国を叩こうと判断するのであれば、それはそれで構わない。
そこはあくまでも国家としての考え方なので、こっちからそれに対して何かを言うつもりはない。
もし眷属たちの手を借りたいというのであればまたそれは別の判断が必要になるけれど、そこまでのことにはならないはずだ。
それに万が一手を貸してほしいと言ってきたとしても、それはそれで構わないとさえ考えていた。
「――それにこっちとしては何もしないというわけではない……いや、違うか。むしろ何もしなくなると言った方が分かりやすいかな?」
僕がそう言うと、国王は一瞬だけ考えるような顔をしてからすぐにいつもの表情に戻った。
「それはそれは。かの国がそれで理解をすればいいのですが。……いや、無理でしょうね。いかに自分たちが守られていたのかと理解できた時には、既に周りから喰われて終わりになるでしょうな」
「へえ。そこまでのことになると思うんだ。僕らだとどうしても国家の運営には疎いところがあるからね」
「あくまでも予想の一つではありますが、そうなる確率は高いはずです」
「そうなんだ。まあ、人の国は人の国で互いに管理するのが本筋だからね。さっきも言った通りこっちが口を挟むつもりはないから好きにするといい」
「ええ。他国ともそのように話を進めておきます。裏切る国が出た場合は――それでもあまり結果が変わることはありませんな」
目の前で笑いながらそう言った国王は、既にD国の先行きについてある程度見通しを立てているようだった。
それが捕らぬ狸の皮算用にならなければいいかとも思うけれど、そもそも僕自身も似たような予想を立てているので国王のことをどうこう言うことは出来ない。
D国が自然発生する魔物の対処に追われることは目に見えてるので、とてもではないけれど周辺国家に手を出す余裕などない。
それがわかっているからこそ、A国の国王も余裕を見せているのだ。
勿論それだけで簡単にD国に攻め込むことが出来るようになるというわけではない。
案外D国はそのカウンターを狙っている可能性もあるので、最初のうちはD国が疲弊するまで『待ち』の状態のままでいいと考えることもあるはず。
「そう。それならそれでいいけれど。どちらにしてもすぐにどうこう動くこともないはずだから、配下の者たちと話し合う時間はまだまだあるだろうね」
「そうですな。今の話はあくまでも一つの方向性ということでお願いいたします」
「構わないさ。どっちにしても余程のことが起こらない限りは、しばらくのこちら側の動きは伝えたとおりになる。あとは色々なところと話し合って決めるといい」
「ですな。わが国もしばらく泳がせるという選択肢もあります。どうなるかはまだこの段階では確定することはできません」
国王の言葉に僕も「そうだろうね」と返した。
一応A国は君主制を取っているとはいえ、何から何まで国王が決めることができるというわけではない。
いざとなれば強権を使ってトップダウンで動かすことが出来るとはいえ、今は国家の存亡の危機と言えるところまで行っているわけではないので、何かしらの話し合いは必要になるはずだ。
そもそも国王自身がいきなり武力に訴えるような手段を考えていないので、いきなりA国からD国に攻め入るということにはならないだろう。
とにかくA国への確認と釘刺しは、ある程度予定の範囲内の反応で終えることが出来た。
思ったよりも気が逸っていなかったことが予想外ではあったけれど、D国の反応を見て呆れているのであればそうなるのも当然だともいえる。
その後はA国に続いてB国とC国にも向かったが、こちらも似たり寄ったりな反応だった。
そもそもA国が一番暴走しそうな国家筆頭だっただけに、他の二か国に関してはより「そうなるだろうな」という感想になった。
D国がどの程度こちらの魔物の間引きについて把握しているかは分からないけれど、敵に回して勝てると判断しているだけでもアウトな分析能力だと思う。
もしかすると国内だけであれば対処できると考えているのかもしれない。
とはいえ魔物の生息が多い森の中に一切入らずに国家運営ができるはずもなく、いずれは立ち行かなくなって何かしらの行動に出ることになるはずだ。
そうなる頃には周辺各国がD国の状況を把握して、うまく立ち回ってくれると期待したい。
「――さて。これでD国がどれだけうまく立ち回ったとしても、人族至上主義が広がることは無い……と思いたいところだね」
「ここまでやってもまだ油断は出来ないということでしょうか?」
「どうだろうね。単純に人族至上主義だけを広めたいと考えているのであれば、D国という国自体が残っても残らなくてもどちらでもいいともいえるだろうからね」
「……国家の形態であることは目くらましということですか。タートル様は、裏にそうした人なり組織があるとお考えということですか」
「これまで三つの国と話をしてきたけれど、もしかしたらそういうこともあり得るかもと思っただけだよ。実際にそんな組織があるかどうかは分からないさ」
「すぐに調べます」
D国の動きに裏があるのではという疑念はただの思い付きでしかなかったけれど、考えれば考えるほどそっちの方がしっくりと来る。
そもそも最近まで人族至上主義なんて思想すらなかったD国が、いきなりそれを国是として掲げたこと自体が不自然に思える。
とはいえそれはあくまでも自分の想像でしかないので、裏はしっかりととる必要があるだろう。
そんな僕の思いを感じ取ったのか、話を聞いていた眷属の一人が、わずかに顔色を変えて動き始めていた。
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