(34)亀さんの日常2

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 < Side:タートル >

 

 いつものように領内の確認を終えた後は、これまたいつものように広場に向かうことにした。

 僕の場合は温泉が好きとか嫌いとかは別にないのだけれど、あそこがプレイヤー同士の交流の場になっていることは間違いない。

 掲示板からでも情報の入手はできるのだけれど、やっぱり直接会って話をすると掲示板では得られない話やひらめきを得られたりすることがある。

 だからこそ僕に限らず多くのプレイヤーは、温泉施設に用意されている広間で雑談をしていることが多い。

 もっともこんな世界に選ばれていることもあって、中にはコミュ障気味なプレイヤーも存在はしている。

 そういう場合は掲示板で情報を仕入れることになるので、ここでされた雑談以外の必要になりそうな話のほとんどは掲示板やメモ帳に纏められることになる。

 

 ちなみに広場に来るときには基本的に入浴がセットになるので、連れて来るのは男性型の眷属を連れてきている。

 亀の姿のまま一人で来ることもできなくはないのだけれど、やはり移動が遅くなってしまうことは亀としてはどうしようもない。

 魔法を使えば早く移動することは可能だけれど、そもそもくつろぎに来ているのに本末転倒になってしまう。

 女性型ではなく男性型の眷属が一緒なのは、わざわざ風呂場で威勢の眷属を他プレイヤーに見せびらかすような趣味がないからだ。

 

 いつもよりも少し早めについたためか風呂場には誰もいなくて、最初は眷属と二人だけで入ることになった。――とか言いつつ、僕自身は亀の姿のままなので二人と言っていいのかは不明だが。

 今ではほとんど気にするプレイヤーはいないが、当初は人外系が一緒にいると気にする人もいるだろうと人外系専用の風呂場が用意されている。

 僕のような爬虫類系だとそこまでだけれど、獣系になると抜け毛が必然的に出るので用意されていた。

 もっとも人族だって髪の毛が抜けたりするだろうといわれるとそれまでなのだけれど、初期の頃に用意された場所をわざわざ取り壊す必要もないだろうと今でも活用され続けている。

 

 そんな風呂場の湯船に漬かって一分も経たずに、ゴブリン系のダブリンが入ってきた。

「お? 珍しくタートルが早いな。何かあったか?」

『いやー、特には。たまたま仕事が早く片付いたから来ただけだね』

 

 亀の姿のままだと普通の喉を震わせる人式の発声方法は使えないので、魔法を使った方法で返す。

 この方法は人外系だとある程度魔力操作ができるようになるとスキルとして使えるようになるので、割と一般的な方法になる。

 ただし僕がこのスキルが使えるようになった頃は、プレイヤー同士の直接交流は出来なかったので宝の持ち腐れ状態になっていた。

 特に眷属はわざわざこの方法を使わなくても会話が出来ていたので、人族との交流がほぼ無かった僕みたいなプレイヤーは同じような状況だったはず。

 いきなりこの方法を使って住人に話しかけたところで、警戒されて即反撃ということを繰り返していたプレイヤーも多いと思う。

 

「そういうこともあるか。ところで最近どうよ? 前は領地運営で悩んでいるとか言っていただろう」

『前? ……ああ、あれか。そう考えるとダブリンとこうしてサシで話したのは久しぶりだね。――領地に関しては相変わらずだよ。もうずっとついて回るとあきらめがついたかな』

「そうか。領地持ちでもその辺は違いがあるみたいだからなあ。もう少し緩くやるプレイヤーもいるだろうに」

『まあ、プレイヤーごとの性格の違いがあるからなあ。それはダンジョンマスターだって同じだろう?』

「それもそうか。キラとかだと割と放置気味にしているんだろう? 国との関与は」

『そうみたいだね。もっともキラの場合は、完全放置しても全く問題がないからともいえるけれどね』

「あ~、それもあったか。その辺りが第一陣と第二陣の違いになっていそうだな」

『確かに。もっともキラの場合は一陣でも突き抜けているだろうけれどね』

「そもそも第一陣に数えられている人数が少ないからな。そこは比較しても仕方ないか」


 そんないつものあいさつ代わりのような会話をしつつ、適当な時間を過ごしていた。

 まだ時間が早かったのは確かで、そろそろのぼせそうだと思えて来たところで湯船からは上がって休憩スペースへと移動した。

 温泉施設には休憩スペースが併設されていて、温泉と休憩スペースのどちらを先に利用するかはそれぞれのプレイヤーによって違っている。

 僕のように会話兼情報収集がメインになっているプレイヤーの中には、温泉そっちのけで他プレイヤーと交流していることも珍しくない。

 

 僕が休憩スペースに戻った時はまだ人がまばらで良く話をしているプレイヤーはいなかったので、適当な場所に座って話をする相手が来るのを待つことにした。

 一人でいるプレイヤー程誰かと待ち合わせをしている可能性が高いので、既に複数人で集まっているところでもない限りは乱入することはない。

 誰かが言い出したのかは分からないけれど、それがここのスペースを利用する場合のルールの一つになっている。

 ただルールといってもそれほど強く縛られているわけでもないので、そのルールを破ったからといって何かペナルティのようなものがあるわけではないのだけれど。

 

 湯船で一緒になったダブリンは、既に別のグループのところに混ざって何やら話をしている。

 と言いつつ僕自身も別のメンバーと話をしているので、寂しい思いをしているわけではない。

 そこでされていた話も『ゲーム』の攻略に繋がるようなものではなく、本当にただの雑談としか言いようのないものしかしていなかった。

 ――休憩スペースにとある変化が訪れるまでは。

 

 スペースの少し奥まった場所を陣取っていた僕たちは最初気付かなかったのだけれど、入り口付近にいるグループから徐々にこれまでの様子から変わったことでに気が付いた。

「――キラが来たか。ラッシュと一緒というのは久しぶりじゃないか?」

「お互いに忙しそうにしているからな。個別に来ることは珍しくないけれど、二人の時間が合ったのはその通りじゃないか?」

 同じテーブル話していた仲間のうちの二人の言葉に、僕も無言のまま頷き返した。

 

 別にキラやラッシュのような第一陣が僕らに対して威圧をしているというわけではない。

 それでも僕らのサーバーを第一陣が引っ張ってきたことは事実であり、今もなおその役割を担っているということで一定以上の注目を集めていることは動かしようのない事実だ。

 だからこそ彼らがどういう話をするのか、周辺にいる者たちがそれまでとは違って話し声の音量が下がるになるのはいつもの光景だったりする。

 彼らの場合、何気ない会話に重要なヒントが隠されていることもあるので、できる限り聞き逃しがないと考えるのも仕方のないことだと思う。

 

 そんな第一陣メンバーが空いてる隻を見つけてそれぞれの席に落ち着――こうとしたところで、キラがキョロキョロと見始めた。

 その様子から誰かを探しているのはすぐに分かったのだけれど、どういうわけか僕と視線が合った瞬間に笑顔になったことで思わずドキリとしてしまった。

 何もやましいことなしていないのに、警官から職質を受けると緊張してしまうあの時の心理状態に似ている。

 さらにいえばその行動だけで自分にも周囲からの注目が集まることが分かって、猶更何事かと緊張してしまったのは仕方がないと思う。




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