(35)亀さんの日常3
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< Side:タートル >
周りのテーブルに座っている何人かのプレイヤーがこちらに注目していることに気付いていたけれど、こちらまで歩いてきたキラのことを無視するわけにはいかず内心でちょっとだけ慌てつつこちらから話しかけることにした。
「何かありましたか?」
「うん? いや、そんな身構えられるようなことじゃないんだけれどね。前に魔物の卵が欲しいって話していたよね?」
「え、えーと……? あっ! あれですか。確かにそんな話も……って、まさか!?」
「うん。少し時間がかかったけれど、何とか手に入ったから持ってきてみた。特に何か約束していたわけじゃないからこっちが勝手にやったことだけれどね。欲しいんだったら譲るよ」
「それは勿論、欲しいです。でも、ただは駄目ですよ。他のプレイヤーのためになりませんから」
自分が勝手にやったことだからとただで渡されそうな雰囲気を感じて、先に忠告をしておいた。
その懸念が杞憂じゃなかったことを示すかのように、キラは僅かに苦笑しながらも頷き返してきた。
キラほどに影響力があるプレイヤーが、自分の趣味でやっただからとただで物を配り始めると問題になりかねない。
親しき中にも礼儀ありではないけれど、普段金銭が絡むようなやり取りの場合は安易に譲り合ったりするのは駄目だというのがプレイヤー間の暗黙の了解になっている。
今回キラが持ってきてくれた卵は、今みたいな雑談中に冗談のようなやり取りの中から出て来た話が元になっている。
まさかそんなほぼ冗談のようなことで本気で動いてくれるとは考えておらず、こちらも半ば忘れかけていたのでさっきみたいな対応になってしまった。
その冗談のような話というのが何かといえば、元が『亀』の僕が『鶴』の眷属を持ったら何かシナジーのようなものが出るのではないかというものだ。
その話が出た時には仲間同士でそんなバカなと笑いあっていたのだけれど、たまたま近くにいたキラがその話に興味を持った結果が今になる。
僕がいる世界には鶴、もしくはそれに似た系統魔物はおらずただの冗談だけで終わっていたのだけれど、元いた世界とほぼ同じ土地になっているキラの世界には鶴系統の魔物もいるらしい。
わりとあっさり探してみると言われた時には驚いたのだけれど、言ってきた当人であるキラは割と気楽に言ってきていた。
プレイヤー同士で魔物の卵をやり取りするのはキラが先駆者で今でも人気のある素材の一つなのだけれど、当人にとってみればその程度で終わることらしい。
話が出てから数か月と経たずに目的の卵を探し出してきたのも、広大な土地を管理しているキラだからこそできることだと思う。
そんな好条件のキラが持ってきた卵をタダで受け取ったとなると、周囲からの視線が痛いことになる。
それだけは何が何でも避けなければならないので、これだけはキラが相手でも絶対に譲ることは出来ない。
「それならまあ、相場通りでいいか。といっても鶴系の魔物の卵がどの程度の値段なのかは分からないんだよな」
「相変わらずその辺は大雑把ですね。僕も人のことは言えませんが」
「アハハ。領主やっていると魔物の種類なんてたくさんいすぎて一々全部を把握なんて出来ないからね。仕方ないといえば仕方ないけれど、それはまあいいか」
そう言ってから周囲を見回したキラだったけれど、すぐに近くにいた商人系プレイヤーを見つけて値段を確認していた。
そもそも『卵』の状態である以上はどの種族が生まれて来るかなど完全に特定することは出来ないいのだけれど、売る方も買う方もそこは織り込み済みで取引することになる。
商人系プレイヤーが提示した値段はごく当たり前の範囲内で収まっていて、僕は勿論のことキラもすぐに納得して取引成立となった。
キラにとっては値段は本気でどうでも良かったようで、考えるそぶりも見せることなく即座にこちらにどうかと聞いて来ていた。
僕自身も同じところがあるのだけれど、領主系のプレイヤーは持っている土地が広くなればなるほど魔物の卵を入手する機会も増える。
ついでに卵一つ分の値段など領地経営に比べると微々たるものになってしまうので、あまり細かい値段に興味を持てないという気持ちもよくわかる。
「――それにしても亀に鶴か。上手くいったら中々面白いことになりそうだね」
「確かに。ただ本当にうまく行くかどうかはやってみないと分からないところがありますよ?」
「それはそうだ。こう言ったらなんだけれど、どちらかといえばうまく行かないだろうなと思っているくらいだからね」
「それを聞いて安心しました。実のところ、話が盛り上がったのは良いとしても、今のところ上手くビジョンが全く見えませんから」
「新しく試すことはどうしてもそうなるかな。こういうことってトライアンドエラーで数をこなすことの方が重要だろうし」
「そうですね。とりあえずは眷属として数を増やすことを目標にします。進化先が増えればそれだけ目的に適うかもしれませんから」
思い付きで言ったことだったけれど、キラも「それがいい」と同意してくれた。
キラが何が何でも成功させろと言ってくるような人ではないということは分かっていても、何かしらの期待が向けられるかもしれないと思っていたのだけれどそれすらも無かった。
卵を渡すのはシステムを通してということになったので、キラはここで分かれて仲間のところへと戻って行った。
その姿を見てホッと大きく息を吐きだすと、他の仲間たちが何やらニヤニヤとこちらを見て来た。
「タートルは相変わらずだな。相手がキラだからということはよくわかるが、どちらかといえば尊敬というよりも推しを見ているような感じに見えるぞ?」
「ウッ……し、仕方ないじゃないか。直接会話するとどうしてもああなってしまうんだ」
「ハハハ。まあまあ。その気持ちも理解できなくはないから気にするな。それよりもさすがキラといったところだか。こんな簡単に目的の卵を見つけて来るとは」
「話に聞く限りだけでも世界の半分以上は領域に入っているらしいからね。それに管理している眷属の数も比べものにならないだろう? 僕もそうだけれど多くは眷属に任せているだろうしね」
「理屈は分かるが……いや、領地持ちだと多かれ少なかれそういうことになるのか。ダンジョンマスターとはやはり根本が違っているな」
そんなことを言ってきた有人の一人は人外系のダンジョンマスターなので、領地持ちの僕らとは眷属に対する考え方が根本から違っている。
土地を守るものとダンジョンの階層を守るもので似ているようにも思えるけれど、守り方そのものが違っているので扱いが変わるのは当然のことだと思う。
「眷属の在り方の違いか……。考えてみたらその辺のことってあまり議論されていなかったような……」
「……確かに。タートルの言う通りかもしれないな」
ただの思い付きで言ったことだったけれど、友人たちは顔を見合わせてから頷いていた。
既に管理者になるためのルートが判明している以上は本筋とはあまり関係の無いことかもしれないけれど、特に人外系にとって眷属の存在はそれぞれの世界での『攻略』に大きく関わって来る。
たとえそれが些細な内容であったとしても場合によっては生死に関わることになりかねないので、ただの思い付きとはいえ見逃すことはできない。
丁度この場には領地持ちとダンジョンマスター両方がいるので、議論が白熱することになったのは当然の結果だったと思う。
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m(__)m
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