(33)亀さんの日常1

本日から何話かは通称『亀さん』の話になります。


§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 < Side:タートル >

 

 僕の名前はタートル。現在の種族は、幽玄奔流武神という亀系の魔物の一種になる。

 一言で言ってしまえば玄武の一種と思ってもらって間違い……と思う。

 正直に言ってしまうと『ゲーム』を進めるために色々と試した結果、多くの種族に進化しているので自分が今何の種族であるかというのは余り気にならなくなっている。

 基本になっている種族が玄武であることは間違いないので、単に玄武の一種だと説明することの方が多い。

 そもそも自分の種族を説明する機会はプレイヤー相手になることがほとんどなので、あまり細かい種族名を気にされることはほとんど無い。

 魔物の種族名が『名は体を表す』のは間違いないとは思うのだけれど、プレイヤーにとってはさほど重要な情報ではないのだから。

 

 今でこそ御大層な種族名が付いているけれど、ゲームが始まった当初はただの『イシガメ』だった。

 初期の頃はそれこそ食事をするのにも苦労していたけれど、今では立派な一国一城の主だ。

 実際には、戦国時代の頃の『一国一城』とは比べ物にならないくらいの広さの国を治めているのだけれど、それはいいか。

 とにかくでっかい土地を管理しているということで。

 

 ちなみに僕が管理している土地には、人も魔物も住んでいる。

 人と魔物が交わると必ずトラブルに発展することは、誰が考えてもすぐに分かるだろう。

 だから人と魔物が住む領域はきっちりと分けて、お互いに踏み込まないようにしていると意外に何とかなるもんだ。

 それでも調子に乗った者が出て来るのは人も魔物も変わらず、その時は僕の眷属や自分自身が出ることになる。大抵は眷属だけで済んでしまうのだが。

 

 今の自分があるのは『木の人』のお陰。そう考えている人外系プレイヤーは多いはず。

 というよりも僕自身は、それを認めない人外系プレイヤーに会ったことはない。

 勿論、プレイヤーそれぞれが頑張った結果今があるわけで、それ自体を否定する者はいないだろうけれどね。

 木の人――キラがきっかけになって人外系プレイヤーの成長を促してきたことは紛れもない事実だ。

 

 キラ自身は今では人なのか人外系なのかよくわからない存在になっている。

 人ではないのは確実なのでそういう意味では人外であることには間違いないのだけれど、かといって他の『人外系』と一緒にするのも違うと思う。

 もっとも人でありながら『世界の管理者』になったプレイヤーも同じであると言えるのかもしれない。

 人や魔物に限らず世界の理から外れた(か、殻を破った)存在という意味では、管理者は僕も含めた他のプレイヤーとは違う一線を画す存在になっていると思う。

 

 プレイヤーによっては管理者は(今のところ)目指さないという人もいる。

 でも僕自身はできる限り狙っていくつもりでいる。

 明確な目標があるのに目指さないというのももったいないし、折角人外に生まれたのならその頂点と目指すのは少なくとも僕にとっては当たり前のことだと考えているから。

 ただ人それぞれということも理解していて、特に人種になっているプレイヤーの中には今の人生を楽しみたいと行動している人もいてその気持ちも理解できる。

 

 僕がいるサーバーは、そういう意味では非常にバランスが取れたプレイヤーが所属していると思う。

 キラをはじめとした先駆者たちが行動してきた結果、多くの情報がサーバー内のプレイヤーに与えられているのだから。

 勿論、先駆者たちだけではなく地道にそれぞれ自分のペースで『ゲーム』を進めているプレイヤーたちからもたらされる情報も何一つ無駄なものはない。

 そうした情報が積み重なって今の自分たちがあるというのが、ほとんどの先駆者たちの考え方らしい。

 

 そんな先駆者たちに感謝しつつ今日も今日とて運用している領地に関する仕事を終えた僕は、最後に大事な眷属の一人に様子を確認することにした。

 ちなみに玄武である僕がやっている調整は、領地内に流れる魔力を整えること。

 一周目の時には世界樹だったキラはごく自然に出来ていたらしいが、残念ながら僕の場合は自分自身で意識して行わなければならない。

 これに関しては種族的な差も勿論あるけれど、どれだけ普段から無意識に歪みや魔力の調整が出来ているのかが重要だということになっている。

 

「――よし。今日の調整はこの辺でいいかな。領地の様子はどんな感じ?」

「問題ありません。いつも通り小競り合いが起こった程度です」

「なるほど。それは確かにいつも通りだね」


 眷属からの答えを聞いて、僕はそう答えた。

 ちなみにこの小競り合いというのは、人族の冒険者と魔物の戦闘だったり、魔物同士の縄張り争いなどのことを言っている。

 実際には命のやり取りをしているのでそれぞれの当事者にとっては大事だが、こちらからすれば大したことにはならない。

 扱い領地が大きくなるにつれてそうした小競り合いはあちこちで発生していて一々首を突っ込んでいられないということもあるが、その程度のことなら眷属たちが管理や監視しているので僕の立場では問題にもならないともいえる。

 特に魔物と人はその生存をかけて対立することが多いので、こちらが首を突っ込むと逆に問題が大きくなってしまって結果的に犠牲が増えることになってしまう。

 

 というわけで今日の『業務』を終わらせたらあとは、自分のための自由な時間になる。

 別にそんな切り分けする必要はない……というか、多くのプレイヤーはもっと自由にやっているのだけれど、こればかりは性分なので仕方ない。

 公私の切り分けというほどではないけれど、こうしてきっちりとわけて行動した方が自分にとってはやりやすい。

 それに日本にいた時と違って『仕事』の時間に八時間以上取られるなんてこともないので、楽だと感じている。

 そんなことが出来るのも眷属の皆のお陰なので、感謝しかない。

 

 自分のための時間が出来たといっても、あまりやることは変わりなかったりする。

 公としての仕事は領内の魔力を整えることで、自分のための時間もまた魔力の扱いのための勉強をしたり訓練をしたりするのだから。

 世界の管理者になるためにはそうした訓練が必須になることは分かっているので、どうしても外すことは出来ない。

 

 キラの場合は、管理者になるためにインテリジェンスブックを手に入れていた。

 ただ多くの人外系は基本的に人族からは敵認定されていることが多いので、人の手によって作られた本を手に入れるのは難しい。

 本を手に入れるために国に攻め入るという手段もないわけではないのだけれど、後々のことを考えればできる限り取りたくはない手段になる。

 集団になった時の人が手ごわいことは、過去に人として生きていた経験からしてもよくわかっているからだ。

 

 では人外系の場合は管理者になれないのかといえばそんなことはあるはずもない。

 要はマナに対する知見が増えればいいということなので、何かしらの方法はあるだろうと多くの人外系プレイヤーが様々な方法が試されている。

 インテリジェンスブックは運営が用意した『意思のある本』なので、それに似た何かしらが用意されているはずだというのが大方の意見だ。

 早い話がインテリジェンスブックに宿っているモノが精霊だとして、それと同じような存在がいるのではないかと考えられている。

 

 その存在を探すために今日も今日とて領域内を歩き回ることがいつもの日課になっている。

 領域内だけではなく地脈の中も隅々まで探索することもあるのだけれど、今日は主に地表を歩き回ることにした。

 とはいえ早々簡単に見つかるはずもなく、ただの定期巡回じゃないのかと言われることもあったりするのだけれど、そこはそれだと答えるまでがいつものセットになっている。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


フォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る